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アップル復活を支えた男・前刀禎明が考える、新しい時代の「ユニークネス」とは

公開

 

「これからの社会では、自らの意思で考えて動くことのできる人材が今まで以上に重要になってくる」

そんな言説を耳にすることが増えている昨今、まず知るべきは、自律型の集団が生む「オリジナリティーあふれるビジネス」とはどんなものなのか、ということ。

そこで、1990年代の苦境を乗り越え、『iPod』のヒットで復活のきっかけをつかんだアップルで、日本法人(現・Apple Japan)代表を務めた経験を持つ前刀禎明氏に話を聞いた。「最もユニークな会社」の内情を知る彼が考える、2010年代に求められるユニークネスとは?

※このコンテンツは、就職学生向け情報誌『就活type』(2012年11月1日発売予定)の巻頭企画「6人の賢人が語る『これからのビジネス』の話」からの転載となります。本誌情報は記事末尾にて。

プロフィール
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株式会社リアルディア 代表取締役社長
前刀禎明(さきとう・よしあき)氏 

1958年生まれ。慶應義塾大学大学院修了後、ソニー入社。ベイン・アンド・カンパニー、ウォルト・ディズニー・ジャパンほか数社を経て、2004年に米Appleマーケティング担当バイスプレジデント、アップルコンピュータ日本法人(現・Apple Japan)代表に。『iPod mini』ヒットの仕掛け人と呼ばれる。2007年にリアルディアを創業

わたしは今年の7月に『僕は、だれの真似もしない』という著書を出しましたが、中で“セルフ・イノベーション”の大切さと、それを身に付ける方法について言及しました。

なぜなら、今後はどんな企業組織においても、自分なりの価値基準で考え、動く人が不可欠になると思っているからです。

最近はSNSが普及したことによって、周囲の人や企業が何を考えているのかが瞬時に分かる時代になりました。実はこれが、人々から個性を奪っているように感じています。「みんなの意見」がすぐ分かるようになったことで、多くの人が多数決に迎合し、思考停止を招いているのです。

この思考停止がもたらすのは、仕事をこなすことが目的化した社会です。

例えば日本の家電メーカーは毎年、春夏や秋冬商戦と称して決まった時期に新製品を発表していますが、これこそ思考停止の極み。

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日本の風物詩と化している家電製品や携帯メーカーの「春夏(秋冬)商戦」が、イノベーションを阻害する?

ボーナス時期に新商品を出すことが目的化してしまい、本当にイノベーティブな機能を搭載することなく各社が似たような製品を出しています。

一方、先日発売したiPhone5を見てください。突然発表会が開かれ、何の時期性もないタイミングで発売されましたよね?

これが示すのは、アップルは日々の技術革新の末、今まで以上にユニークで最高の製品を実現できた時点で新商品を出すという企業ポリシーです。日本のメーカーとは決定的な差があります。

国内のビジネススクールに通う人たちも増えましたが、これも没個性を招いている。志を果たすためというより、「ヒトより抜きん出たい」という思いだけで通学が目的になっている人が多いように感じるからです。これではユニークな価値を作ることなどできません。

「How」を追うな。「Why」から発想せよ

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新しいニーズを掘り起こすようなユニークネスを生むには、世の「多数決」に迎合してはダメと力説する前刀氏

では、人や企業はどうすれば新しいユニークネスを生み出せるのか。そのヒントとして、ピクサー・アニメーション・スタジオの仕事ぶりを紹介しましょう。

彼らはCGIアニメーションの先駆者として、常に新しい技術をキャッチアップしていますが、社員たちは「それが映像の未来をどう変えるのか?」という視点でトレンドを見て、部署や役職を問わず徹底して議論を繰り返します。

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前刀氏が「ユニークさを生む組織」の例に挙げたピクサーも、”元・上司”にあたるジョブズが1986年に買収した会社だ

決して「シリコンバレーではやっているから」という理由だけで、最新技術を採用したりはしません。世界中の凡庸なIT企業はいまだにシリコンバレー信奉を捨てられずにいますが、それでは後追いしかできないのです。

「どうすれば自分たちで未来を変えられるのか」

この視点で考える習慣が組織に根付いているからこそ、ピクサーが世に出す作品はいつもオリジナリティーにあふれているのです。未来は予想するものではなく、自ら創るものだという好例ですね。

これから社会に出て行く学生の皆さんや、若いエンジニアの方々には、メディアが垂れ流すビジネストレンドや流行り言葉に踊らされず、ぜひセルフ・イノベーションを起こす人を目指してほしい。

そのためにも、前例のないことにどんどん挑戦をする勇気を持ってほしいですね。「若いヤツは黙って言うことを聞け」なんて職場に入ってはダメです(笑)。

また、仕事の「How」を覚えることではなく、なぜそれをやるのかという「Why」を考える習慣を付けることも意識してください。この習慣を持ち続ければ、3年も経てば人と違う創意工夫でビジネスをけん引できる人になれるでしょう。

取材・文/浦野孝嗣 撮影/竹井俊晴 撮影協力/アカデミーヒルズ 平河町ライブラリー

●雑誌『就活type』とは?

2007年に創刊した、就職活動に臨む学生に向けた就職情報誌です。「働くの本質を考える」を媒体コンセプトに毎年1回の雑誌発刊と関連する就職イベントの開催を行っています。

2012年11月1日(木)発売予定の雑誌では、本記事に登場する前刀氏のほか、ライフネット生命保険の岩瀬大輔氏や元グーグル日本代表の辻野晃一郎氏(現・アレックス創業者)、夏野剛氏、梅澤高明氏、茂木健一郎氏、小林弘人氏などトップビジネスパーソン&知識人へのインタビューを多数掲載しています。販売は全国主要大学の学生協ほか、大手書店にて(290円)。
詳しい情報はWebサイト『キャリアビジョンtype』でご覧いただけます。