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エンジニアに職歴書はもう不要!? ITコンサルも取り組み出した「コード採用」の今

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職歴や仕事の実績ではなく、プログラマーとしてのコーディングスキル、設計スキルで入社の合否を決める「コード採用」が、IT業界の一部で盛り上がりを見せている。

弊誌が過去に取り上げた「コード採用」の解説記事はコチラ

これまで、日本ではサイバーエージェントやグリーといったB2C向けのWeb企業を中心に行われてきたこの採用手法(過去の解説記事)。

ほかにも、応募者にGitHubアカウントの提出を求めるような企業が出始めるなど、プログラミング力を重視した実力主義採用を取り入れるところが増えていた。

それが最近、比較的大手のIT企業やエンタープライズシステムの開発を行うSIerにも、コード採用が広がりを見せている。ユーザー企業向けのITコンサルティングを手掛けるウルシステムズもその1社だ。

同社は、リクルートが運営するITエンジニアのための実務スキル評価サービス『CodeIQ』を活用し、短期間で4名の優秀なプログラマーの採用に成功したという。そこで同社のITコンサルティング部門を束ねる平澤章氏に、コード採用を始めたきっかけや、成功の秘けつを聞いた。

「腕試し」感覚でチャレンジするプログラマーを発掘できる

ウルシステムズ株式会社のプロフェッショナルサービス第2本部・本部長 平澤章氏

ウルシステムズがコード採用を始めたきっかけは、今年5月にさかのぼる。

あるクライアントに「問題解答型スキルマッチングサービスを利用してみたところ、優秀なプログラマーが採用できた」と聞き、興味を持ったそうだ。

「モノは試しということで、まずは採用につながらなかったとしても、優秀なプログラマーにウルシステムズを印象付けられればいいと考えてサービスを利用してみることにしたんです」

同社は2000年に創業した当初、先進的なJavaテクノロジーを駆使した“技術立社”として名を馳せていた。しかし、技術力だけではユーザー企業に対する価値を十分に訴求しづらいことから、ここ数年は「戦略的ITコンサルティング」を提供する企業としてブランディングを行ってきた。

そのせいもあって、「創業当初に比べると、最近の中途採用では腕の良いプログラマーが当社を志望してくださるケースが減っていた」と平澤氏は明かす。CodeIQは、こうした現状を打破するためのきっかけとして利用し始めたのだ。

ここでCodeIQのような問題解答型のスキルマッチングサービスの仕組みを説明しておこう。これらのサービスは、プログラミングにまつわる「課題」をサイトに掲出して挑戦者を募り、出題者が解答を採点(および評価)した後、結果を挑戦者にフィードバックするという流れで運営されている。

一連のやりとりを通じて、出題側と挑戦者との交流の場を作ることも狙いにしているので、出題するのは採用を考える企業・団体だけではない。有名エンジニアによる「純粋なプログラミング能力の腕試し問題」なども出題されており、挑戦者側も転職意思がないケースが少なくない。

にもかかわらず、4名のエンジニアを採用できた理由はどこにあったのか? ポイントは、課題のレベル設定と、挑戦者へのこまめなフィードバックにあったようだ。

スキルに「惚れ込む」ことで生まれる意外なアクション

From e_chaya
「問題解答型」で採用を行うのは米のIT企業ではよくある手法(写真はGoogleが過去に出していた人材募集用の問題)

まず、CodeIQに掲載した課題について、ウルシステムズは「採用につながらなくてもいい」というスタンスで始めたこともあり、「挑戦者の興味を引きそうなエッジの利いた課題」(平澤氏)にした。

「サイト上にあるほかの課題の中に埋もれないよう、なるべく目立つことを意識して作成しました。そのためにまず用意したのが関数型言語のClojureを用いた課題です。実際には当社がかかわっているシステム開発案件でClojureを使うチャンスはほとんどないのですが、関数型言語に興味を持つような人たちなら、技術的な知的好奇心が旺盛な方であろうと考えたためです」

2つ目に出題したのは、製造業で用いられる部品表のモデリングに関する課題である。この問題を選んだ意図は、前述のClojure問題と合わせて見てもらうことで、「上流工程のモデリングから最先端のプログラミング技術まで、幅広い人材が活躍できる会社であることをアピールしたかった」からだそう。

蓋を開けてみると、これら2つの課題に対して予想よりも多くの回答が寄せられ、「中にはわれわれの予想を超えるような優れた解答をしてくれた方も少なくなかった」と平澤氏は言う。

特に驚いたのは、Clojureでの開発経験がないと思われるプログラマーからも、的確な解答が複数寄せられたことだった。

ある解答者は、最初の解答に対する評価フィードバックで「パフォーマンスが悪いアルゴリズムを採用している」と指摘したところ、修正したプログラムを2度も送り直してきたという。

「その解答者と実際に面接をした時に苦労した点を聞いてみたところ、『(Clojure用のライブラリを)インストールするのに手間取った』と言っていたため、彼がClojureの初心者だったことが分かりました。にもかかわらず、最終的には当社のエンジニアを唸らせるほどの優れたコードを書いてくれたことは、彼が抜群の技術センスを持っていることの何よりの証明になりました」

平澤氏によると、こうしてプログラミングやモデリングの技術に「惚れ込んだ」解答者に関しては、のちの面談用に送ってもらった職務経歴書を見る目も変わったそうである。

「一般的な中途採用のやり方では、おそらく書類選考を通らないようなご経歴の方も珍しくありませんでした。しかし、プログラミングやモデリングの実力を事前に確認できていたので、職務経歴や学歴などは二の次になりました。中には転職する意思のなかった方もいましたが、当社側がスキルに惚れ込んだ状態になってしまっていたので、面接の場でのコミュニケーションが円滑になり、その場で信頼関係を築くことができました。これらのことがが、採用増につながったんだと思います」

採用手法としてのコード採用には、運用面での課題も

From Samuel Mann
「職歴書」というフィルターを介さずに面談することで、思わぬ効果も

今回ウルシステムズが出した課題に解答を寄せた挑戦者のうち、同社への入社面談に応じたのは8名。

そのうち4名が転職を決めたことを考えれば、ウルシステムズにとってコード採用は非常に採用効率の良い手法となった。

かつ、「入社した4名の中には、われわれが得意とするエンタープライズ分野での開発経験がない方もいた」と平澤氏が語るように、書類選考から入っていたら出会うことすらなかったエンジニアとも接点を持てた形だ。

これらの事実から、エンジニア採用の手法として、コード採用は今後もっと普及する可能性を秘めているといえるだろう。

ただし、難点がないわけではない。

プログラマーに挑戦意欲を抱かせるような課題を制作することはもちろん、挑戦者から寄せられる解答に適切な評価を下し、全員にフィードバックを行うのは、かなりの手間と時間がかかることだからだ。

それに、「今後コード採用を実施する企業が増えれば増えるほど、単なるスキルチェックの材料でしかなくなってしまう懸念もある」と平澤氏。そうなってしまったら、現在のように「挑戦意欲で問題を解くエンジニア」が減ってしまう可能性もある。

それでもウルシステムズは、今回の取り組みを通じて得た感触から、今後も通常の採用だけでなく、コード採用を活用していくという。

「特に若い世代のエンジニアは、勤め先の都合でプロジェクトに恵まれず、職歴書ではPRできるポイントが少ないという方もいます。コード採用は、その中から腕の立つプログラマーを発掘する方法としては有益であると分かったので、これからもスキルや潜在能力を軸にしたエンジニアの採用に力を注ぎたいと思っています」

もしあなたが、腕に自信のあるプログラマーなら、頭の体操を兼ねてチャレンジしてみてはいかがだろう。もしかすると、これまで想像もできなかった未来が拓けるかもしれない。

《ウルシステムズが新たに用意した課題はコチラ》

解答に対してはウルシステムズの出題チームからフィードバックがあります。興味がある人は以下のリンク先をチェックしてみよう。

【1】プログラミング課題-ある前提条件で「社員一覧」を作るには?
【2】データモデリング課題-よく使うSNSのデータモデルを作成してみよう
【3】論文-Java、Ruby、C#の「言語仕様」について、改善点を挙げよ(ほか2問題)

取材・文/武田敏則(グレタケ) 撮影/伊藤健吾(編集部)