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[連載:世良耕太⑦] 未来のEVの姿も!? 東京オートサロンが示す【クルマ×エンタメ】の新しい可能性

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F1ジャーナリスト世良耕太の自動車開発探訪

F1・自動車ジャーナリスト
世良耕太(せら・こうた)

モータリングライター&エディター。出版社勤務後、独立し、モータースポーツを中心に取材を行う。主な寄稿誌は『Motor Fan illustrated』(三栄書房)、『グランプリトクシュウ』(ソニーマガジンズ)、『オートスポーツ』(イデア)。近編著に『F1のテクノロジー4』(三栄書房/1680円)、オーディオブック『F1ジャーナリスト世良耕太の知られざるF1 Part2』(オトバンク/500円)など

photo 世良耕太 「カスタムカーの祭典」として知られつ東京オートサロンも、近年はその趣が変わりつつある

photo 世良耕太

「カスタムカーの祭典」として知られる東京オートサロンも、近年はその趣が変わりつつある

さる1月13日~15日に幕張メッセで開催された『東京オートサロン2012』は、3日間で25万5709人を集め、過去最高の来場者数を記録した。華やかさも賑やかさも、昨年12月に東京ビッグサイトで開催された『東京モーターショー』より上だった。

東京モーターショーは、「自動車メーカーや部品メーカーが現在および未来の製品や技術を展示するショー」と簡潔にその内容を言い表すことができるが、東京オートサロンは一筋縄にはいかない。時代とともに、内容が変化しているからである。

始まった当初の1980年代はチューニングカー(性能を引き上げたクルマ)やカスタマイズカー(個性たっぷりにドレスアップしたクルマ)を展示するショーだった。クルマを改造する際の参考にしてもらおうと、全国に散在する大小さまざまなショップが自社のパーツを装着した車両を持ち込んで、技術力だけでなく見栄えを競った。

当時はクルマを改造する行為に対してネガティブなイメージを抱く層が少なからずいたが、クルマのチューニングやカスタマイズは健全なカルチャーであることを発信するのも、1980年代のオートサロンが担った役割だった。

チューニングカーの祭典として地歩を固めてきたオートサロンに転機が訪れたのは、13回目の開催となった1995年のこと。それまでのオートサロンは大小のショップやアフターパーツメーカーが主役だったが、そこに自動車メーカーが乗り出してきたのである。

90年代の「車両法規制緩和」を機に出展企業に変化が

日産自動車が新型スカイライン『GT-R』を発表する場として、東京オートサロンを選んだのだ。それまで、話題性のある新型車は東京モーターショーで発表するのが常だったが、その常識を打ち破る出来事だった。自動車メーカーにとって、無視できないイベントに育っていたのだ。

1995年は変化の年だった。11月に道路運送車両法が改正され、いわゆる「車両法の規制緩和」が行われたのである。1993年から始まった日米包括経済協議による規制緩和を盾に、アメリカ製品を売り込もうとする狙いが透けて見えたが、チューニング&カスタマイズ愛好家にとっては歓迎すべき法改正だった。

規制緩和以前は、純正品か純正同等品以外へのパーツ交換は原則的に禁止されていた。合法的に公道を走らせるなら、手間も時間もかかる公認改造車検を取得する必要があった。ところが規制緩和後は、指定部品であれば、車検証の記載事項を変更することなくユーザーが好みに応じて多種多様なパーツを装着することができるようになった。

この規制緩和が自動車メーカーのさらなる出展を後押しした。自動車メーカーの出展規模が拡大するのにともない、初期から出展を続けていた大小のショップやアフターパーツメーカーが目立たなくなっていった時期もあった。

photo 世良耕太 近年は、「パーツ屋」と「完成車メーカー」の出展が混在するような会場構成になっている

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近年は、「パーツ屋」と「完成車メーカー」の出展が混在するような会場構成になっている

近年の東京オートサロンは、ショップでなければ醸し出せない独特のチューニングやカスタマイズが楽しめる一方で、自動車メーカーならではの完成度の高い展示がほどよくバランスしたショーへと成熟を見せている。

さらに、2000年代に入ってからは自動車メーカーや部品サプライヤーがモータースポーツ活動の情報を発信する場という要素が加わった。国内外のモータースポーツ活動をフォローする目的で東京オートサロンを訪れても、目的は高いレベルで満たされるはずだ。

ブリヂストンに見る、東京モーターショーとのすみ分け

東京モーターショーと東京オートサロンのすみ分けもうまく進んでいる。例えばタイヤメーカーのブリヂストンで比較してみると、同社は東京モーターショーには『タイヤ・トレッド部の振動から路面状態を判断する技術』、『従来は両立の難しかった低転がり抵抗とウェットグリップ性能を高いレベルで両立したエコタイヤ』、『空気を充填する必要のないタイヤ』などを展示していた。

photo 世良耕太 ブリヂストンが発表した、好みに合わせて自由に印刷できる技術を用いた「印刷済みタイヤ」がコレだ

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ブリヂストンが発表した、好みに合わせて自由に印刷できる技術を用いた「印刷済みタイヤ」がコレだ

一方、東京オートサロンでは、まったく新しいタイヤ印刷技術を発表した。タイヤ本来の機能に関する技術は東京モーターショー。そうではなく、ドレスアップやエンターテインメントに結び付く技術は東京オートサロンに展示する、といった具合である。

そもそもタイヤが黒いのは、ゴムを強化する目的でカーボンブラックを配合しているからだ。カーボンブラックを配合しなければタイヤは成立せず、結果的に黒以外ありえない。

これまでもタイヤサイド部に白いゴムを採用したホワイトリボンタイヤや、サイド部にペイントを施すホワイトリボンタイヤがあったが、変色を防いで耐久性を確保するためには白いゴムを大量に用いる必要があり、タイヤ質量が増える傾向にあった。重量増は燃費悪化につながるため、エコを指向する現代の風潮とは相容れない。

だが、ブリヂストンが発表した新しいタイヤ印刷技術は、変色防止層の上に新開発のインクと保護層を印刷するもので、タイヤ重量を増やさずにサイドウォールをおしゃれに演出できる。カラーやデザインに飽きたら既存の印刷を落とし、新たに印刷することも可能。繰り返し印刷が可能なことから、サイドウォールを広告媒体として利用するアイデアも出ているという。

今後は「音」を駆使したEVの安全性向上なども考えられる

ビジネスライクな取り組みから一歩踏み出した展示物も見られた。トヨタ自動車のブースにあった『2000GT SOLAR EV』がそれで、製作したのは2012年の夏にセントラル自動車・トヨタ自動車東北と合併する関東自動車工業である。

photo 世良耕太 シリコン型太陽電池がボンネットに搭載された、トヨタの『2000GT SOLAR EV』

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シリコン型太陽電池がボンネットに搭載された、トヨタの新型スーパースポーツEV『2000GT SOLAR EV』

同社が連綿と受け継ぐクラフトマンシップを、往年の名車『トヨタ2000GT』のレストアに込めたのだが、内外装を新車時の状態に戻すだけでは物足りず、ソーラーEV(電気自動車)化したのが面白い。

長いボンネットにはシリコン型太陽電池が埋め込まれ、リヤガラスには半透明太陽電池が施されている。バッテリーはパナソニック製で、ノートPCなどに使用される18650規格の円筒形電池を組み込んだ。

ラゲッジスペースには各種乗用車のエンジン音のみならず、宇宙船の飛行音(もちろん想像上の音)まで、さまざまな電子合成音を速度と連動して車内外に響かせる音響装置を積んでいた。『ハロソニック』と呼ぶこのシステムは、ロータス・エンジニアリングとハーマンベッカー・オートモーティブシステムズが共同開発したものだ。

内燃機関を積む自動車に比べ、EVやハイブリッド車などのモーター駆動車は走行音が静かなため、歩行者に注意を喚起すべく、低速走行時は「クルマが近くにいる」ことを知らせる必要がある。トヨタ『プリウス』や日産『リーフ』など、国内で発売中のEVやハイブリッド車は、それぞれ独自の車両接近通報装置を搭載しているが、ハロソニックは歩行者にクルマの接近を知らせる道義的行為に「楽しさ」を盛り込んだのが特徴。

EVやハイブリッド車の増加にともなって、実用性にエンターテインメント性を付加した音の技術は、ますます進化していくに違いない。

幕張メッセの会場の一角には日野自動車がブースを出し、12年ぶりにモデルチェンジした小型トラックの『デュトロ』をベースにカスタマイズした車両(うち1台はハイブリッド車)を展示していた。商用車メーカーが東京オートサロンに出展するのは史上初。今年もまた、新たなムーブメントを感じることができた。