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[連載:理系脳の素-明和電機・土佐信道] ふとしたひらめきを検証し、カタチにする”道具としての読書”論

公開

 
ユニークな視点でものづくりをする理系な人々。そのヒラメキの素となる愛読書やブックマークをノゾキ見するこの連載、第4回は摩訶不思議な楽器を生み出すアートユニット・明和電機の土佐信道社長。
数々のオモシロ発明を生み出してきたあのトンデモ発想は、いったいどこから生まれている!?

プロフィール

明和電機 代表取締役社長
土佐信道氏

1992年、筑波大学大学院・芸術研究科博士課程を修了。1993年に兄・正道とともにアートユニット「明和電機」を結成。青い作業服を着用し、作品を「製品」、ライブを「製品デモンストレーション」と呼ぶ。日本の技術力を応用したマシーンとそこから生まれるサウンドで、今や世界に進出。ヨーロッパ各地でライブや展示会を成功させている

「去年ねえ、トイレに本棚を作ったんです」

2010年にヒットしたオタマジャクシ型電子楽器『オタマトーン』をはじめ、奇想天外なナンセンスマシーンを数々生み出してきた明和電機のアトリエに、社長・土佐信道氏を訪ねると、土佐氏はさっそく、自慢の本棚の写真を見せてくれた。

土佐社長による水洗図書のイラスト。いわく「水場って思考の場に適していると思うんです。台所や風呂場、トイレとか」

土佐氏直筆の水洗図書の模様。いわく、「水場って思考の場に適していると思うんです。台所や風呂場、トイレとか」

「僕にとってトイレは読書の場。そのトイレにある本棚に並ぶ本は、明和電機の『水洗(推薦)図書』です(笑)」

世にある数々の空間の中で最もプライベートな空間、自宅のトイレに並ぶ本は、まさに土佐氏の脳内のようなもの。サブカルにアート本、技術書から歴史書、マンガまでさまざまな本が並ぶ。

「小説は読まないですねえ。詩的な表現は好きなんだけど、物語を読むという読書はできないんです。映画はよく観るんだけど、映画も物語を楽しむんじゃなくて、絵コンテを想像しながら、映画の『構造』を観ているんです。読書も同じ。その辺は、理系的なのかもしれないですね」

本の中にアイデアをグループ化してくれる言葉を探す

明和電機の製品といえば、例えば昨年、某専門学校のCMにも出演した人間のように笑うマシーン『WAHHA GO GO』がある。はずみ車の回転エネルギーでふいごを膨らませ、その空気で人口声帯を鳴らす。

明和電機の作品はそのユニークさ、「何じゃこれ!?」という驚きに気を取られてしまうが、そこに隠された仕掛けや造形美を生み出す技術はまさに日本のものづくり魂そのものだ。

土佐氏は、「考えるモード=アタマの作業」と「作るモード=肉体の作業」のスイッチを切り替えながら作品を作る。アイデアを生み出し、形を与え、制作するところまですべてを担うのだ。制作に入ると、「肉体の作業」に時間も身体も集中するため、本を読むのはやはり「考えるモード」の時だ。

「読むものはその時その時のマイブームがあります。今は自分がどんなものが気になっているのか、どんなモードなのかかを探りながら、ひっかかる本を見つけるんです」

現在、凝っているのは「ヒトラー/シュタイナー/梅棹忠夫」。『知的生産の技術』、『文明の生態史観』(ともに梅棹忠夫著)『芸術と美学』(ルドルフ・シュタイナー著)といった著書から、『ヒトラーの秘密図書館』(ティモシー・ライバック著)といった研究書まで、彼らにまつわるさまざまな書籍を読んでいる。

しかしこの3者、独裁者、思想家、文化人類学者というまったく異なるジャンルの人物だが……。

「まだいろいろ読んでいるところなので分からないですが、強いていえば芸術家である、というところが共通点ですかね。そして、芸術的な手法をまったく別のジャンルに置き換えて活躍した指導者だというところが気になっているんです」

そんなアーティストの本能的な「気になる何か」について描かれた本を読みながら、土佐氏は自分の考えやアイデアの「モデルを引っ張り出す」作業をしているという。

「インスピレーションは、自分の中に湧き起こるもの。形はありません。そのインスピレーション、ひらめきを検証して、形にするための『道具=シェイプツール』の一つが読書なのかな、と思います。キーワードやひらめいたアイデアをグループ化してくれる言葉を見つけようとしている、という感じです」

Twitterはひらめきを言葉に置き換えたもの

読書は、単に情報をインプットするツールではなく、頭の中に浮かぶさまざまな「形のないものたち」に形を与え、アウトプットするためのシェイプツール。ほかには、絵を描くことも土佐氏がよく用いるシェイプツールの一つだ。絵に置き換えることで、アイデアが視覚化され、思考が整理される。そしてもう一つ、最近新たに加わったシェイプツールがTwitterだ。

土佐社長が「ひらめきメモ」として活用している明和電機のアカウントは @MaywaDenki 。興味のある方はフォローを

土佐氏の「ひらめきメモ」であるツイッターアカウントは @MaywaDenki 。興味ある方はフォローを

「始めたのは2009年ですが、当初はうれしくていろんな実験をしました。例えば、一番最初は明和電機の金言的なものを一日一つずつ、つぶやこうとしたんですよ(笑)」

しかし、「金言シリーズ」は「何か違うな」と感じてすぐに終了。今は、土佐氏が移動時間やちょっとした空き時間に、ふと思いついた疑問や考えをつぶやき、それに対するリプライが広がるというスタイルで続いている。

「僕のTwitterって、ひらめきを言葉にしたものだと思うんですね。だから、ブログと違って、後でつぶやきをまとめても、全然面白くない(笑)」

瞬間のひらめきを言語化したものだけを集めても面白くないのかもしれないが、それをきっかけに広がるやり取りは面白い。さまざまな人が土佐氏のTweetをきっかけにいろいろなことをひらめき、言葉にしてアウトプットしているからだ。

「ひらめきって整理されていないし、不可解なものですが、それが面白い。よく『整理がついたら見せる』、『整理できたら話す』という人がいるじゃないですか。でも、整理なんて絶対つかないですから(笑)。整理しようとあがいて、アウトプットするのが大事なんだと思います。変なこと言ったり、不可解なことを思いついたりして。それで良いんですよ」

いわゆるフツーの人は、つい知識や情報をインプットすることにばかり意識が向いてしまうもの。しかし、実はインプットするよりも、まだ整理のつかない段階にふとひらめいた思いつきやアイデアを、絵や言葉でスケッチしてアウトプットする方が大事なことなのだ。

では、その「ひらめき」を手に入れるにはどうすればいいか?

「誰でもひらめきはあると思うんです。それをどう引き出すかということでオススメの発想法は、『コスプレ発想法』。こうやって明和電機の青い制服を着るのもそうですけど、実際にコスプレしながらでもいいし(笑)、心のコスプレでもいいので、いつもの自分じゃないものになりきって考えるといいですよ」

【告知】 ストレンジ・ボイス 奇妙な声の実験室

「声」をテーマにしたパフォーマーたちが集まり、まざまなジャンルのステージを披露します。 ◎2011年7月26日(火)開場19:00~開演19:30 ◎品川よしもとプリンスシアター ◎明和電機、AFRA、フォルマント兄弟、ボーカロイドfrom YAMAHA、NUT、ほか出演 ◎前売り¥3000(全席指定)・当日¥3500(全席指定)

取材・文/川瀬 佐千子  撮影/洞澤 佐智子(CROSSOVER)

【理系脳】蔵書.JPG

『知的生産の技術』

(梅棹忠夫著/岩波新書/税込798円) 

【理系脳】蔵書.JPGのサムネール画像 

『文明の生態史観』

梅棹忠夫著/中央公論社/税込780円)

【理系脳】蔵書.JPGのサムネール画像

『シュタイナー 芸術と美学』

(ルドルフ・シュタイナー著/平河出版社/税込2415円

【理系脳】蔵書.JPGのサムネール画像

『ヒトラーの秘密図書館』

(ティモシー・ライバック著/文藝春秋/税込1995円