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中国発スタートアップがアクセス解析ツール『Pt engine』で目論む、市場格差を利用したグローバル戦略【連載:NEOジェネ!】

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世間をアッと言わせるユニークなアイデアと技術力で勝負しているニュージェネレーションを応援するこの連載。今回紹介するのは、アクセス解析ツール『Pt engine』 を開発するPtmindだ。中国と日本に2つの拠点を構え、今までにない斬新な組織体制を敷く彼らの販売戦略と開発戦略に迫る。
NEOgen-Ptmind
(左)CTO 薛 理偉氏
(中央)CEO 鄭 遠氏
(右)CMO 小原良太郎氏

Pt engine』は中国発のスタートアップPtmindが開発、販売するブラウザ型アクセス解析ツールだ。

これまではスマホ専用版を販売していたが、4月17日、同社発のリリースで、スマホだけでなくPC・タブレットにも対応させ、UIや機能を一新したものを無料で提供すると発表(現在はティザーサイトで事前登録受け付け中)。業界内で注目を集めた。

新たに提供するバージョンでは、サイトを訪問したユーザーが使用している端末、OS、ブラウザ、ユーザーの居住地域、流入元の検索エンジン、検索キーワードや広告効果といった情報の解析が可能に。

Google Analytics』のような既存サービスと大きく異なるのは、サイト訪問者がどの部分をタッチしたかといった情報が、サーモグラフィのようなヒートマップで表示される点。例えばスマートフォンの場合、小さな画面のどこにサイト訪問者の視線が集中しているかまで可視化してくれる。

これによって、これまでアクセス解析の専門家でなければ分からなかったような解析結果の「解読」が、誰でも行えるようになっている。

アイデアの出発点:日本で通用すれば、中国でも売れる

「中国では、現状、アクセス解析ツールの市場規模が小さく有料版をリリースしても需要が見込めません。ならば、中国で市場の発展を待つのではなく、日本で先に製品をリリースすることでより良い製品づくりのためのノウハウを得て、その後に中国で展開すればいいと考えました。日本の方がユーザーが多い分、高度な意見をもらえますからね」

「大学生の時から自らサイトを企画、デザインするぐらいWebには強い興味がありました」(鄭氏)

そう話すのは、『Pt engine』の開発を行う株式会社Ptmindの創業者で、CEOの鄭遠氏。大学生の時、経済を学ぶため日本に留学していた経験を持つ。

OKWaveの社員で、現在はPtmindのCMOを務める小原良太郎氏も、鄭氏が留学中に知り合った一人だ。

「2010年に鄭から起業の話を持ちかけられた時点では、日本へのアクセス解析ツールの新規参入はすでに遅いと考えていました。ただ、日本では一部の専門家しか使いこなせていないという側面も同時にあった。

ならば商機はそこにあると考え、『誰でも簡単に使える解析ツール』をコンセプトに『Pt engine』の開発を始めました」(小原氏)

開発のポイント:MapReduceを用い、表示のリアルタイム性を実現

「誰でも簡単に使える」ようにするため、開発時に特にこだわったのが、UIとリアルタイム性だ。

「誰でも簡単に使えるというのは、言い換えれば『見れば分かる』ということ。そのために力を入れたのがヒートマップ表示です。従来は数値で表示していた情報を、ヒートマップを用いたUIで可視化したことで、直感的な認識や操作を可能にしました。また、全体のデザイントーンは黒と緑を基調とした配色で統一。1日のヒートマップの動きの再生や、範囲指定内でのクリック数や平均滞在時間などの表示といった、充実した機能性を持ちながらも、楽しく使えるユーザビリティーを実現しています」(小原氏)

「見ればわかる」と小原氏が言うように、視認性の高さも『Pt engine』のウリの一つだ

「加えて、ユーザーにストレスなくツールを利用してもらうため、『リアルタイム性』も重視しました。ヒートマップなどがすぐに表示されることはもちろん、サイト訪問者がWebページのどこをタッチしているかという情報をリアルタイムに表示することができます」(鄭氏)

UIとリアルタイム性によって支えられる『Pt engine』のUXを実現するためには、膨大な量のデータの迅速な処理が必要不可欠だ。『Pt engine』のデータ処理方法について、CTOとして中国の開発チームを率いる薛理偉氏はこう語る。

「データを小さく分散してサーバに保存するシステムを自社で構築しました。データ量は今後、際限なく増えるので、容量を自由に拡張できる柔軟性の高いサーバを使用。保存したデータは、Googleによって2004年に導入されたフレームワーク、MapReduceを用いてクラウド上で処理しています」(薛氏)

開発チームと販売チーム、海を挟んだ切り分けが業務効率化に貢献

高度な技術力で理想的なUXを生み出すPtmind。使っている技術以上に、ほかの企業と大きく異なるのが、その組織体制だ。

「アクセス解析によって必要とされる情報は世界各国で共通しているため、アクセス解析ツールは、地域に根差した開発を必要としません。ただ、販売に関しては商習慣や言語などの違いにより、地域ごとにマーケティング戦略を分けて考える必要がある。そのため、開発は中国で、販売拠点は日本に置いています」(鄭氏)

一般的に、「中国で開発を行い、日本で販売を行う」と聞くとオフショア開発を思い浮かべる。しかし、Ptmindは中国の会社であるため、自社の製品を中国人エンジニアが開発するのはオフショアには当たらない。とはいえ、組織の2大要素である開発チームと販売チームが、遠く離れた場所にあることによる制約や、難しさはないのだろうか?

Ptmind-devteam

「日本の意見はしっかりと中国へ届けて、製品のクオリティアップに役立ている」と話す3人

「今のところ問題ないです。経営陣は小原を除いて全員が日本語も中国語も話せるため、両国の窓口として機能できますし、チャットツールを利用すれば、情報共有にも支障をきたしません。頻繁に日本に来る必要もありませんし、やり方次第で地理的な問題は解決できます」(鄭氏)

「基本的にわたしは、中国で開発の指揮を取っており、日本に来るのは2~3カ月に1度ぐらいですね。その際は、日本に販売チームの意見を聞き、中国での開発に反映します。頻度は多くありませんが、普段の細かな業務の共有はチャットツールで行っているため、特に不自由は感じません」(薛氏)

大人数の従業員を抱える製造業などと異なり、Webサービスを提供する組織では必要最小限の少人数制を取る場合が多い。

チーム機能を明確に分け、経営者はその間を行き来するPtmindのような組織スタイルが、従来の組織体制よりも効率的、かつコストダウンにつながるのであれば、今後同じようなスタイルを採用する企業が増えてくる可能性もあるだろう。

地域格差を利用し、絶妙なグローバルマーケティングを展開

では、今後はどのような展開戦略を練っているのか?

「無料版は、5月下旬くらいをメドに事前登録をしていただいた方のみに先行案内をします。完全な一般公開は6月中旬を予定しています。これは2011年4月に公開して以降、バージョンアップを繰り返し、クオリティを上げてきた、有料製品を基にしたものです。日本でのリリース後は、欧米への販路拡大を目論んでいます。すでに人材も見つけていますよ」(鄭氏)

日本での無料版の公開や欧米への展開は、製品のクオリティアップのみならず、中国での本格展開への布石にもなっている。

「日本や欧米で成功させれば、ブランド価値も高まるでしょう。日本や欧米での経験をしっかりと反映して、中国で製品をリリースした時の反応が今から楽しみです」(鄭氏)

中国・日本・欧米間における市場成熟度と人材保有率の格差をうまく利用し、自社製品の品質・ブランド力向上を図るPtmind。平均年齢20代のスタートアップとは思えない老練なグローバルマーケティング戦略は、果たして功を奏するのか。これからの展開に目が離せない。

取材・構成/桜井祐(東京ピストル) 文/長瀬光弘(東京ピストル) 撮影/竹井俊晴

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