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[連載:西田 宗千佳⑤] タブレット型端末の普及が、「ソフト以外」の開発トレンドまで変え出した

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ジャーナリスト・西田 宗千佳のデジMONO先端研
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IT・家電ジャーナリスト
西田 宗千佳

「電気かデジタルが流れるもの全般」を守備範囲に執筆活動を続ける気鋭のフリージャーナリスト。主要日刊紙や経済誌、MONO系雑誌にあまねく寄稿し、書籍の執筆も多数。最近は電子書籍関連の著書が多い。近著は『災害時 ケータイ&ネット活用BOOK 「つながらない!」とき、どうするか?』(朝日新聞出版/税込840円)など

ハードウエア、特にパーツの製造開発をする世界には、「テクノロジードライバー」という発想がある。技術開発は常に続けられているが、その内容がいち早く提供され、業界トレンドをリードする存在のことを指す。

例えばCPU。これまでのテクノロジードライバーは、言うまでもなく「PC」だ。インテルAMDがプロセッサを作るために技術開発に投資し、高性能化を競ってきた。

また2000年前後からのごく一時期ではあるが、家庭用ゲーム機がテクノロジードライバーであったこともある。ソニー・東芝・IBMが共同で開発し、『プレイステーション3』に使われた『CELL Broadband Engine』向けの技術開発が注目されたこともあり、同時期の家庭用ゲーム機が生産数量・技術共にトップレベルであったことに起因する。

液晶ディスプレイで言えば「テレビ」がそれにあたる。液晶パネルは大型なガラスおよび基板を分割する形で製造する。大画面テレビは単価が高く、画質の面でも精細度の面でも要求が高い。最新のディスプレイ製造工場の建設は、そのまま「テレビ向け大型ディスプレイの技術革新」を指していた。

バッテリーについては「携帯電話」、中でも日本市場向けのものがテクノロジードライバーだった。3Gやワンセグの搭載により、消費電力は増大していったものの、本体サイズの小型化要請が大きいためバッテリーそのもののサイズを増すのが難しかった。そこで、サイズはできるだけ変えずに容量を増やしていくことが求められた。

これから1~2年の間は、「すべての技術開発はタブレット端末に通ず」となる可能性が高いと西田氏

これから1~2年の間は、「すべての技術開発はタブレット端末に通ず」となる可能性が高いと西田氏

このように、テクノロジードライバーの存在は、その時々のトレンドによって異なってくる。

だがここから数年は、テクノロジードライバーは一つの製品に集約していきそうな傾向が見える。おそらく、バッテリー以外は一つの製品に着目する企業が増えると見ていい。

その「製品」とは、タブレット型端末だ。『iPad』シリーズのヒットを例に出すまでもなく、多くの企業はタブレット型端末に着目した技術開発を進めている。

「目安は300ppi以上」液晶の高解像度競争も再び激化

中でももっとも分かりやすいのが、液晶ディスプレイを巡る動きだ。

「アップルが次世代の『iPad』にて、現行製品の縦横2倍の解像度を持つディスプレイを採用する」

このような噂が根強く広がっている。本当にこのような製品が早期に登場するかどうかはともかくとして、タブレット型端末にて、現状のディスプレイよりも高い解像度の製品が望まれているのは事実。理由は、より紙に近い解像度のディスプレイが必要とされているからだ。

電子書籍アプリの普及もあってか、液晶ディスプレイ開発の次の試金石は「紙に近い見え方」になっている

電子書籍アプリの普及もあってか、液晶ディスプレイ開発の次の試金石は「紙に近い見え方」になっている

現在のタブレット型に使われているディスプレイは、おおむね132~160ppi(ピクセル・パー・インチ)程度。それに対し、『iPhone 4』を代表としたスマートフォンで採用されているものは326ppiを超える。紙に近いクオリティーを実現するには300ppi以上が必要と言われているので、まだまだ足りない。

これまで、中小型液晶ディスプレイのテクノロジードライバーは、製造数量の多いノートPC向けであった。多くのタブレット型端末が10インチクラス(1280×800ドット)のパネルを採用しているのも、このクラスがノートPC向けに多く製造されており、流用が極めて容易であったからだ。ノートPCにおいては、150ppiクラス以上の解像度は必要とされていないため、解像度の追求はなされてこなかった。

だが、本当にアップルが『iPhone 4』に近い、300ppiクラスのディスプレイを使った『iPad』を販売することになれば、話は変わってくる。

『iPad』は、発売以来1年半で2500万台以上を出荷したこのジャンルのリード製品。当然ライバルメーカーも追いかけざるを得ない。この種の市場を狙って、LG電子サムスン電子は技術開発にしのぎを削っており、LG電子はすでに「2011年後半にも量産できる」とのコメントを発している。

日本メーカーも黙ってはおらず、「ハイクオリティーなものを作れるとすれば、わが社はもっとも有利な地位にあるはず」(国内大手ディスプレイメーカー首脳)と鼻息が荒い。

PC向けはテクノロジードライバーでありつつも、その方向性は「価格競争」に陥っている。そこで技術競争による「単価上昇」に舵を切れるのであれば、パネルメーカーとしても願ったり叶ったり、といったところだろう。

テレビ向けも、数量が見込める30型から40型はまったく儲かる存在ではなくなり、利益率の高い50型以上は数量が出ない。高度な技術を展開して利益を得る場所として、テレビ向けすら割に合わなくなりつつある。この点でも、液晶パネルにおけるテクノロジードライバーはタブレット向けになる、という可能性が高い。

GPU&システムLSIの進化が生む革新のスパイラル

半導体も同様だ。PCはすでにパワーよりも省電力性能が重視される段階に来ている。また、低価格なPCは今後、タブレット型端末に市場を食われる可能性が高い。

他方でタブレット型端末では、動作の快適さを実現するために、CPU以上にグラフィックチップ(GPU)の性能が重要になる。パソコンよりも高解像度なディスプレイが活用されるようになるとすれば、その動きはさらに加速することになるだろう。

PC用グラフィックチップを寡占するNVIDIAとAMDは、そろってタブレット/スマートフォン向けプロセッサの開発にリソースを注ぎ始めている。タブレット/スマートフォン向けは、マルチコア構成のCPUとGPUを1チップにまとめたシステムLSIとなる。システムLSIとして構成する場合には、単純な高性能化だけでなく、メモリ帯域を節約し、各コアを効率的に動作させるノウハウが求められる。PC向け技術をベースとしながらも、異なるバランスの舵取りが求められる。

こういったことは、端末製造に大きな影響を与えるのはもちろん、ソフト開発面にも影響を与える。高性能なGPUを持ったシステムLSIの能力を活かすソフトを効率的に作るにはどうしたら良いのか? 高解像度なディスプレイ上でのユーザーインターフェース開発をするにはどんな準備が必要なのか? 省電力機能を想定し、バッテリーを消費しないよう処理負荷を分散するにはどうしたらいいのか?

そういったことを考えながら、ソフト開発環境を整備していく必要がある。ハードウエアのテクノロジードライバーの変化は、ソフトウエアのテクノロジー傾向と無縁ではない。

撮影/芳地博之(人物のみ)