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[連載:世良耕太⑥] 所有ではなく、つながり重視。2つの「ハチロク世代」が示すクルマの新しい価値

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F1ジャーナリスト世良耕太の自動車開発探訪

F1・自動車ジャーナリスト
世良耕太(せら・こうた)

モータリングライター&エディター。出版社勤務後、独立し、モータースポーツを中心に取材を行う。主な寄稿誌は『Motor Fan illustrated』(三栄書房)、『グランプリトクシュウ』(ソニーマガジンズ)、『オートスポーツ』(イデア)。近編著に『F1のテクノロジー4』(三栄書房/1680円)、オーディオブック『F1ジャーナリスト世良耕太の知られざるF1 Part2』(オトバンク/500円)など

幕張メッセから東京ビッグサイトに会場を移して開催された『東京モーターショー2011』は、盛況だったようだ。目標の80万人に対して、累計入場者数は84万2600人を記録。数字で判断すれば、イベントは成功だったと言えるだろう。

photo 世良耕太 豊田章男社長が「楽しめるクルマ」と評したように、試乗した専門家たちも走りに合格点を出すトヨタ『86』

photo 世良耕太

豊田章男社長が「楽しめるクルマ」と評したように、試乗した専門家たちも走りに合格点を出すトヨタ『86』

筆者はスケジュールの都合でプレスデーしかカバーできなかったが、一般公開日の混雑は激しく、トヨタが初公開した小型スポーツカー『86』(スバルの『BRZ』は姉妹車)など、ひと目見るだけでも大変な行列を覚悟する必要があったと聞く。

いずれショールームに並んでからじっくり見ればいいものを……と冷めた意見を吐くのは、いかにも無粋というもの。「初公開の場で、誰よりも早く実物を目にする」ことが大事なのだろう。それだけの魅力がクルマにあったということだ。

『86(ハチロク)』のネーミングが響くのは、30代後半から40代の男性だろう。1980年代から90年代前半という時代、免許取得年齢に達した若者は、何よりもまず教習所に通い、運転免許証を手に入れた。そうして、分不相応な出費をしてまでクルマを手に入れた。あの時代、多くの若者が「欲しい」と思った対象が4代目『カローラ・レビン』や『スプリンター・トレノ』(1983年~87年)であり、その型式であるAE86から、「ハチロク」と呼んで親しんだ。

その世代(つまり筆者のような)に『86』を売ろうとするなら、もっと違ったアプローチがあるだろうに、という思いもあるが、それは商品企画なりマーケティングに話が及ぶので、ここではあえて触れないことにする。

冒頭で、「数字で判断すればイベントは成功」と書いたのはちょっとした皮肉で、果たして今回のモーターショーはクルマの未来を提示していたのかどうか、引っかかる点があった。

現代の「ハチロク世代」にとって、クルマの運転は苦行なのか?

「世界はクルマで変えられる」

これが今回のモーターショーのテーマだが、変わらなければならないのは世界ではなくて、クルマの方だという思いがある。「世界が変わっているので、クルマも変わらなければならない」のだ。

そのことに気付き、新しい技術なり世界観なりを提案する企業やブランドが出現していたのも、今回のモーターショーの特徴だった。

「FUN TO DRIVE, AGEIN.」をキャッチコピーにした

「FUN TO DRIVE, AGEIN.」をキャッチコピーにしたCMで、若者のクルマ離れを食い止めようとしているトヨタ

(※画像は2011年12月時点のキャンペーンサイトより)

かつての「ハチロク世代」は、免許取得年齢に達すると何を置いてもまず運転免許を欲しがったものだが、1986年前後に生まれた若者たちを指す現代の「ハチロク世代」はそうではないだろう。

同じ額を出費するなら、ケータイあるいは通信費に軸足を置くだろうし、クルマに乗ったり所有したりすることより、情報を得たり、通信を通じて知っている人や知らない人、それら諸々をひっくるめて「世界」とつながっていることの方が大事だと思うに違いない。

そう考えた場合、ちょっと前までの、いや現在でも、クルマは世界から距離を置いた孤独な存在である。家の中にいる時も、歩いて移動している時も、スマートフォンやタブレットPCなど情報端末を通じて世界とつながることができるが、クルマに乗った途端(特に運転している場合)、世界と断絶した状態で時間を過ごし、移動しなければならない。世界とつながっていることが当たり前の世代にとっては、クルマを運転して移動することは、不安に満ちた苦行とすら感じるのかもしれない。

クルマの中で情報端末を操作すれば、一応は世界とつながったことになるが、スマートではない。いっそのこと、クルマ自体を「動く情報端末」にするくらいの思い切った発想の転換が必要だろう。クルマに乗る人、運転する人に、「世界とつながっている」ことを実感させるような。

住宅メーカーがモーターショーに出展した意味を考える

「これが?」と不平の声が聞こえてきそうだが、クルマが何かとつながろうとする動きは徐々に見え始めている。東京モーターショーで目立ったのは、クルマと家のつながりだ。

ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの内燃機関だけを積んだクルマではなく、内燃機関にモーターを加えたハイブリッド車や、モーターだけの動力で走る電気自動車と家のつながりだ。

From nissan 積水ハウスの環境配慮型住宅で、日産『リーフ』の駆動用バッテリーから一般住宅へ電力供給する様子<br />

From nissan

積水ハウスの環境配慮型住宅で、日産『リーフ』の駆動用バッテリーから一般住宅へ電力供給している様子

まず、バッテリーを搭載したクルマが家とつながることで、クルマのエネルギーと家のエネルギーがつながる。この「つながり」は、日産自動車と積水ハウスが手を組んで実証実験中(トヨタも同様の取り組みを行っている)だ。

夜間電力や太陽光発電で得た電力を、電気自動車『リーフ』のバッテリーに充電しておき、蓄えたエネルギーを、電力需要が高まる日中の時間帯に使用する。

こうすることで、家庭への安定した電力供給やピークカットを効果的に実現するのが狙い。また、停電時や電力が不足する状況では、『リーフ』のバッテリーから家庭に電力を供給することも可能である。

『リーフ』はスマートフォンを使ってエアコンを遠隔操作したり、充電を指示したりもできるが、同じように、積水ハウスの家でも、スマートフォンをリモコン代わりに使ってエアコンや照明、風呂のオン/オフを行う提案を行っている。リモコンを使う立場からすれば、家庭用機器と同じ感覚でクルマの操作ができるわけだ。

photo 世良耕太 2011年の東京モーターショーには、文中で触れた積水ハウスのほかに、株式会社LIXILもモデルハウスを出展

photo 世良耕太

2011年の東京モーターショーには、文中で触れた積水ハウスのほかに、株式会社LIXILもモデルハウスを出展

日産は展示ブースに家のモデルを持ち込んで、電気自動車と世界のつながりを表現していたが、積水ハウスは積水ハウスで、電気自動車のある未来の暮らし(といっても2015年なので、すぐそこ)を提案していた。住宅メーカーが東京モーターショーに出展するのは史上初だろう。

ブースではシアターを上映。リビングルームの情報端末で得た情報を受け、「明日そこに行こう」と声を発すると、クルマのナビゲーションシステムに情報が転送され、目的地までのルートを設定するといった具合だ。

新しい「つながり」を生み出すのはIT系の頭脳

もちろん、クルマがつながるのは家だけではない。クルマとインフラ、クルマと自動車、クルマとエンターテインメント、クルマと街といった具合に、あらゆるものとのつながりを求めて模索が始まっている。

何とつながればいいのか、どんな風につながればいいのかに、正解はない。ラクに楽しく世界とつながるためにも、IT系の頭脳は必須。すでに多くの人材が、クルマと世界をつなげるために活躍しているが、まだまだ必要となってくるに違いない。

クルマが動く情報端末になる時が来たら、クルマの買い方も変わるかもしれない。車両本体価格があって、それを現金で支払ったり分割で支払ったり、残価設定ローンで手に入れたりするのが現在の主流だが、携帯電話やスマートフォンのように、車両(端末)価格を低く抑え、走行距離(通話時間/通信量)に応じて料金を設定する販売方法に変わる可能性だってある。

実際、日産が『リーフ』を販売する際は、携帯電話/スマートフォンのスキームを懸命に研究したと伝わる。やはり、クルマが世界を変えるのではなく、世界の動きに合わせてクルマは変わっていくのだ。