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[特集:SEに明日はあるか? 2/3] スピード重視の今、極端な分業体制は時代のニーズに逆行する

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―― 戦略も開発も高度な要求に応えるには、分業化するのは当然のことだと考えている人は多いのではないでしょうか?

漆原 大手だと、プロジェクトの規模が大きいことも多いでしょうから、確かに分業化せざるを得ないこともあるでしょう。ですが、お客さまのことを考えると、両方できて当たり前で、もはやどちらか片方しかできないという人がいくらたくさんいても、立ち行かなくなりつつあります。だからこそ、ウルシステムズとノーチラス・テクノロジーズは経営統合したわけです。

「君は開発だけしていればいい」とか、「君は戦略だけ」みたいなやり方では、会社も個人も淘汰される側に回ってしまうはずです。

神尾 漆原さんがおっしゃるように、戦略だけ、開発だけしかできない人をそれぞれ集め、意見や役割を調整してからプロジェクトを動かすというのでは、スピード感は劣りますし、市場の要求に追いつくことはできないんでしょうね。結局、戦略を考える人も開発のことを分かってないとダメだし、逆もまたしかりなんだと思います。

例えば、Googleマップの日本版を作ったのはたった一人の開発者でしたし、アンドロイドの開発チームも最初は10人いなかったそうです。にもかかわらず、何百人もの開発体制を敷いてものづくりを行う企業より良いプロダクトが作れたのは、彼らの開発ツールの優秀さもさることながら、厳密な分業化をしなかったからでしょう。

細かく分業化してしまうと、担当以外は「自分の仕事ではない」という意識が生まれがちです。すると、全体の中での自分の役割も見えなくなりますし、仕事へのモチベーションや好奇心が落ちてしまう。

実際、面白い開発をしている開発者に取材をすると、本来の仕事ではない部分にかかわっていたり、スタンドプレーに近いことをしていたりする場合が少なくありません。テクノロジーの進化が急速に進んでいるからこそ、大規模な分業体制でやるよりも良いものができる時代になった。もう人数勝負ではなくなってきているんだと思います。

コンシューマー領域の出来事がエンタープライズ領域でも起こる

最首 ツールの進化によって、今まで多くの時間を人の手によって割かざるを得なかった作業を、機械的に処理できるようになったのはとても大きいですね。その結果、生産性が上がり、「分かっている」一人の人間の仕事ぶりが、「分かっていない」何百人もの人間の仕事を置き換えることも十分可能になっています。

こうした業界構造の変化は、一般的にコンシューマー領域での出来事として語られることが多い印象がありますが、実は同様のことが、今やエンタープライズ開発の世界でも日常的に起きています

キャプ

「大企業のパワープレーが通用していたのは過去の話。今は違う」(漆原氏)

漆原 世の中には、何百人もの開発者を投入しながら、ボロボロになっているプロジェクトがいくらでもあります。そんなプロジェクトに、非常に優秀なアーキテクトやプロマネを適切なポジションで入れるだけで、結果がまったく違ってくる。

これは、お客さま側がテクノロジーをよく理解されるようになったこと、そして多少人件費が高くても、非常に優れた少数のチームをプロジェクトに加えることで、良い成果が生まれることを理解してくださるお客さまが増えてきたからこそ、実現できるようになりました。

かつては大企業のパワープレーが幅を利かせていたので、やりようがありませんでしたから。でも今は、技術屋として個人が輝けるような仕事が増えているんです。

最首 かつてのメインフレーム中心のシステム開発は、大勢が分業で仕事をこなしていくことを前提としていました。だから単純な作業の積み重ねによって答えを出すようなアプローチをするしかありませんでしたし、個人の能力に差が出てはいけなかったんです。

(画像はWikipediaより)かつて

(画像はWikipediaより)

メインフレームからオープン系への移行が遅かった日本。いまだ大勢による分業体制が主流なのは、当時の名残か

しかし、今はテクノロジーも進み、複雑で多様なアプローチが可能です。実際、オープンソースコミュニティをはじめ、世界各国でいろんなことを考えてチャレンジしている開発者はたくさんいる。

神尾 わたしも仕事柄、いわゆる「スタープレーヤー」と呼ばれるような人と接することが多いのですが、彼らに共通しているのは、コミュニケーション能力が高く、人の話を聞きたがるという点です。何かに固執することがなく、情報感度が高い人が多い。そのため、「時代が合わない」ですとか「合理的でない」と思えば、ためらわずにスタイルを変えてしまう。

最首 神尾さんのおっしゃる「スタープレーヤー」は、非常にハイレベルな人材を差しているので、もう少し一般的な開発者レベルで考えてみると、「今、起きていることを自分のこととしてとらえること」ができるというのは大事だと思います。

噛み砕いて言えば、新しい技術に触れたとき、「自分だったらどう使うか」と考えられるかということ。特定の技術に触れて、良しあしを判断するだけでは、流行りものを追いかけている傍観者に過ぎません。

自分が見据えているものを実現するには、常に最適な手段を探さなければなりません。それを実現するには、やはり傍観者ではダメで、開発者側にも主体性が必要なんです。

アジャイル開発で共有すべきは「3時間以内に何を達成すべきか」

漆原 最首さんがまさにそうだと思うんですけど、優秀な開発者って夢を持っているんですよ。仕事を「食い扶持を得るためだけのものだ」って考えていると、どうしたって「これだけやっておけばいいや」っていう気持ちになるじゃないですか。

技術が本当に好きで、成し遂げたい夢がある人って、見たことがないものに対して拒否反応がないし、好奇心が強い。「どうしても触らずにいられない」みたいな(笑)。技術はもちろん、それ以外のことにも関心が高い人なんです。

神尾 確かに優秀な開発者は好奇心が強いですね。

漆原 それって損得じゃなくて、あくまでも面白いか面白くないか、夢がある夢がないとか、そんな話だと思うんです。ただ「仕事だから」って思っているSEは言われた通りに作るだけですが、何か夢を持って仕事をしているSEは「お客さまをギャフンと言わせたい」とか「こんなことやったらお客さまは喜ぶだろう」とか、そんな気持ちになると思うんですよ。

やらされているのと、好んでやっているのとでは間違いなくパフォーマンスは違いますし、客先からの評価も違ってきますね。

そういうものの考え方ができるのは、先天的な要素が強いとも考えられますが、環境も大事だと思いますよ。だって、どんなすごいヤツでも、「お前はこれだけやっとけ」みたいな環境に置いていたら、いつか辞めるだろうし、辞めなくてもすぐにグレちゃいますよ。

―― では、マネジメントをする立場として、どのような環境づくりをされていますか?

キャプ

「天才が一人いても仕事は成り立たない。チームプレーが大事なのは今も昔も同じ」(最首氏)

最首 やっぱりチームづくりって重要だと思いますね。天才が一人いても、それだけでは仕事が成り立たちませんし、その天才にとっても人生面白くないと思うんです。

プログラムを組むのがうまいとか、アーキテクチャを組むのが上手いとか以外にも、落ち込んでいる誰かを持ち上げるのがうまい人もいますよね。

チームワークを機能させるためにはいろんな要素が必要になる。お互いをリスペクトし合い、向上しようとする力が一人一人にみなぎっている状況をいかにつくるかは、極めて重要なテーマだと言えます。

そのためには、高いゴールを目標としつつも、一気にゴールを目指さず、「今から3時間以内で何をすべきか」と目の前の小さな目標をクリアしながら進んでいくことが大切です。

これにはモチベーションの維持という意味もありますし、ゴールを目指して一気に登ったときに万が一行き先を間違えていたら困るので、というリスク回避の意味もあります。それに、チームを組んだばかりだと、互いの意識に乖離があるかもしれません。

そんなギャップを少しずつ埋めながら前に進む。一週間ぐらいはめちゃくちゃ具体的な課題が見えている状態を維持しつつ、その先には大きなマイルストーンが見えていれば良いという考え方です。

評価制度とビジョンがリンクしていない組織からつぶれていく

漆原 経営的な視点から言わせてもらうと、まず企業としてのビジョンを掲げることが大切でしょうね。具体的には、会社としてやらないことを決める。「下請け仕事はしない」とか「他社に丸投げしない」、「受注するために作為的なことはしない」などいろいろありますが、こうしたポリシーを決めておくのは社員を迷わせないためです。

例えば、売り上げを第一に考えるとどうしても、現場が修羅場になることもあります。でも、うちにとっては目先の売り上げより現場の方が大事。なぜなら、優秀なヤツらがいてくれれば、来年、再来年で必ず取り返せるからです。

そういう絶対的な意思を示すのは、会社側としてスゴく大事なことだと思います。それともう一つ、大事なのは評価制度です。社員に個が際立つような、優れた仕事をしてもらうには、一人一人を評価していることをきちんと示さないといけません。

それぞれの実力とキャリアを把握して、正しいアサインをし、その結果クリエイティブな行動をしている人間を思い切りほめる。評価制度とビジョンをリンクさせることが肝だと思っています。

神尾 ビジョンをしっかりつくっておけば、社員の一人一人が「ウルシステムズ的には、これはないよね」っていう認識を共有できるようになりますよね。すると、社員の一挙手一投足まで管理しなくても、全員がビジョンに合った行動が取れるようになる。個人を縛ることなく、認識を一つにするには、組織のビジョンはとても大事だと思います。

最首 加えて、チームが心で信じ合えていることも、同じくらい大事じゃないかなと思っています。ビジョンも時には変えないといけないことがあるかもしれない。だけど社長と社員、プロジェクトメンバー同士が、頭で理解している以上にハートで理解し合っていれば何とか乗り越えられる。

それは共感や仲間を信じることだと思うのですが、機械的にはできないことですし、普段の接し方にも現れるものです。

共感を醸成するためには、とにかくよく話をして、コミュニケーションすることです。つらいこともうれしいことも、きちんと共有する。仲間が取り組んだことで「すごいな」と思うことがあれば、はっきり口に出して「すごい」と言う。お互いが共感を感じるには、命令とか遂行とかではカバーされない部分で、お互いをリスペクトしあうことが根っこにあると思います。

同じことは、経営者だけでなく、チーム内でも求められるでしょう。

(3/3に続く)

 

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