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宇宙ビジネス実現のカギは「ロマンより数字」~スクーが“宇宙起業家”養成カリキュラムを開講

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スクーの“宇宙起業家”養成カリキュラム

コミュニケーション型動画学習サービスを提供しているスクーが、8月22日から「“宇宙起業家”養成カリキュラム」を5回にわたって開講する。講師は宇宙ビジネスコンサルタントで、米スペースフロンティアファンデーションのアジアリエゾンを務める大貫美鈴さんが務める。この特設ページが8日から同社の Webサイトで公開されている

なぜスクーがこの夏、宇宙周辺事業を立ち上げる意欲ある起業家のためのカリキュラムを実施するのか? その理由は実にシンプルだ。スクーの創業社長、森健志郎氏自身が以前から「宇宙に暮らしたい」と思っていたからだ。

「最近の宇宙に関するトピックやビジネスに関する情報を見ていて、このままだと僕が生きているうちに“宇宙で暮らす”のはムリなんじゃないかと思い始めたんです。それなら当社のサービスで宇宙起業家を養成するカリキュラムを実施して、イノベーションの加速に貢献しようと考えたのがきっかけです」(森氏)

人類が宇宙で暮らすために教育で貢献したい、と力強く話す森氏

人類が宇宙で暮らすために教育で貢献したい、と力強く話す森氏

『機動戦士ガンダム』や『超時空要塞マクロス』が、宇宙で暮らしたいという夢を持つきっかけだったと話す森氏。

実際に宇宙起業家養成のためのカリキュラムを実施するにあたって、先生や授業の内容についてオファーしたのが、海外の宇宙ベンチャーに関する最新ニュースを発信するWebサイト、アストロプレナーを運営する石亀一郎氏だ。

石亀氏も小学生のころに天体望遠鏡を買ってもらい、2003年の「火星大接近」の際に自身の目で火星の平原や峡谷を観測したことから、宇宙へのロマンを抱き続けてきた1人だ。

今回のカリキュラムの受講を通して、宇宙ビジネスの現状を知ってもらい、1人でも多くの事業家に宇宙ビジネスへ参入する意義を知ってほしいという森氏と石亀氏。宇宙をとりまくビジネスの現状と課題、そして参入の余地がある分野について聞いた。

日本の宇宙ビジネスの足枷は情報格差

事業家による宇宙ビジネスへの参入といえば、日本では堀江貴文氏が立ち上げたSNS株式会社が有名だ。独自に小型の打ち上げロケットを開発し、超小型衛星を軌道に投入するプロジェクトの実証実験に取り組んでいる。

よく知られているように、近年、宇宙開発はアメリカのNASAおよび国防総省などが世界最先端の研究開発を主導。これまで有人宇宙飛行をはじめ、宇宙・惑星探査、衛星打ち上げなど数々の成果を上げてきた。

しかし、度重なる予算削減やプロジェクトの中止や停止が相次ぎ、広く民間から宇宙関連事業の提案を受け付け、それに対して共同開発や予算を配分するといった“官民一体型”のビジネスへと移行している。

「一口に宇宙関連事業といっても、スペースXのようにスペースシャトルに代わる次世代の大型ロケットの開発・打ち上げを目指す企業もあれば、よりビジネスとして有望な小型衛星の打ち上げを目指すところまでさまざまです。まずは、宇宙関連ビジネスにはどんな分野があって、どこへ投資するのがビジネスとして有望なのかを知ってもらう必要があります。宇宙関連事業での起業で失敗する人は決まってロマンばかりを語り、数字を見ていない。その情報格差をなくすのが私の使命だと思っています」(石亀氏)

巨大ロケット打ち上げには膨大な時間とコストがかかる

From NASA Goddard Photo and Video
巨大ロケット打ち上げには膨大な時間とコストがかかるため、新規参入は現実的ではない

人や大型衛星を打ち上げる次世代の大型ロケット開発は難易度が高い。しかもロシア、アメリカの民間企業にも有力プレーヤーが存在している。

日本でもH-IIAやH-IIBロケットの開発と打ち上げに巨額の予算と10年単位の時間を要する。

これではたとえ大手企業が巨額の資金を投入して参入したとしても、生涯に1~2回の打ち上げを経験できるかどうかという長期スパンになってしまう。

「そこで参入余地のありそうな分野として検討してほしいのが、各種衛星の打ち上げ事業です。この分野にもアメリカをはじめ世界各国で研究開発や実用化が進んでいますが、無限の需要が見込まれる上にビジネスとして収益が見込める点でイノベーションによるコスト削減などが期待される分野の1つですね」(石亀氏)

ソフトウエアドリブンな衛星打ち上げ事業に日本企業参入の活路

将来、ビジネスとして収益が見込める宇宙関連ビジネスとして、石亀氏は3つの小型衛星開発・打ち上げを挙げる。

【1】 通信・放送衛星
【2】 測位衛星
【3】 地球観測衛星(リモートセンシング)

「一番有名なのが通信・放送衛星ですが、これは地球上の通信や放送といったインフラを担う国や企業が大規模な資本を投入しているので最も進んでいる分野です。ここへの参入も可能性はありますが、起業やベンチャーとして参入余地が高いのが、リモートセンシングの分野だと思います」(石亀氏)

今年6月、米グーグルはスカイボックス・イメージングを買収した。買収額は現金5億ドルと(グーグルにとっては)少額だったが、早くも7月中旬に2号機の衛星が撮影した画像が公開された。地上の画像を約1m単位で映し出すことができ、その鮮明さが大きな話題になった。

「実は衛星そのものに搭載されたカメラのスペックはそれほど高いものではないんです。撮影した画像を鮮明なものに変換するソフトウエアの技術がものすごく優秀なんですね」(石亀氏)

つまり、日本が有するITに関する技術力や優れたエンジニアのスキルがあれば充分にこの分野への参入、貢献も可能ということになる。

「日本では東京大学の航空宇宙工学専攻をはじめ、超小型衛星の開発や打ち上げを手がけている大学がたくさんあります。つまり宇宙関連ビジネスに携わる知識やスキルを持った若手はたくさんいるのに、その受け皿となる宇宙関連事業が少ないというのが現状です」(石亀氏)

目指すは一人目のロールモデルの輩出

石亀一郎氏

宇宙関連事業の90%以上が官需であることが発展を妨げていると石亀氏は話す

その背景として、日本は宇宙開発を長く国家プロジェクトと位置付けてきたことを石亀氏は理由として挙げる。しかもその過程で数々のプロジェクトが難航し、世界へのアピールも充分ではなかったという経緯もある。

「NASAが民間からの提案を受け付け、民間への委託を積極的に進めているように、かなり規制緩和が進んでいます。ですので、これからは志のある起業家やベンチャーがどんどん宇宙への投資をしていく時代になると思います。日本もこの流れに乗り遅れないよう、どんどん情報発信していくのが僕の使命だと思っています」(石亀氏)

宇宙関連および宇宙周辺ビジネスへの投資が将来有望と確信する理由については、森氏も力説する。

「例えば通信網や放送網といったインフラは今、難易度が高いので地球上に整備されていますけど、宇宙開発が進めばこれがすべて通信衛星や放送衛星で代替できる時代になると思うんです。それだけでも宇宙関連・宇宙周辺ビジネスは地球上以上のマーケットがあると思います」(森氏)

加えて、巨大なマーケットと確かな需要が見込める分野であれば、事業を立ち上げ、充分に収益を上げていけるような起業家は数多いはずと強調する。スクーの『スタートアップ学部』には約3000人が登録しており、視聴者数が1800人超となる講座もある。スクーの講座を通して起業を志すユーザーも多いという。

「僕はたまたまコミュニケーション型の動画学習サービスを手がけていますが、まだ世の中にないサービスで、しかも需要も充分にあるという確信があればビジネスやサービスの種類が違っても成功できるノウハウを持った起業家は多いと思います。そういう人たちにこそこのカリキュラムを受講してもらって、ぜひイノベーションの加速に貢献したいですね」(森氏)

日本で宇宙関連の企業が少ない理由を問うと、「ロールモデルがいないから」と森氏は話す。このカリキュラムはその「一人目」を育てる意味合いも強いという。

地球を超える巨大マーケットがある宇宙関連・宇宙周辺ビジネス。宇宙への旅行、宇宙での滞在、宇宙で暮らす夢を実現するためにも、ロマンをビジネスへと昇華させていく意欲あるアントレプレナーなら必見のカリキュラムと言えそうだ。

取材・文/浦野孝嗣 撮影/佐藤健太(編集部)