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[連載:五十嵐悠紀⑨] 『ニコニコ学会β』開催に際して思う、オンラインコミュニケーションが埋める穴、埋まらない溝

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天才プログラマー・五十嵐 悠紀のほのぼの研究生活
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筑波大学  システム情報工学研究科  コンピュータサイエンス専攻  非数値処理アルゴリズム研究室(NPAL)
五十嵐 悠紀

2004年度下期、2005年度下期とIPA未踏ソフトに採択された、『天才プログラマー/スーパークリエータ』。筑波大学 システム情報工学研究科 コンピュータサイエンス専攻 非数値処理アルゴリズム研究室(NPAL)に在籍し、CG/UIの研究・開発に従事する。プライベートでは二児の母でもある

第1回ニコニコ学会βシンポジウム(略称:第1回ニコニコ学会β)」

チームラボ社長の猪子寿之氏やドワンゴの戀塚昭彦氏など、エンジニア会の著名人が多数出席する

12月6日(火)に開催される、『第1回ニコニコ学会βシンポジウム(略称:第1回ニコニコ学会β)』という、オンラインでの参加を前提とした学会が注目を集めていますね。

そこで今回は、アカデミックな分野の学会や会議が、Webサービスを活用するようになった流れと、実際に使ってみて感じた点について取り上げたいと思います。

インタラクティブになる学会。もはやリアルと比べても遜色なしか?

「学会」というと、発表者が壇上で発表し、聴講者が数十人~数百人聞いている、という「一方向」のスタイルが一般的。ですが、わたしが研究しているHCI(Human Computer Interaction)の分野における学会・シンポジウムの一部では、チャットを取り入れた、発表者と聴講者の「双方向」情報のやり取りを実現する取り組みが進行中です。

発表者が壇上で発表しているかたわら、聴講者はそれを聞きながら、並行して「これってどういうことなの?」、「こんな研究過去にあったよね」とチャットに書き込みます。

同じ会場には発表者のほかに、一緒に共同研究して論文を一緒に書いている共著者がいたりするので、「こういう経緯があってこの方針になりました」、「それも試してみましたが、こういう理由でうまくいきませんでした」といった裏話もリアルタイムで知ることができたりします。

発表時間の後には質疑応答の時間が設けられることがほとんどですが、時間が短かったり、大御所の先生方の前ではなかなか質問しにくかったり、という時にも、チャットでの意見交換は効果を発揮します。

WISS』という学会では例年、学会内部のみで接続したチャットを用いていましたが、昨年はTwitterと連携し、学会に参加していない人でもTwitterのタグで情報を追いかけることができるようになりました。

また、「Twitter座長」という役割が設けられ、Twitterで質問されたものの中から取り上げて、会場で代わりに質問してくれるという試みもありました。ほかにもニコニコ動画を利用した発表の生放送も試みられました。今年度も12/1-3 にニコニコ生放送USTREAM(右上の動画)で中継予定です。(ハッシュタグは#WISS2011

学会発表にチャットシステムを盛り込むと、発表者が発表し終わった後、自分の発表がどうだったかを振り返るためにも、とても役立ちます。自分の発表が聴講者に対してどういう印象だったのか、どういうところを疑問に思ったのか、説明が分かりにくかったのか、この研究に同意してくれる人がどれだけいるのか、など、チャットやTwitterを振り返ることで自分自身のステップアップにつながる情報を山のように入手することができるのです。

WISSではチャットシステム自体、論文発表のように公募され、年々進化してきました。現在では、チャットは「なくてはならない存在」となり、インフラとして学会側が準備するまでになっています。

ほかにもこの学会では「へぇボタン」が活躍したりと、未来の学会・会議のあるべき姿を追求してさまざまな試みが実験されています。

学ぶ機会の公平性、共有化を向上させる、学会のオンライン化

最近ではUSTREAMを使ってオンラインで映像配信することで、学会を聴講することもできるようになりました。東日本大震災があった直後、『Augmented Human』という国際会議が日本で開かれましたが、これも発表がUst中継され、わたしは自宅で聴講しました。

同じように、オンラインで聴講し、Twitterでタグ付きで発言・質問することができる学会・シンポジウムが、日本各地で増えてきていると感じます。

CG(Computer Graphics)の分野の学生・研究者が集まって行う勉強会では、Skypeを用いて遠方から発表を行う取り組みも行っており、Ust中継を通じた「遠隔聴講」だけではない、「遠隔発表」が可能になっています。

ChatWork

研究者の間で、高い人気を誇る『ChatWork』。クラウド型サービスのため、ハードを選ばないのも魅力だ

学会同様、会議もオンライン化が進んでいます。最近よく利用しているのは『ChatWork』です。掲示板とチャットが融合したような、ブラウザ上で動くシステムで、リアルタイムで進んでいく掲示板のように、ファイルのアップロード、ダウンロードも簡単に行うことができます。

参加者全員が同じ場所に集まって会議するのは困難な場合でも、こうしたツールを使えば、日本各地に散らばっている研究者たちと、事前に議論や必要書類のやり取り、意見交換を行えるので、実際に会った時、少ない時間を有意義に使うことができるのです。

複数の発表が同時にされる並列セッションでの学会などでは、研究室内の学生さんたちがバラバラのセッションを聞きに行き、「今A会場でこんな発表しているけど、〇〇さんの研究に関係があるのでは?」などと、それぞれの情報をリアルタイムにChatWorkで共有する、という研究室もあるようです。

たくさんの場がオンライン化されることで、「遠くていけないから」、「日程がかぶっているから」と例年参加することをあきらめていた学会などの聴講もすることができるようになり、とても便利な世の中になりました。

ツールは実際に会うまでの「お膳立て」。懇親会からが本番!

このように、会議や学会といえば、その場に行って参加するのが一般的でしたが、その場に行かなくても参加・議論できるような仕組みが増えてきました。

一方で、テクノロジーを利用する便利さを感じると同時に、実際に会って議論する大事さも分かるようになりました。それぞれの意見を出し合ってブレインストーミングすることはオンラインでもできますが、会って顔を合わせながら意見を出し合うことは非常に重要です。

そういった側面から考えると、懇親会や飲み会の場は非常に重要であると言えるでしょう。ともすれば、家族から敬遠されがちな懇親会。特に子育て中の女性は、「懇親会は仕方なく抜けて……」と帰ってしまう人が多いです。

しかし、講演会などで発表したり、発表を聞いたりして終わりなのではなく、発表者と直接話ができる、どう考えているのか議論することができる機会は懇親会以外にはそうありません。懇親会で話をしたことで始まった共同研究、懇親会がきっかけで決まった就職の話、わたしの周りにもたくさんあります。

どう頑張ってもオンライン化できない懇親会こそ、実は一番大事なのかもしれないですね。

なお、冒頭で述べた『ニコニコ学会β』は、基本的にオンラインでの参加ですが、5th session「研究してみたマッドネス」に参加する方を募集中です(締切間近!)

あ

ちなみにわたしはこのマッドネスの審査員として参加します。

われこそはと思う人はぜひ!

撮影/小林 正(人物のみ)