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[連載:企業に直撃!] 和製ソーシャルプラットフォームSDKで世界に挑むパンカクの強さは、「脱日本的開発スタイル」にあり

公開

 
株式会社パンカク
代表取締役社長 柳澤康弘氏

<経歴>
慶應義塾大学総合政策学部在学中にビジネスプランコンテストで優勝。その賞金を元手に株式会社Jukebox Communicationsを設立。その後SNS開発会社の創業に参画したのち独立。プロジェクト・パンカクを経て、2007年にパンカクを設立。現職に就任

 ここ数年来、『iPhone』や『iPad』、Andoroid端末に代表されるスマートデバイスやソーシャルメディアの世界的普及によって、新たなサービスやビジネス分野が次々と誕生している。中でもその影響力の大きさにおいて、世界中の注目を集めるのがソーシャルゲームの分野だ。

この分野において今、その動向に熱い視線が注がれているベンチャー企業がある。2009年、米国App Storeの有料アプリランキングで1位を獲得したiPhone向けゲームアプリ『LightBike』や、昨年夏のリリースからおよそ1年で約800万もの利用者を獲得したスマートフォン向けゲームプラットフォーム『Pankia』を手がけたことで知られるパンカクだ。国内市場においても異彩を放つベンチャーとして業界では知られている。

なぜ、この和製ソーシャルプラットフォームSDK(Software Development Kit)は1年でここまで大規模なものになったのか。それは、「脱・日本的開発スタイル」の中から生まれたものだと、同社代表取締役の柳澤康弘氏は語る。

ゲームのソーシャル化が生み出す、自然なPR効果

複雑に絡み合う要素を、世界中の誰もが分かるシンプルなデザインに集約している『Pankia』

複雑になりがちな機能を、世界中の誰もが分かるシンプルなデザインに集約している『Pankia』

「ゲームデベロッパーがソーシャルゲームを開発する上での難題の一つに挙げられるものに、サーバサイドの開発にかかるコストと時間があります。『Pankia』はそうした手間をかけずとも、スマートフォン向けのゲームコンテンツにソーシャル機能を付加することができるプロダクトです」

『Pankia』最大の特長を柳澤氏はそう解説する。具体的には日英をはじめとする多言語対応可能で、ネットワーク対戦機能やリーダーボード(ランキング)機能、アチーブメント(実績)機能のほか、アイテム管理・販売機能やTwitterやFacebookとの連携機能といった、ソーシャルゲームに必要なモジュールを比較的容易にアプリに組み込むことができる。そのため、リソースをゲームコンテンツ開発に集中させたいデベロッパーにとって、導入のメリットは大きいものになるのだという。

またエンドユーザー側も、アプリのダウンロード直後に『Pankia』用のアカウントを設定しておけば、端末の故障や紛失、乗り換え時にも対戦データやアイテム購入履歴などを引き継げるというメリットを享受することもできる。

「メリットはこれだけではありません。端末のプッシュ通知によって、アプリが立ち上がっていなくても友人からの対戦依頼を受けたり、過去の対戦成績から算出した対戦の強さを表す称号や友人の『やり込み具合』を互いに共有することで、ゲームに対するモチベーションが刺激され、アクティブ率が高まります」

ゲームの面白さが友だちとのコミュニケーションによって、さらに強化される。また『友達がやり込んでいるゲームをちょっと試してみよう』といった、ニーズの掘り起こしも可能になるため、アプリ間で送客しあうことも可能。ごく自然な形によるプロモーション効果も期待できるのだ。

世界基準のものを作るためには、密な会話はいらない

日本発のプロダクトとして世界を狙える希有な存在であり、数少ない和製SDKとして強いオリジナリティーを感じさせる『Pankia』。国内の一ベンチャーがこうしたプロダクトを生み出せた背景には、これまでの日本的な開発スタイルとはまったく異なる開発スタイルにあった。

「パンカクは創業以来一貫して、海外で戦えるプロダクトを生み出すことを前提に、世界の市場で勝負できる汎用性の高いプロダクトを作る努力をしてきました。そのため、仕事の進め方一つとっても、顧客やユーザーニーズに応じて都度カスタマイズするという受託開発の発想とは、真逆ともいえるアプローチを採っています」

彼らが開発しているプロダクトの中でも『Pankia』は、とりわけ汎用性が高い。プロダクト化する上では、国籍も言語も異なる世界中の人たちが難なく使用できるように、高いユーザビリティーが要求される。大きな複雑性を秘めた高難度の課題を解決するためには、飛び切り優秀なエンジニアが必要なのだ。

社員の出社時間は大体10〜11時ごろ。中にはカフェで仕事をするメンバーも。それぞれが高いパフォーマンスを発揮するためには、時間や場所は問わないのだ

「カフェで仕事しようが、個々が高いパフォーマンスを発揮すれば、時間や場所は問わない」(柳澤氏)

「『Pankia』の開発に必要な素養や能力を言葉にするのはなかなか難しいのですが、プログラムを組む以前の段階の抽象的な概念をどれだけロジカルに詳細まで破綻なく突き詰められるか、そこが上手くできないと良い設計の基礎が固まりません。ですから、メタレベルの思考プロセスができないとなかなか難しいと思います」

日ごろから哲学的な命題、例えば『より良い設計とは何か』といったテーマを突きつめることが好きな性分で、かつプログラム構成の全体を広く理解できる能力を備えていること。この二つの資質と能力が『Pankia』の開発者には必要とされている。

この思考プロセスは、チームで共有することでどうこうできるものではない。個々人がそれぞれの高い思考力を持って、開発に臨むことが大切なのである。そのため、パンカクでは「できるエンジニアには極力制約を課さない」という、まさに「エンジニアファースト」というべき開発スタイルを採用しているのだ。

「『Pankia』の開発を行う上では、常に密なコミュニケーションを要求される日本的な開発スタイルとはまったく別の方法が必要になります。少しラディカルに聞こえるかも知れませんが、エンジニアの思考や作業を中断させるコミュニケーションは極力排除することこそが、良いプロダクトを生む原動力になると考えています」

開発には場所や時間の制約さえ不要。またメンバー間の協業や連絡はテキストチャットを中心に行い、ソースコードのコミットも自動的にチャットに流れ共有化。同時にログとして蓄積されるので、空いた時間に議論を遡って確認できる。

そのほか、Skype、メールを使い分けることで、他者の介入で思考や作業が中断することが極限まで排除されたワークスタイルを採っている。エンジニア一人一人の開発効率を第一に考えた開発スタイルといえるだろう。

こうした脱日本的開発スタイルによって生み出された『Pankia』は、今年2月、サイバーエージェントがリリースした、グローバル向けのiPhone用ソーシャルゲームプラットフォーム『GameWave』ならびに、国内向けスマートフォンプラットフォーム『Ameba Smartphone Platform』のベース技術としてOEM供給されるなど、国内外のシェア獲得に向けた足がかりも着々と固まりつつある。

「今後はソーシャルビジネスの中心地である北米を足がかりに、世界市場に飛躍して行きます。競合は決して少なくありませんし、解決しなければならない課題もありますが、日本にはモバイルやゲームにかかわる企業も多いですし、ノウハウもある。そうした企業と『Pankia』のOEMなどを通じて、ともに海外市場を開拓していけたらうれしいですね」
 
今なお拡大を続けるソーシャルゲームゲームの世界において、パンカクやそのプロダクトである『Pankia』が世界を席巻する日は、そう遠くないのかも知れない。

取材・文/武田敏則(グレタケ) 撮影/小林 正