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BtoCのアイデアが「業務系」の幅を広げる~新しいBtoBサービスを創るハッカソン『2B Hack』レポ

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BtoBサービスに特化した内容で行われたハッカソンイベント『2B Hack』

国内外で高まる「BtoBサービス」変革の機運を受けて、起業家育成で知られるMOVIDA JAPANと弊誌『エンジニアtype』は2014年6月14・15の両日、ハッカソンイベント『2B Hack』を、東京・表参道のSansan株式会社セミナースペースで開催した。

ハッカソンイベントは一般的に、BtoC分野のWeb/アプリサービスの開発を行うケースが多いが、『2B hack』は「新しいBtoBサービスを創る」をテーマに、B向けサービスに特化した内容として企画した。

当日は、SIerのSEからITコンサルタント、ベンチャー企業の社長まで、幅広いバックボーンを持つ14人が参加。協賛企業の講演に始まり、アイデアソン~ハッカソン~デモを2日間でこなすタイトなスケジュールながら、各自が日ごろから感じている問題意識に端を発した質の高い5つのサービスが無事、産声を上げた。

また、このハッカソンは、国内のB向けサービス市場に新風を吹き込んでいるテクノロジー企業7社の協賛を受けて行われた。各社には「サービス開発の工夫やBtoBマーケットでシェアを伸ばすためのアイデア」をテーマにした講演とメンターを依頼。さらには、協賛企業賞として豪華賞品も提供してもらった。

サイボウズ株式会社(グループウエア大手)
→Jawboneのワイヤレススピーカー『MINI JAMBOX』
→サイボウズマンのニギニギフィギュア

Sansan株式会社(クラウド名刺管理)
→個人名刺作成支援(自由に名刺を1箱作れる)
→1年間、名刺スキャン取り込み放題権

株式会社gamba(日報共有ツール『gamba!』提供)
→ロゴ入りTシャツ

八面六臂株式会社(鮮魚流通に特化したITプラットフォーム)
→『八面六臂』取引先店舗でのディナー招待

さくらインターネット株式会社(サーバホスティング)
→叙々苑チケット3万円分

株式会社ビズリーチ(転職・求人サービス)
→スターバックス ギフト券  5000円分

株式会社Ptmind(Webデータ分析システムの開発・提供)
→ロゴ入りTシャツ

さくらインターネットからはIaaS型クラウドサーバ『さくらのクラウド』を、サイボウズからはビジネスアプリ作成プラットフォーム『kintone』のAPIを提供してもらい、これらを自由に使える環境でハッカソンが進められた。

スマホ連携は前提!? 効率化だけでなく業務を「楽しく」させるサービスも

それでは、2日間のハッカソンで誕生した5つのBtoBサービスを順に紹介しよう。

■クエストランチ【gamba!賞】【八面六臂賞】【さくらインターネット賞】

ランチを通じた社内人材マッチングサービス『クエストランチ』

ランチを通じた社内人材マッチングサービス『クエストランチ』

ランチを通じた社内人材のマッチングサービス。役員や人事担当者が設定した質問に、社員がスマホアプリを使って回答、その結果に基づき、独自のアルゴリズムでマッチングされたチームごとにランチへ行くことで、社員間の相互理解を深める。

「誰が何を知っているかを知らない」「誰が何を知っているかは知っているが、話したことがないから聞けない」という社内コミュニケーションの二つの壁を打ち破ることで、組織能力の向上につなげる狙いだ。

質問への回答は、スマホでサクサクできるようになっており、エンタープライズ向けサービスだがPCに“閉じない”仕様も特徴的だ。

■ラップタイムス【ビズリーチ賞】

「通勤で健康になる」をテーマにした新しい入退室管理システム『ラップタイムス』

「通勤で健康になる」をテーマにした新しい入退室管理システム『ラップタイムス』

「通勤で健康になる」をキャッチコピーにした、勤怠管理のためだけではない新しい入退室管理システム。社員の入退室時間の記録とログの集計・参照といった基本機能に、社員の持つスマートフォンと連携することで通勤時などの歩数を記録し、社内でシェアする機能(多く歩いた人は他の社員から励まされるなど)を加えたことで、社員の健康促進を狙った。

入退室の記録も社員各自が持つスマートフォンのアプリで行い、iBeaconで情報を通信。ログの管理も『kintone』だけで行えるため、低コストでの導入が可能。

基本無料だが、有料版ではスケジューラー、ランニングアプリなどとの連携も。

■コラボワーカー【Ptmind賞】

企業間の小規模プロジェクト進行管理システム『コラボワーカー』

企業間の小規模プロジェクト進行管理システム『コラボワーカー』

企業間の小規模プロジェクト進行管理システム。フリーランスをはじめとする個人事業主が企業と働く上で、企業文化の違いがコミュニケーションの難しさを生んでいる点に着目。

スレッド単位でコミュニケーションを取りつつ、そこに出てくる話題を手軽にタスク化する機能を加えることで、コミュニケーションツールとプロジェクト管理ツールのいい所どりを目指した。

相手に気を使って進捗を聞きづらい人のために、LINEのスタンプと似た感覚で気軽に進捗状況を尋ねることができる「進捗どうでしょうボタン」も実装。

■ステタチ【Sansan賞】

イベントの主催者、参加者双方の「その後」のコミュニケーション促進サービス『ステタチ』

イベントの主催者、参加者双方の「その後」のコミュニケーション促進サービス『ステタチ』

“Stay in touch”略して『ステタチ』と名づけられたこのサービスは、イベントの主催者、参加者双方の「その後」のコミュニケーションを促進するもの。協賛企業だったSansanの名刺管理クラウド『Eight』と連携しており、主催者はイベント終了後に参加者の名刺を読み込んですぐに名簿を作成。アンケートを送付するなどができる。

一方、参加者側はアンケートに答えることで初めて、名簿や資料を参照でき、「イベントではお話できませんでしたが改めて会いましょう」といったアフターコミュニケーションを取ることもできるようになる。

アンケート回答率が上がることで、主催者のデータ収集がスムーズに。かつ、見逃されがちな「イベント後のフォローアップ」や「アフターケア」も容易になるなどのメリットがある。フォローメディア『カメリオ』との連携で、参加者の勤務先に関する最新ニュースを自動収集して表示する機能も。

■うぇぶうぉちゃ【サイボウズ賞】

Web上に公開したくない情報を検知するサービス『うぇぶうぉちゃ』

Web上に公開したくない情報を検知するサービス『うぇぶうぉちゃ』

顧客情報やパスワードなど、Web上の公開したくない情報を検知するサービス。検索エンジンやSNSのほか、インデックスされていない情報も監視対象に。フロントエンドに『kintone』、バックエンドは『さくらのクラウド』を利用。GroovyでWebをクロールし、結果はメールで報告する。

ユーザーの要望にしたがって、検知後の処理やセキュリティーシステムのコンサルティングも行い、マネタイズを図る。1ワードから依頼できる手軽さも売りだ。

≪総評≫
意外にもと言うべきか、誕生した5つのサービスのうち、業務の効率化などを目指した純粋な意味での業務系サービスと呼べるのは、プロジェクト管理の『コラボワーカー』だけだった。

協賛企業3社からの表彰を受けた社内人材マッチングサービス『クエストランチ』は、ゴールを「組織能力の向上」に置いており、広い意味では業務系といえる。こうした、C向けサービスのアイデアを活かした業務改善のアプローチは、今後のBtoB分野の大きな潮流になっていくだろう。

また、単純に課題解決をするだけでなく、エンタメ性や「やってみたくなる何か」を持ったサービスが目立った。働く人々の“やらされ感”を緩和する、という視点は、今後のBtoBサービスでも大事な点になるのかもしれない。

アイデアは、仕事の中で感じた不便が原風景となって生まれる

BtoBサービスを運営していく上でのヒントに満ちた、協賛企業各社による講演も行われた

BtoBサービスを運営していく上でのヒントに満ちた、協賛企業各社による講演も行われた

ハッカソンに先立って行われた協賛企業各社の講演は、どれもこれから本格的にB向けサービスを立ち上げる企業にとって示唆に富んだ内容だった。

■「BtoB向けWebサービス」の作り方~開発プロセスと、グロースハックの疑問
gamba!株式会社 代表取締役 森田昌宏氏

以下の3つの理由で、BtoBサービスには追い風が吹いている。

(1)ユーザーのITリテラシーが上がってきている
(2)SNSなどを駆使したコンテンツマーケティングで、顧客開拓が容易に
(3)シードアクセラレーターが増え、ノウハウ・金銭面で立ち上がりがスムーズに

アイデアは普段の仕事の中で感じる不便を何とかしたいという思いが原体験となって生まれる。いいサービスを作るには、アイデアを思いついたらすぐに世に出し、ユーザーからのフィードバックを受けて、徹底的に改善することだ。

■iPadで変わる領域特化型ECサービスにおける新規事業の作り方
八面六臂株式会社 CTO 齋藤健一氏

電話やFAXでやり取りしていた時代は情報が一方通行で、ユーザーが求めていることを本質的に理解するのはなかなか難しかった。だが、iPhoneやiPadの普及で、PCとは縁遠かった一次産業従事者や肉体労働者とも双方向のやり取りができるようになり、ユーザーにマッチした情報が届けられるようになった。BtoBの分野でも、UI/UXとレコメンデーション機能の重要性が増している。

また、通信環境の改善により、サービス同士をつなぎ合わせてデータを連係し、新しいサービスを提供することが可能になってきている。

■ビズリーチ事業とRegionUP事業のB2Bモデルと、日本と海外での共通点や違い
株式会社ビズリーチ 『RegionUP(リージョンアップ)』事業統括 國分佑太氏

日本市場では、転職へのアプローチの仕方が「求職者=草食、企業・ヘッドハンター=肉食」の関係だが、アジアでは逆。強力な競合がおり、市場環境がものすごく厳しいため、同じサービスでも同じシナリオでは通用しないことが分かった。

海外に進出してみての学びは、以下の3点。

(1)進出して初めて分かることがある。「進出したこと」自体が大きな一歩
(2)制作部隊が現地のニーズに直接触れ、背景を知ることが大切
(3)リモートチームでのやり取りでは、言葉以外のツール=データが重要になる

■B向けサービスの「UI/UX設計」で気をつけるべき点とは?
株式会社Ptmind 事業戦略部部長 小原良太郎氏

開発は必ず、「デザイン化」→「開発側の検討」の順で行う。開発側の負担は大きくなるが、この順番を変えてしまうと、良いものは作れない。ユーザーにとって使いづらいものができてしまう。

「UI/UX設計」とは、以下の3点に集約される。

(1)やりたいことがすんなり行えるか
(2)レスポンスが速いか
(3)パーソナライズされているか

■「BtoBサービス」開発の注意点&発想法
Sansan株式会社 開発部部長 藤倉成太氏/Eightエヴァンジェリスト 日比谷尚武氏

BtoBサービス開発において注意すべき点は、以下の5つ。

(1)ユーザーの視点は持てない(安易に持ったと思わないこと)
(2)世界観を提示する(ユーザーは自分が何に困っているのかを分かっていない)
(3)グロースハックが通用しない(C向けの手法に自分で上乗せする必要がある)
(4)シンプルにしすぎない(複雑な業務フローを考慮しないとただのツールになる)
(5)デリバリークオリティーの重要性

5社6人の登壇者の講演内容には共通する部分が少なくなかった。

例えば、gambaの森田氏と八面六臂の齋藤氏はそろってリーン開発を推奨し、「アイデアを思いついたら、すぐに形にして世に問う」ことの重要性を説いている。これは、ビズリーチの國分氏が「(海外に)進出したこと自体が大きな一歩」と話していることとも通じるだろう。

BtoB、とかくエンタープライズ向けサービスでは、営業的な側面で「開発以外」の部分が重要視されがちだが、上記の3社の話を聞く限り、現在はWebサービス開発に感覚でサービスを立ち上げることで光明を見いだすことができるようだ。

ただし、ユーザーが本当に求めているものを知るのは、本当に難しいことだとSansanの藤倉氏は言う。「安易にユーザー視点を持つべきではない」と話した直後に、「(BtoBサービスでは)ユーザー自身も、自分が何を望んでいるのか分かっていない場合も多い」と指摘している。

どこを探しても、答えは一朝一夕には得られない。開発者の目線を持ちつつ、ユーザーの立場に寄り添う。そんなアクロバティックなパフォーマンスを追求した答えが、「開発者自身が仕事の中で感じた不便が原風景となって、アイデアは生まれる」(森田氏)という教訓なのだろう。

これから新たにBtoBサービスを立ち上げようと考えている人は、先人たちの実体験に基づく教えの数々を、ぜひ参考にしてみて欲しい。

取材・文/鈴木陸夫(編集部)