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[連載:伊藤直也④] 日米エンジニアの特長をマッシュアップすることで生まれる「新しい世界企業」のカタチ

公開

 
グリー・伊藤直也のソーシャル開発記
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グリー株式会社 開発本部  ソーシャルメディア統括部長  プロデューサー
伊藤直也

2002年に新卒入社したニフティでブログサービス『ココログ』の開発担当となり、一躍有名になった若きトップエンジニア。その後、はてなで『はてなブックマーク』など各種サービスを立ち上げ、2010年にグリー入社。自身のブログ『naoyaのはてなダイアリー』なども人気だ

ご存知の方も多いかもしれませんが、最近のグリーはソーシャルゲームプラットフォームの世界的企業OpenFeintの買収や、北米オフィス始動、アジア・欧州・南米での子会社設立など、海外進出を続々と進めています。

僕個人としては、グローバルに実績を上げてきた企業を M&A しながら、日本企業がグローバル企業に塗り変わるという王道の成功モデルをソーシャルメディア分野でも成功させることができれば、後世につなげることができるのかなと思っています。一連の海外進出は、そういったインパクトを残すチャンスじゃないかと。

そこで今回は、2010年秋から国際事業の専任担当を務めている荒木を紹介したいと思います。彼はPC版グリーのPMを経て、2006年以降『踊り子クリノッペ』の企画・開発を行った後、ソーシャルゲーム事業、PC版SNSのリニューアル、スマートフォン版SNSの立ち上げなどと、コミュニケーション・サービスとしての『GREE』の構築に長年かかわってきた若手注目株です。

そんな彼が当社初の海外事業を手掛けながら、どんなことを感じてきたのか、直接聞いてみましょう。 

USネット企業のスケール/スピード感とGREEの強みを融合

開発本部
ソーシャルアプリケーションUS統括部長
GREE International VP, Product
荒木英士氏
2005年8月グリー入社。昨年秋よりグリー初の海外子会社である米GREE Internationalに籍を置き、今年4月に子会社化したOpenFeintとともにソーシャルゲームネットワークの構築やゲーム開発スタジオの設立に携わる

伊藤から紹介されました、グリーの国際事業を担当している荒木英士です。

昨年秋からUSカルフォルニアのベイエリアにあるGREE Internationalと、同じビルに同居するOpenFeintのオフィスを行き来きしながら、製品企画開発担当という立場で国際事業の立ち上げを行っています。

OpenFeintは、今年4月にGREE Internationalが子会社化したばかりですが、英語圏を中心に世界で1億人以上ものユーザーを抱えるスマートフォン向けソーシャルプラットフォーム運営会社。登録デベロッパー数は1万数千社、搭載アプリは6千本もの規模を誇る優れた企業です。

すでに中国最大手のインターネット企業Tencent(テンセント)や、東南・南アジア、中東、アフリカで5000万人のユーザーを擁すモバイルSNS『mig33』を手がけるProject Gothと提携を結んでいるグリーですが、今回のOpenFeint買収は、新しいチャレンジをもたらすことになりそうです。

何しろベイエリアは、情報も人材も資金も集まってくる、インターネット産業の世界的な集積地。先端的な技術の事業化に取り組む企業も数多く、ダイナミックなスケール感は日本とはまったく違います。

例えばソーシャルゲーム最大手の『Zynga』は、ゲーム開発専業にもかかわらず、2000人以上の従業員を抱えているそうですし、『Facebook』もプラットフォーム専業で数千人の従業員が働いていると聞きました。一つの事業に対する人材とお金の集中のさせ方、そしてそこから生み出されるスピード感や規模感は、さすがアメリカという感じですね。

日本人の柔軟さや守備範囲の広さは世界でも稀有な価値を持つ

向こうのエンジニアと仕事をするようになって、日本のエンジニアとの違いを実感するのは、アメリカの場合、エンジニア個人の専門性がかなり細分化されているということでしたね。イメージとしては、エンジニアのスキルをモジュールのように組み合わせることで、すばやく開発チームが作れるという印象です。

仮にメンバーの誰かが欠けても補充が利きやすいスタイルでチームが運営されているのは、雇用流動性が高いアメリカならではのことかもしれません。そんなところにも欧米らしい合理性を感じました。

米国に渡ってみて初めて気づいた日本人エンジニアの強さは「守備範囲の広さ」だと語る荒木氏

米国に渡ってみて初めて気づいた日本人エンジニアの強さは「守備範囲の広さ」だと語る荒木氏

一方、グリーのエンジニアの多くは、わたしを含め、「エンジニア兼ディレクター兼データマン」。つまり、コーディングから企画、ユーザーの行動分析まで一連の流れをすべて手がけます。事業戦略にまでコミットする人材も多い。そんなわたしたちが、分業化の進んだ彼らの輪の中に入ると、ある種の補完関係が生まれるような気がしています。

日本人の持つ柔軟性や幅広さが、専門領域の隙間に落ちた課題を解決する助けになりますし、米国の技術者たちの高い専門性は、言うまでもなく先端的な開発にはなくてはならないものだからです。

OpenFeintの持つ規模感と、ユーザーコミュニケーションとゲームの融合を得意とするグリーの持ち味、そして日米エンジニアの特性の違いが上手くかみ合うことで、これからとてつもなくスゴいものができるんじゃないか。そう感じています。

今日本から渡米しているグリーのメンバーたちは、OpenFeintの中心製品である『OpenFeint SDK』の次期メジャーバージョンアップの主要メンバーとして開発に携わっています。

その中でわたしの役割は、プロジェクトのグランドデザインを描きつつ、ソーシャルプラットフォーム部分とゲーム部分のそれぞれについて具体的な方針を示し、開発陣と世界観を共有しながらマネージしていくこと。

当初、彼らにとってコミュニケーション機能とゲームの融合を具体的にイメージするのはなかなか難しいようでしたが、デモを作って実際の動作を見せたり、ディスカッションを重ねながら熱心に説明すると、思いのほか良く理解してくれるし、リスペクトしてくれる。

そんな彼らのオープンな反応を見ると、自分たちが日本でやっていたサービスには普遍性があるんだと感じましたね。

確かにキャラクターやグラフィックの好みは国によって違いはあります。でも「人とコミュニケーションしたい」、「自分のことを知ってほしい」、「友だちとつながりを持ちたい」という思いは世界のどこに行っても変わらないものなのだと向こうに行って改めて思いました。

これからグリーは自分たちの強みを活かしながら10億人規模のユーザーに使ってもらえるサービスを作ろうとしています。アメリカで経験した一つ一つが、こうした大きな目標の糧になるはずと信じています。

世界で働くエンジニアになるために

コミュニケーションとゲームの融合がグリーの得意分野であるということはお話ししましたが、実は表からは見えないデータ解析の細やかさやPDCAサイクルを回すスピードについても、グリーには他社に負けないノウハウがあります。

例えばバナーのデザイン一つ、キャッチコピー一つを取っても、きちんとCTRをとって最善のものを選択するよう徹底するなど、「すべての意思決定は数字に基づいてなされる」という文化がグリーにはあります。

当たり前に聞こえるかもしれませんが、技術的にもノウハウ的にも、掘り下げようと思えばいくらでも追求できるのがソーシャルの世界です。今日から取り組もうと思っても、そうそうできるものではありません。

今回OpenFeintと仕事をすることになった時も、わたしたちがデータ分析の仕組みを3カ月かけて構築しましたが、わたしたちのやり方を見て彼らも評価してくれるし、グリーの文化がまた一つ海外に根付き始めた瞬間に立ち会えたようでうれしく感じました。

GREEは北米オフィス始動後、積極的に「海外事業人材」を募集している。当然、技術職も募集中だ

GREEは北米オフィス始動後、積極的に「海外事業人材」を募集している。当然、技術職も募集中だ

向こうで半年働いてみてつくづく思うのは、エンジニアの仕事は世界共通だということですね。メジャーなプログラミング言語は世界共通ですし、日本にしかないミドルウエアってほとんど存在しません。情報ソースやツールも世界共通。そういう意味では、テクノロジーには最初から国境はないんだって改めて気づかされた格好です。

日本で技術力がある人は、世界に行っても技術力が評価されるでしょうし、日本で技術力がない人は当然世界でも通用しない。そんな当たり前のことに気づいたりもしました。

にもかかわらず、能力やスキル、専門性では世界共通のものを習得しているはずの日本人エンジニアが、日本以外で働く選択肢を持てないことはもったいないことだと思います。

経済的な面で言えば、日本とサンフランシスコでまったく同じスキル、ポジションの人を比べると、給料が2倍ぐらい違うことも珍しくありません。当然、「2倍高い」のはサンフランシスコのエンジニアです。

だからこそ、チャンスを見つけては、きちんと技術を蓄積していき、語学力も含めて世界のどこにいても働ける人材になっていくというのが、これからのエンジニアにとってとても大事なことだと思っています。

実はわたし自身、留学経験も海外勤務経験もありませんし、US子会社の立ち上げの話を持ち出した時はほとんど英語がしゃべれない状態でした。

でも、人間、「やる」と決めてしまえば何とかなるものです。技術力・企画力・分析力など世界共通のスキルを業務を通じて深め、国境や言語の壁を自ら吸収し乗り越えていく、そういったエンジニアを今後育て、活躍していってもらいたいと考えています。

撮影/小林 正(人物のみ)