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[連載:八反田 智和] 矢野りんさんに聞く(3/4)-「マルチデバイス時代のデザイナーは『義勇軍のリーダー』的存在に」

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スマホ新時代のニューリーダー、未来へのメッセージ

株式会社HatchUp CEO/株式会社6x6cm CEO
八反田 智和(はったんだ・ともかず)

ソーシャルアプリxスマートフォンアプリ業界に特化した開発体制構築支援事業、事業拠点構築支援などを手がける株式会社HatchUp代表。国内海外でソーシャル×スマホ業界イベント『STR』を展開中。また、株式会社6x6cmでは、自らアンドロイドアプリのリリース・運用も行っている

こんにちは、八反田です。

わたしの連載第4回目は、前回の予告どおり、矢野りんさんインタビューの後編になります。

前回は、UI/UXデザイナーとして矢野さんが持つ、ディープなクリエイター論を語っていただきましたが、後編となる今回はさらに一歩踏み込んだ内容を聞きつつ、Android女子部をはじめとした部活動についての考え方も伺ってきました。

今回のゲスト

クリエーター/Webデザイナー

矢野りんさん

1973年9月28日、北海道足寄町生まれ。Webデザイナー/ライター。Webサイトなどのメディアデザインを手掛けるほか、デザインに関する執筆活動を行う。主な著書は『Webレイアウト・セオリー・ブック』、『デザインする技術』、『スタイルシート・デザイン XHTML + CSSで実践する Web標準デザイン講座』など。Android女子部の部長としても知られる

デザイナーのかかわる領域が格段に広くなった理由は…

八反田 最近は、スマホというか、Androidをお仕事の主戦場にされている印象ですが、これはどうしてでしょうか。例えば、iPhone4SやWindowsMobileのUIの動きの良さは、現時点ではAndroid3.0より良いように感じます。UXデザインが、見栄えだけではなく操作性も含めた体験全体のデザインであれば、なぜ軸足はAndroidなのか、と。

From jyri クリエイターとして、Androidが醸し出す「バックグラウンドを問われない感じ」が好きだという矢野さん

From jyri

クリエイターとして、Androidが醸し出す「バックグラウンドを問われない感じ」が好きだという矢野さん

矢野 全然商売にはなってないんですけどね……。プラットフォーム別に比較できるほど案件に絡んでないので、何とも言えないのですが、Android界隈の方が自由というか、バックグラウンドを問われない感じがあるのが好きですねー。

iOSは、(スティーブ・)ジョブズさんとかApple製品の持つ美学のようなものを共有して開発に臨むべきっていう空気みたいなものがありますし、WindowsはMSの製品戦略に精通してから挑んでナンボのような気もしますし。Androidって、特に何もない。そこが好きです。

八反田 インタビューの前編(1~2)でもちょっとだけ考え方をお聞きしましたが、スマホやタブレットが進化していく中で、デザイナーの役割ってどうなっていくとお考えですか? 法人だけでなく、個人もアプリやサービスを出せるようになってきていて、デザイナーさんの役割が広がってきています。

法人目線で言うと、「受託案件の外注先」としてのデザイナーさんから、自社サービスを一緒になって作っていく「アジャイル開発パートナー」として存在感が高まっている気がしますが。

矢野 それはすごく的を射ていると思いますね。「お金払うから、これこれこういうのを作って」という、今までみたいなオーダーのされ方をしても、結局それって他人事なんですよね。それが例えば代理店から落ちてきた、初めから他人事であることを前提として、自分の技術力を磨くとか、クリエイティブ業界で確固たる存在感を打ち出すぞ! 的な野心が成就しそうな案件なら通用するんですけど。

で、なぜ他人事ではダメなのかというと、マルチデバイスな案件の方が、デザイナーのかかわる領域が格段に広いということなんですよ。UX、UXって言いますけど、この言葉がカバーする領域は、お店で言ったら取り扱っている商品から店舗の内装、店員の接客まですべてを含めた概念になります。

アプリだと、アプリそのものの設計や印象、さらにはアプリにユーザーがリーチする導線とかブランドイメージまで含めて全部にならざるを得ない。その広い守備範囲を認識して開発者をリスペクトし、チームとして走るっていうスタンスが求められると思います。

求められる「マルチさ」は、「広く浅く」とはちょっと違う

スマホアプリ開発では、PGやデザイナーといった「職業の範疇」を逸脱する動きが大事と八反田氏

アプリ開発ではPGやデザイナーといった「職業の範疇」を逸脱する動きが大事と八反田氏

八反田 スマートフォンアプリ開発におけるデザイナーは、場合によってはフロントエンドの開発も一手にやってしまった方がより良いモノづくりにつながると思います。

実際にそうやって「デザイナー」の範疇から逸脱した人や、逆にエンジニアリングからデザインまでやるマルチな人、ユーザーにより近い人が増えていきやすい土壌になってきました。少なくともガラケー時代に比べると、全然雰囲気が異なってきた。

そんな中で、デザイナーがデザイン性以外で差別化する要因として、「アジャイル」、「UX」、「フロントエンドディベロップメント」といった要素が明確になってきたかなと。矢野さんのご意見をお願いします。

矢野 守備範囲が広がった、という意味ではそうですね。ただ、マルチさというのは、広く浅く、という欲張りな感じとはちょっと違う。現実的に現場では専門性が重用視されていて、何をするにも自ら問題を解決できるほどの知識が必要とされています。

その一方で、何でも手掛けることを求められるというのは、いかにチームやプロジェクト全体のことを思って、役を買って出られるか、ということを問われている状態なんじゃないでしょうか。

軸足となる専門性がありつつも、「やれる人よりやりたい人」というマインドを重視してプロジェクトを回す。それが結果的に、「アジャイル」とか「UX」になるんじゃないでしょうか。

八反田 そうなってくるともう、デザイナーって仕事は、「正社員」とか「雇用」とかってスタイルじゃなく、「フリーランス」や「自営/法人経営」という形を取った方がいろいろと都合が良いように思います。言い方は悪いですが、当たり外れの大きな職種な気がしますし、一度評価を得るとあまり評判は下がりづらい気もします。

そうすると、フリーランスでも十分家庭を維持していく継続性のある収入が見込める人もいるのでは、と。労働集約から自身のブランドを活用していく感じですね。個人レベルで「面白法人カヤック」みたいな人が出てきてもおかしくない。矢野さんはそんなポジションですかね。「面白個人やのりん」というか(笑)。

仕事の結果は「自分自身の人生に対する喜びの大小」で見る

スマートフォン時代に求められるデザイナー像を「義勇兵的」と語る矢野さん。そのココロは!?

スマートフォン時代に求められるデザイナー像を「義勇兵的」と語る矢野さん。そのココロは!?

矢野 立場は何であれ、義勇兵的なのが良いと思うんですよね。体裁はともかく、「金」でつながっているのか「気持ち」でつながっているのかの違いが大きいんですよ、結局は。「義」の部分が共有できれば良いわけで。

ちなみにわたしは、仕事の結果を収入で見ることもなければ、社会的な影響で見ることもありません。自分自身の人生に対する喜びの大小で計っています。自分が納得してさえいれば、それほど困ったことにはならないんじゃないかなーと信じているので、これからも楽しくやっていきたいですね。

八反田 そうすると、Googleがデザイン力の高い会社を買収しまくっているように、個人に対しても「あなたはWebデザイナーでしょ、人月○○万くらいでしょ」みたいなシーンではなく、人によってはほかの人の何倍もの単価で仕事が入ってくるような図式になっていくと思うんですよね。

会社側は大変ですが、外注を切り詰めて収益を出していただけの会社は弱っていって、勝負している会社だけが生き残る。

矢野 そうですね。確かに「お金じゃない」とは言いつつも、「義」で動くから結果「金」も動くという流れはあると思うので、だとすると気持ちでちゃんと仕事できる環境にさえありつけば、収入的なことは必然的に上がるとは思います。損しないことだけ考えて、人とのつながりを軽視する会社は弱っていき、義を重んじてしっかり決断できる会社は残る、という図式になっていくと楽しそう。

(4/4に続く)

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