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[連載:品田哲⑤] 疑いの目で”常識”を検証すると、スマートグリッドのウソが見えてきた

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テクニカライザー・品田 哲のエンジニア観察日誌
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株式会社フロンテッジ  先端コミュニケーション・ラボ  ディレクター
品田 哲

技術力と先見性を武器に、異業界をまたに掛けて活躍する”テクニカライザー”。大学卒業後、ソニーに入社し、一貫してカーエレクトロニクス分野の設計開発に携わる。2001年には、ソニーとトヨタがコラボレーションしたコンセプトカー、Podの共同製作を担当。2007 年より、ソニーと電通の連結子会社である広告代理店・フロンテッジにて、現職

インターネット時代に入って、物事を調べることは、かなり楽になりました。それはそれで多くのメリットをもたらす一方で、自分で調べたことを吟味したり、考える時間というのが減ってきていると思いませんか? 今回はこのことを考えてみたいと思います。

インターネット上の記述を「コピペ」すると、自分の記憶にはほとんど残りません。皆さんも以下のような経験がおありではないでしょうか?

★ナビが普及した結果、道を覚えなくなった。
★漢字が図形イメージとなってしまい、いざ書こうとすると書けない。
★携帯をなくしたり、忘れた結果、誰にも連絡できなくなった。
★友達との待ち合わせは、場所などを明確に特定せずに約束するので事前調査をしない。その結果携帯を忘れたりするとパニックになる。

インフラの進化がもたらした利便性は、インターネットの「調べ」だけではない、弊害があるということです。

これらの結果を良いとか、悪いということを言いたいわけではありません。物事には功罪があり、良い点を享受した結果失ったものもある、ということを申し上げたいのです。ですから、そのバランスを考えつつ、日々行動をすることが重要だと、わたしは考えています。では、そのバランスを取るために、どうするか・・・。

あえて「過去のスタイル」でやってみる。すると新しい発見が必ずある

2回目の連載で、「なければつくる」重要性について書きました。それと今回の「バランスを取る」必要性はちょっと共通点があります。つまり、あえて「作る、探す、書く」などの行為を別の手段でやってみるということです。

ものを伝えたいときに、手紙やはがきにする。メールではなく電話をしてみる。探すときに、図書館などを利用する。知らない土地に行くときにあえてナビに依存しない。隙間時間には携帯を離れて、文庫本を読む。などの行為を敢えて自分に課してみると、もしかしたら新たな古い行為の価値を見いだせるかもしれません。わたしは音楽を聞く形態について、大変新鮮な経験をしたことを思い出します。

フランス、アルザスに赴任した時、家具もなにもまだない環境の時期がありました。むろん、仕事をして帰ってきても、テレビもありません。アルザス、コルマールは田舎で、19時には駅前の信号も、黄色の点滅になってしまいます。そのため、大変に静か。無音、でありました。

この環境で、初めてステレオが到着したとき聞いたバッハは、普段、WALKMANやiPodなどのDAPを使い、通勤という騒音の中で聞いていた音楽と、まるで異なりました。同じ音楽とは思えないほど、心に沁みましたね。

音楽を聴くのにもっとも必要なこと、それは静けさだ、と改めて感じた経験です。

「スマートグリッドで未来はバラ色」・・・実は、米国だけの話

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『CEATEC JAPAN 2010』では、述べ10社の出展企業がスマートグリッドについてPRを行った

さて、上記のような「利便性の副作用として失ったこと」を感じたとき、もう一つ重要だと感じていることがあります。それはインターネットで言われていることや、人の意見が正しいかどうか、という真偽です。悪く言えば猜疑心を持つべきだ、ということです。

本当にそうかどうか、すべてに猜疑心を持つと、人間不信になってしまうかもしれません。ただ、それほど極端ではないにしても、まことしやかに言われていることが、自分の目や耳、日ごろの考えに照らし合わせて、そうだろうか? と考える習慣は大事だと思うのです。

例えば、スマートグリッド。昨年の『CEATEC JAPAN 2010』で、日産自動車や三菱自動車の基調講演などで言われていたバラ色の未来ですが、このコンセプトはアメリカ全土の電力網が均一だから成り立つ電力融通。

今回の震災で分かったとおり、関東と関西で電源周波数の違う日本や、電力網が国別で共通化されていないヨーロッパなどでは、それほどバラ色のコンセプトではなく、リアリティーのないものです。 日本では電力はむしろセル化して、所帯別で持ったほうが、メリットが多いという意見も存在します。

では最後に、さきほどと同じ音楽つながりでもう一つ例を挙げましょう。

音楽会の「S席信仰」に一片の根拠なし

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ちなみに1階のかぶりつきが最も高額なのは海外でも同じ。日本だけが特別なわけではない

音楽会におけるS席なるものは、1階の中央部や、2階の前列が指定されていることが多いと思います。

確かに、1階のかぶりつきは、良く見えるかもしれませんが、こと音楽会において、どう考えても1階席は、音響的にはベストとは思えません。それは楽器の特質からもいえることで、音が前方上部に向かって放出されるものがほとんど。

バイオリンにしても、チェロにしても、ピアノにしても、チューバ、トロンボーンなども上向き。(クラリネットやオーボエぐらいでしょうか、下向きなのは、しかしこれらの楽器は管体から音が出ているため、下から出ているのは息の流れだけですが)

一方、それらの楽器ができたころは、今のような音楽ホールで聴くことはなく、これはあとで多目的ホール、たとえば演劇やバレエなども見られるようにできたものです(1階席のかぶりつきは、見るという点ではS席かもしれませんが)。

このような物事は枚挙にいとまがありません。他にもいろいろありますが、いずれにしても、疑問を持ち、それをそのままにせず検証のための活動をしてみると、風評とは別の独自の視点が形成されると思いますよ。

撮影/小林 正(人物のみ)