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「プログラマーは怠惰であれ」『Qiita』海野弘成氏【連載:Hackers】

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隆盛を極めるスタートアップベンチャーの現場において、最も渇望されているのが組織のけん引役となるようなリーダーエンジニアの存在だ。必要なスキルセットは、技術、経営、採用など非常に広範に渡る。本連載では、創業期のスタートアップを支えるエンジニアへの取材を通して、彼らの持つスキルセットをインキュベーター・木下慶彦氏の視点から明らかにしていく。
インタビュアー

インキュベーター
木下慶彦

1985年生まれ、2009年早稲田大学理工学部卒。大手証券会社系のベンチャーキャピタルを経て、現在インターネット系のシード・アーリー企業様への投資・インキュベーションに特化したベンチャーキャピタル インキュベイトファンドにてアソシエイト。創業支援型インキュベーションプログラム『Incubate Camp』のプロジェクトリーダーも務める

連載第4回目に登場するのは、プログラマー用の技術情報メモに最適なMacアプリケーション『Kobito』のリリースも話題となった、プログラマーのための技術情報共有サービス『Qiita(キータ)』を運営するIncrements(インクリメンツ)の代表取締役、海野弘成氏だ。

京都大学在学中にGoogleやはてななど、プログラマーとしてインターンを経験してきた海野氏。全国トップレベルのプログラマーたちと並んで活動をしてきた中で、浮き彫りになった問題意識から生まれたWebサービス『Qiita』の誕生秘話や、代表兼プログラマーとして活動する際に同氏が心掛けている指針を語ってもらった。

プログラマーになるためにはどうしたらいいのか?

プログラミングを始めたばかりの友人に、「プログラミングスキルを上達させるにはどうしたら良いか?」と聞かれた経験がある方は多いのではないだろうか。海野氏も、友人からこの質問を受けることがあった。

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『Qiita』は、多くのプログラマーたちがそのサービスに期待を寄せるなど注目度も高い

しかし、その最適解は、近年プログラマーのニーズが高まっている時代にもかかわらず生まれていない。そこで、『Qiita』の最初の構想が生まれた。

海外では『Stack Overflow』などプログラミングのQ&Aサイト自体はあったが、日本ではこの分野ではこれといって突き抜けたサイトはなかった。「これはニーズがあるのでは」と思い、開発に着手することとなる。

大学に入ってからプログラミングを始めた海野氏は、在学中にはてなでインターンを経験した後、2年間アルバイトとして働いた。はてなでのインターンは「コードを書いている夢を見てしまうほど大変だった」と、その厳しさや充実感を振り返ったが、周りに優秀で経験豊富なプログラマーが多く、かつ全員がプログラミングを楽しんでやっていることに刺激を受けたという。

また、そうした環境で自分一人ではなくほかの人と一緒にプログラミングをしていく楽しさと学びの多さを感じ、プログラマーとして働いていこうと意思を固めた。

こうした流れから、構想を描いた現在の『Qiita』のサービスの開発へドライブをかけ始めることとなった。スタート時から学生時代にビジネスコンテストで出会った現在の仲間とサービス開発に着手したものの、当初海野氏以外は別の仕事を掛け持ちながらかかわっていたため、オンラインでのコミュニケーションが中心であった。

メンバーは、当時大手IT企業で営業を行っていたマーケティング担当の横井孝典氏と、SE経験もあるデザイナーの小西智也氏、そして海野氏の3名だ。役割分担が明確なメンバーが集まり、『Qiita』のサービス構想にも自信があった。そのような背景と、海野氏の大学卒業のタイミングも重なって、創業に踏み切ることとなる。

また、「Open Network Lab」の選考に通ったことも、その決断を後押ししたという。

海野氏が語る、「スタートアップ技術者 3つのスキルセット」

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闇雲に最新技術を習得するのではなく、「その技術がユーザーにとって有益かどうか」を見極めていると海野氏

「プログラマーをやっていると、新しい技術はとりあえず使ってみたい、という思いがわき上がってきます。

でも、その最新技術がユーザーのためになるかというと、そうでもない。そこをしっかりと、『サービスの改善、ユーザーのためになるか』という軸で選ぶようにしています。

特に、新しい技術に触れる時って、自分でコードを書いてみて、動いたらそこで満足してしまいがちです。そこで満足せず、その技術でできたことや特性をしっかりと判断し、ユーザーのためになっているかを見極めることが重要だと感じています。これは僕の持論ですが、登場したての技術は注目を集めやすいのですが、安定化するまでの間は少し距離を取った方が良いと思っています。注目度が高いだけの技術は廃れて、やがて本物の技術が残りますからね」

「プログラミングの目的は自動化。そのこともあって、プログラマーの三大美徳は、「怠惰」、「傲慢」、「短気」と言われています。中でもわたしが好きなのは『怠惰』です。つまり、自分が楽をするために全力を尽くしてプログラミングをするんです(笑)。些細なことでも積み重なれば大きいので、とにかくコードを書くことで簡易化していくようにしています。

スタートアップ企業だと、少数精鋭の組織で結果を出すためにも、何事も効率良く動かないといけません。そういう意味で、代表としてもできるだけ無駄をなくすために行動するように心掛けています」

「スタートアップは少数精鋭のため、『自分がやらなくても誰かがやってくれる』ということはあり得ません。メンバーそれぞれがボトルネックになることも多いんです。これは自分がやりさえすれば進み、やらなければ止まる、ということ。だからこそ、自分がやりさえすれば何事も前に進むと思えて、そういう環境を楽しめることが重要だと思います。

そこでわたしが意識しているのは、優先順位付けの徹底です。クックパッドが外部の勉強会でも公開している、『(ユーザー)は』、『(欲求)(し)たいが』、『(課題)(ない)ので』、『(製品の特徴)(こと)に価値がある』という仮説設定テンプレートを利用した仮説検証を社内で徹底し、機能改善の優先順位を付けています」

技術者の知識を集約すればクリエイティブでない時間を減らせる

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大学卒業後、就職ではなく起業の道を選んだ海野氏。「プログラミングのすそ野を広げたい」と、その思いは強い

「技術者の持っている知識を集約してクリエイティブでない時間を減らし、プログラミングをより生産的なものにしたいんです」

海野氏は、『Qiita』を通して実現したいことをそう語ってくれた。国勢調査によると、プログラマーをはじめとする情報サービス産業従事者の人口は国内約85万人とされているが、『Qiita』や『Kobito』がこの中で確固たるポジションを作っていくことが当面の目標であるという。

現在は3人のチームで運営を行っているが、これからはプログラマーのメンバーを増やし開発スピードを高めて行きたいとのことだ。

「プログラマー向けのサービスづくりに熱意や魅力を感じる人と一緒にサービス開発を行いたい」と話す海野氏だが、すでに現在『Qiita』のコアユーザーで、たくさんのフィードバックをくれるユーザーなどもおり、中には「主要メンバーとしてチームに加わってほしい」方もいるとも述べた。

プログラマーのインプットとアウトプットをどんどん効率化、生産的にしていき、プログラミングのすそ野を広げている海野氏の今後の活躍に注目していきたい。

【インキュベーターの視点】

「プログラマーになりたい」。そんなことを思う人は、スタートアップが多数生まれた昨今において、増えているだろう。それをサポートしてくれるのが『Qiita』である。代表でもありプログラマーでもある海野氏が、「クリエイティブな仕事をするためにプログラマーの知識を集約したい」との思いを語った点は印象的だった。

ソーシャルメディアが台頭していく時代において、個人の活動領域やスキルが上昇するサービスを通じてプログラマーの働き方も進化していくだろう。

撮影/小禄卓也(編集部)