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[連載:品田哲⑥] 「別のもの同士を組み合わせられること」 が、製品のイノベーションを生み出すための近道

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テクニカライザー・品田 哲のエンジニア観察日誌
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株式会社フロンテッジ  先端コミュニケーション・ラボ  ディレクター
品田 哲

技術力と先見性を武器に、異業界をまたに掛けて活躍する”テクニカライザー”。大学卒業後、ソニーに入社し、一貫してカーエレクトロニクス分野の設計開発に携わる。2001年には、ソニーとトヨタがコラボレーションしたコンセプトカー、Podの共同製作を担当。2007 年より、ソニーと電通の連結子会社である広告代理店・フロンテッジにて、現職

今でこそ当たり前の「かざすカード」。最近は、近距離無線通信によって飛躍的に利便性が上がったもっとも良い例だと思います。

JRのSuica、わたしも日々お世話になっているカードですが、原理はソニーが開発したFeliCaです。この技術、社内でもずーーーーーっと芽が出ない研究開発のものでした。

(開発者の日下部さんに話をうかがったことがあります)

そのときも感じたのですが、技術ができても何に使うのかがついてこない、というものが今でも数多くあります。技術者としては、何か開発に熱中すると、開発自体が目的となり何に使えるかは後回しになることが少なくありませんでしたから。

 ”でした”、と書いたのには訳があります。それは今のインターネットの普及により、ニーズを見つけるのも10年前よりはるかにたやすくなってきているからです。(もちろん、シーズを探すのも簡単にはなってきていますが、これはニーズ検索よりもちょっと難しい。最先端技術をWebにあげるにはいろいろ問題があるからです)

FeliCaと非接触充電の組み合わせがライフスタイルを変える

近距離通信に関連するこれからの技術に、ワンセグがあります。昔ミニFM局などが大流行したことがありますが、これのテレビ版ができる技術です。数メートル(部屋内とか)なら免許はいりませんが、もう少し幅広い1kmぐらいの電波を出すとなると、それなりの申請が必要にはなるものの、必要な設備は100万円ぐらいで送出できます。

一部のイベントなどで、短期間の送出を行うという事例もあり、これからの商業利用に期待が高まるものの一つです。なぜなら、受信できる端末は、すでに多くの人が持っている携帯電話ですから。

実証実験から実用段階に入るところで、地方のイベントにも使えると期待されています。さらに今黎明期を迎えている近距離高速通信には、「トランスファージェット」という、やはりソニーが実用化しているものがあります。ソニーのパソコンとデジタルカメラで、撮った画像の瞬間転送などの用途で一部実用化されていますが、これも送り手と受け手がそろわないと使えないものなので、あらゆる機器に自然と入っているような、汎用化がカギとなっています。(インテルのチップセットなどにマンダトリーで入ると普及が容易なのですが・・・)

19世紀末、ニコラ・テスラが空中送電しようとしたのが、無線送電の初まりだとされている

By Rawa raza

19世紀末、ニコラ・テスラが空中送電しようとしたのが、無線送電の初まりだとされている

近距離で電力を送る、という試みも最近脚光を浴びている技術です。昨年、開催された『CEATEC JAPAN 2010』のドコモブースで、携帯を置くだけで充電する、というデモがあったのをご記憶の方がいらっしゃるかもしれません。技術自体は古くからあり、トランスは原理的に同じものですが、最近脚光を浴びたのは、磁気共鳴という「効率を上げた電力電送」が進化したからです。

さて、この2つの近距離通信技術、FeliCaと非接触充電を組み合わせることにより、新たな可能性が出てきます。携帯電話だけでなく、音楽再生機器などのモバイル機器を置くと、必要とされる充電方法を給電側に伝え、それをもとに給電側は電力を最適化して送る。これにより充電テーブルに置きさえすれば、モバイル機器個別の充電機がいらなくなる可能性がありますね。

本来別々の発展を遂げてきたものを組み合わせることで、現在のライフスタイルを支える新たな商品開発に役立てる可能性がある、という例だと思います。

「地デジ対応のブラウン管テレビ」を思わせる、スズキの電気自動車

スピードメーター(中央)の右のメーターが、ガソリン(上)とバッテリー(下)の残量を示している

一見普通のメーターパネルだが、スピードメーター(中央)の右のメーターが、ガソリン(上)とバッテリー(下)の残量を示している

赤いマルで囲んでいるところがカギ穴。ハイテクカーなのに、なぜここだけアナクロなんでしょう??

赤いマルで囲んでいるところがカギ穴。ハイテクカーなのに、なぜここだけアナクロなんでしょう??

ところで先日、『人とくるまのテクノロジー展』という展示会で、スズキの電気自動車に乗る機会がありました。エンジンとモーターという2個の動力源を持つクルマをハイブリッドとすれば、このクルマは動力源が1個だけなのでハイブリッドではなく電気自動車になります。動力はあくまでモーターだけで、バッテリーがなくなるとエンジンをかけて充電するというものです。

このタイプは、ボルトというGMのクルマでも使われているそうですが、乗ってみておもしろかったのは、なんとカギなんですね。今の電気自動車ではボタン式が主流となっており、鍵というのはかえって何か新鮮な感じすらしました。地デジ対応のブラウン管テレビというものを想像してしまいました。

※ボルトはもっと複雑で、エンジンの動力を走行にも使用できるとのことなので、さらに複雑ではあります。

走行は極めてニュートラルで、バッテリーがなくなると確かにエンジンがかかります。いつかかったのか、走行中には分かりませんでしたが、このアイドリングストップ、スタートの過渡的な応答が最近のクルマは徹底的に抑え込まれていることにも感動しました。

電気製品としてのクルマの価値はアプリケーションで決まる

エンターテイメントとしての音楽、これを聴く手段としてメディアが衰退を始めたように、クルマの内燃機関も次第に、「本当にリッチな趣味人のためのクルマ」になっていくと思うのですが、すでにクルマの価値はアプリケーションによって語られるようになってきました。

アラウンドビューとか、衝突防止、インテリジェントハイビーム、そしてエンターテイメント系ではiPod対応、スマホ連携などです。

馬力、トルク、0-400m加速、0-100kmの秒数などがクルマの選択要素となっていたものも、100km走るのに必要なガソリン(ヨーロッパではそれを燃費の尺度とし、例えばフォルクスワーゲンでは、”3Lポロ”などとうたっていました)に変わりつつあります。

クルマの評価基準がこのように変貌を遂げていることによって、「売れるクルマ」という観念も変わってきます。携帯電話の売りがハイビジョン録画、3D撮影になるように、HDMI1.4、USB3.0対応のクルマが売りになる日も近い、かもしれません。

その時、「別々の発展を遂げてきたものを組み合わせること」が、従来とは価値基準の異なるクルマをつくる上で、重要な示唆をもたらすでしょう。

撮影/小林 正(人物のみ)