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なぜ日本の伝統的メーカーは「エラい人のキーワードでモノつくる構造」を早くやめられないのか【連載:村上福之⑥】

公開

 
村上福之のキャラ立ちエンジニアへの道

株式会社クレイジーワークス 代表取締役 総裁
村上福之(@fukuyuki

ケータイを中心としたソリューションとシステム開発会社を運営。歯に衣着せぬ物言いで、インターネットというバーチャル空間で注目を集める。時々、マジなのかネタなのかが紙一重な発言でネットの住民たちを驚かせてくれるプログラマーだ

今回、パナソニックさんから、謎のスマホ連携洗濯機がでました。スマホで柔軟剤の量を設定して、洗濯機に転送し、クラウドサーバー経由で洗剤や柔軟剤の量や衣類や汚れに合った選択コースを選んでくれるようです。予想価格は34~35万円前後とのことです。安くはないですね。

洗濯機にスマホをタッチ、洗剤と柔軟剤を設定 パナソニック、”スマホ家電”発表

ネット上では、さまざまな意見が飛び交っています。

洗濯機にクラウド連携がついても違和感がある理由

パナソニックの「スマート洗濯機」にみる、家電の明日はどっちだ。

皆さん、難しい議論をしてますが、こういうものが作られる理由はもっとシンプルだと思ってます。以前はメーカーに勤めていた僕の完全なる「予想」ですが、中では下記のようなことが起こってるんじゃないかと思ってます。あくまで予想です。「日本の伝統的メーカーあるある」です。

【会議A】
エライ人A 「何か、最近、“スホマ”が流行っているらしいやないか。」
課長 「スホマ…?スホマ…???、あー、はい!スマホのことですね。」
エライ人A 「せや、“スホマ”や。夏の新製品はな、その“スホマ”とアレしてほしいんや。
課長 「アレとは…」
エライ人A 「何か、アレや。何か、こう、次の新商品で、“スホマ”で、ええ感じにアレしてくれたら、ええんや!!
課長 「なるほど!すばらしい!(スマホに関する機能があれば何でも良いんだな)」
【会議B】
エライ人B 「昨日、日経を読んだんだけど、クラウドがこれから重要になってくるみたいだね」
課長 「はい。最近はそうですね」
エライ人B 「では、次期新製品はクラウド連携をキーワードにがんばってくれんかね」
課長 「はい!分かりました!(クラウドというよりネットがつながれば良いんだろうな…)」
【部内定例会議】

課長 「と、言うわけで、スマホとクラウドをキーワードに、次の商品を企画することになりました。
主任 「え? うち洗濯機とかですよ!」

往々にして、こういうケースが多いと思います。エラい人がよく分かってないのにキーワード優先で号令をかけて、その下の人たちはキーワードだけを頼りに、実装していくケースが多いように思います。

そのキーワード縛りのおかげで良い製品ができることもありますが、できないことの方が多いです。そもそも言い出したエラい人が、イメージもビジョンもないので、グダグダになるケースが多いように思います。

とりあえず始まった「キーワード優先のモノづくり」の末路

なぜこんな予想をするかというと、ぼくのエンジニア人生で、そういうキーワード優先でモノを作らされたことは、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度もあるからです。

90年代のころからを列挙すると、「とりあえずPC連携」、「言われたからSDカード連携」、「方針的な理由でホームネットワーク」、「大人の事情で自社製品との連携機能」、「何となくケータイ連携」、「とりあえずタッチパネル」、「何となくグループ内の研究所がつくった画像認識を実装」、「なんか実績が欲しいので子会社が作ったセンサー」、「とにかくスマホと何かできる機能」、「工数が激減するというウワサのAndroidを実装」。

まぁ、そんな感じです。

もう、時効だから言いますけど、10年くらい前に、PDAとか流行った時、「うちもM下らしいPDA(Personal Digital Assistant)を作ろう」という大号令が掛かり、コンセプトも決まらないまま。60人以上のエンジニアが投入され開発にGoが出ました。

「M下らしいPDAって何ですかね?」とエライ人に聞いても、「そりゃ、M下らしさを前面に押しだしたPDAだよ!」とか返されて、みんな黙ってしまいました。開発現場では「Sニーの●●のロゴをうちのに変えればいいんだよ!」とか冗談を言いながら、無駄なコードを書いてました。

開発が難航し、一年後、無駄な試作品をいくつか作って、日の目を見ないまま消えました。

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From Yuya Tamai

高度経済成長期のように、日本発の世界に誇れる製品が多数登場することを待望しているが……

その後、別の会社で同じようにあったような案件では、タッチパネルをキーワードにした案件がありました。DSやiPhoneなど、タッチパネルが流行っているから、AV機器のリモコンを大型液晶を使ったタッチパネルにしようというのです。

その時、僕はすでに独立していたので、「それはすばらしい!」と後押ししました。どうせ商品化されないし、確実に試作費用が取れるし、まず商品化されないので、テキトーでも良いし工数も少ないと思ってしまったからです。

実際に試作を作ったら、予想通り、タッチパネルとバックライトで、電池がまったく持たないリモコンができました。当然、日の目なんか見ませんでした。

僕の場合、キーワード開発でできたクソプロダクト案件は、日の目を見なかったことの方が多いのですが、どうも、プロジェクトによっては、さまざまな大人の理由で、商品化してしまうケースがあります。

“サラリーマン根性”のモノづくりでイノベーションは生まれない

どうして、キーワード開発がやめれないのでしょうか? 個人的に現場の気持ちからすると、「僕たちはサラリーマンだから」としか言いようがない気がします。もちろん、商品を買っていただけるお客さまのためにモノを作るのは、当然の原理原則です。

しかし、現実はサラリーマンなので、エラい人と波風立てずに作るしかないように思います。エラい人のキーワードに逆らっても良いことないですし、ただでさえ、何かを決めるのにクソほど時間が掛かる会社の中で、反対しても仕方がないので、エラい人の言う通りに作りましょうということになります。

特に大きなメーカーの偉い人が「全社的に○○を活用した方向に持っていきたい」とか言い出すと、総合家電メーカーの場合は、注目を浴びたいからか、全然関係ない部署でも全然関係ないテクノロジーを持ってきたりします。そして、伝統的な会社ほど、サラリーマン根性優先で作られた商品がたまにあります。

どこかの雑誌で、今後、シャープでは「全社的にプラズマクラスターを活用していきたい」と言っておられるようです。そう言えば、最近、シャープさんが出した自動掃除機は、スマホ連携・音声認識・プラズマクラスターとキーワード満載です。シャープが人工知能搭載・音声認識・スマホ連携で自走式のロボット家電「COCOROBO(ココロボ)」新発売

日本のヒット商品は、「アンチサラリーマン根性」と「闇研」

逆に、デジカメやVHSやCDなどの、過去の日本の大ヒット商品は、アンチサラリーマン根性で作られていたように思います。

「会社の言う事聞いていると進まないので、やっちゃいました的」精神でボトムアップで作られたものが多いです。つまり、エラい人が知らない間に、勝手に作ったものが商品化されたことが多いです。いわゆる「闇研」というものです。

しかし、最近は、ガバナンスだとか、セキュリティだとかいう話で、それができなくなってきたように思います。「プロジェクトX」で見た限り、デジカメの開発は、闇研で社内で無許可で作っていたので、開発費の経費伝票は、ほぼ虚偽記載で、ポータブルテレビの研究案件で処理していたと聞いてます。

映画「日はまた昇る」を見る限り、VHSの開発予算も、開発研究費ではなく、名目上は「法人用ビデオの修理予算」で回していたように見えます。たぶん、今だったら、ガバナンスとかコンプライアンスとかで死にます。

今後の日本のメーカで言えることは、もう、エラい人は、黙ってたらいいのかもしれません。少なくとも、知らないのに「スホマ」とか言わない上司であってほしいです。

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