
元・ウノウ株式会社 代表取締役社長/起業家
山田 進太郎氏(@suadd)
早稲田大学在学中に、楽天で『楽オク』の立ち上げなどを経験。卒業後、2001年にウノウを設立し、街育成ゲームの『まちつく!』など複数のサービスを世に送り出す。2010年にウノウをZyngaに譲渡し、Zynga Japanでジェネラル・マネージャーを務めた後、2012年1月に退社。現在は長期休暇を取りながら、次のビジネスを模索中
山田氏のインタビュー前編「次にやるサービス開発は『文脈思考』で考えている」でまとめたように、これから彼が作ろうとしているのは、「ワールドワイドに受け入れられるユニバーサルなサービス」である。
その目的から推察するならシリコンバレーや外国での起業も考えられるが、今回もビジネス拠点に選ぶのは、どうやら日本になりそうだ。
「僕はウノウ時代から、ガラケーやPC上のサービス開発について経験を積んできました。で、次はスマホを前提にしたサービス開発をしようと考えた時、日本はある意味で有利だと思ったんです。スマホの普及率が高く、インターネット回線も速い。だから、短期間で多くのユーザーを獲得できるチャンスが、他国に比べて大きいんです」

From fukapon
スマホの世界シェアは年々増えているが、幅広い層に「普及」している国は日本を含めてまだ数えるほどしかない
開発力の側面から考えても、日本は全般的に技術力が高く、スマホを使った経験も豊富なエンジニアを確保しやすいと見ているという。
「さらにもう一つ、日本の強みだと思うのは、巨大化する中国・アジア市場に地理的にも文化的にも近い点。シリコンバレーなんかと比べても、スマホ向けのグローバルサービスを開発するには日本の立地条件は悪くないと思います」
ITにおける「タイムマシン経営」の終焉で、戦い方は変わった
そんな利点を活かしながら、日本発の世界で通じるネットビジネスを生み出す――。この構想を実現する上で山田氏が必要不可欠と考えているのは、「ディテールの優れたサービスを一気に作ってしまうこと」だ。
「少し前までは、アメリカで流行ったものが数年後に日本でも流行るということがよくありました。eBayがアメリカでヒットした後に、日本でYahoo! オークションが人気になったのが典型的です。ただ、こうした『タイムマシン経営』は、情報の普及スピードが高まった今は不可能になりつつある。今は、最初から洗練されたサービスを一気に作り上げて、世界中で同時展開する方が成功しやすいんじゃないでしょうか」
そのためには、最初からメガベンチャーを作るのを念頭に置いたチーム構築が前提になる。多額の開発資金を調達し、優秀なスタッフをたくさんそろえて一気に世界を制覇する。そんな青写真を、山田氏は描いているようだ。
「例えばFacebookとmixiでは、従業員数が10倍くらい違います。その分、開発に掛けられるリソースにも差がある。それが、サービスの質・提供スピードの差になってしまうのです。だから、最初から世界市場に向けたサービスを作りたいなら、大規模な開発体制で作っていかなければならないと考えています」
「惜しい!」と感じるサービスを改善するのも“創造”である

「僕はものすごくクリエイティブな人間じゃない。ちょっとした差別化や、組み合わせの面白さで勝負するタイプ」(山田氏)
そこで改めて問いたいのが、インタビュー前編の最後に山田氏が述べた「アイデアレベルでのイノベーションは重視していない」という理由について。
今の山田氏は、画期的なアイデアでニッチ分野を攻めることに、さほど興味を感じていない。むしろ、競合の多い巨大市場に、あえて参入することを考えているという。なぜか?
「最初から大きなスケールの事業を興すことを前提にするなら、入口を間違えると大変なことになります。斬新なサービスだけど、ユーザーはほとんど存在してなかった……なんてことになったら厳しいですからね。むしろ、ある程度まで流行っているアプリがすでに存在していて、かつ切り口を変えれば大ブレイクが望めるような分野を目指す方が、成功の確率は上がるんじゃないかな」
誰もが「ここが惜しい」と感じるものを劇的に改善してリリースできれば、勝機は見出せる。それが、2012年時点のマーケットを眺めた上での山田氏の答えだ。
「今年すごく注目されたLINEの場合も、WhatsAppやカカオトークといった競合サービスがすでにあったわけです。でも、使いやすさとかスタンプみたいな楽しい要素を付けることで、ここまでスケールできたのだと思います。つまり、勝因はエッヂの利いたコンセプトではなかった。それと同じやり方で戦おうと考えています」
カギとなるのは、改善を高速で積み重ねることで競合優位性を築き上げる「オペレーション・エクセレンス」。優れたスタッフを集め、質の高いサービスを作り、圧倒的なスピードで改良する。このサイクルを回し続けながら、ほかのベンチャーを凌駕する戦略だ。
「サービスを広めるためにはマーケティングの力も重要ですが、ソーシャルWebが前提の今は口コミの方がずっと重要ですよね。そのためには、使いやすくて楽しいアプリづくりを、愚直に追求するしかありません。優秀な人たちの力を一つの方向にフォーカスし、日々改善してオペレーションで勝つ。そんなチームをまとめるのが、僕の役割です。これまでの経験で幸運にも人脈には恵まれてきましたから、あとはそれをどう活かすか。そこが勝負になると思っています」
凡人が結果を出す唯一の方法は「誰よりも多く打席に立つこと」
インターネットの世界で日本発のサービスがワールドワイドでデファクトとなったケースは、今のところ皆無に等しい。それは山田氏もよく知っている。
「だから、今後5年くらい時間をかけて、焦らずじっくりとやっていくつもりです。そして、持続的に成長していけるベンチャーを作りたいですね。オペレーション・エクセレンスで勝負するには、チームそのもののサステナビリティも非常に大切ですから」
最後に、“コードの書ける起業家”である山田氏に、技術を使ってビジネスを展開する人たちへのメッセージを聞いた。
「エンジニアだろうと起業家だろうと、成功する人たちには一つの共通点があります。それは『しぶとさ』です。失敗しても、とにかくあきらめない。それが、本当に大事なことなんじゃないかなと」
これは単なる精神論ではなく、経験を通じて極めてロジカルに導き出された方法論である。
「才能の塊みたいなイチロー選手だって、4割打つのは至難の業じゃないですか。ほとんどの人は、凡退の方が多い。僕も同じで、日々新しいアイデアを思い付いては、練り挙げていくうちに『こりゃダメだな』を繰り返す毎日です。でも、打率2割の人だって、10回打席に立てば2回はヒットを打てるんですよ」

From kowarski
凡人はイチロー選手のようなずば抜けたプロ野球選手にはなれないが、やり方次第で「近い結果」を残すことも可能
凡退を恐れて打席に立たなければ、当然ながらヒットは1本も打てない。目の前にチャンスがあったら、とにかくつかんでみる。失敗しても、また次の打席に立てばいい。それが、いつかホームランを打つための唯一の方法だと山田氏は考えている。
とはいえ、2割の打率を残すためにも、トレーニングは欠かせない。ことビジネスを創るという視点に立てば、それは多くの「引き出し」を作る作業になる。
「ゼロからモノを作り出せるような天才も、世の中にはいます。でも、そういう人はごく少数派。僕も含めた多くの凡人は、世の中にあるいろいろなモノを組み合わせて、新しいモノを作る手法の方が向いていると思います。その道のエキスパートになるには1万時間が必要だという『1万時間の法則』なるものがありますよね? 人と会って話を聞いたり、最新のフレームワークをとにかく使ってみたり……。そうやって時間をかけて技術やビジネスと接することが、成長につながると考えています」
そう語り、自らも日々「引き出し」を増やすための情報収集や交流を重ねている山田氏。次は、どんな形でわたしたちを驚かせてくれるのか。形になる日を楽しみに待ちたい。
取材/伊藤健吾(編集部) 文/白谷輝英 撮影/小林 正
撮影協力/西麻布Nomad News Base