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モバイルウォレット『O:der』がBeaconを利用した新機能で実現する「流れるような」飲食体験とは?【連載:NEOジェネ!】

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世間をアッと言わせるユニークなアイデアと技術力で勝負しているニュージェネレーションを応援するこの連載。今回紹介するのは、人気飲食店の商品を行列することなくテイクアウトできる『スマートオーダーシステム』を開発したShowcase Gig。モバイルウォレット『O:der』にBeaconを活用した新機能を搭載し、描き出した「飲食体験の未来形」とは?
(右)代表取締役 新田剛史氏
(左)取締役 CTO 石亀憲氏

スマートオーダーシステムとは

ネットやテレビで話題の人気飲食店は、ランチタイムなどの混雑時には行列に並ばなければならず、注文から商品受け取りまでに時間が掛かってしまう。これは、店側、客側の双方にとっての問題だった。

この問題に目をつけたのが、モバイルウォレットサービス『O:der』を提供するShowcase Gig。首都圏で飲食店を展開するユナイテッド&コレクティブと共同開発した新しい注文システム『スマートオーダー』を使えば、行列に並ぶことなく商品を受け取ることが可能になるという。

Smart O:der / O:der beacon from Showcase Gig on Vimeo.

客側は、あらかじめクレジットカード情報を『O:der』に登録しておくことで、注文から決済までをスマートフォン内で済ませることが可能。一方の店側も、送られてくる注文情報を基に行程を進められるので、メニュー提示~注文~キッチンへの指示~会計といった一連の行程すべてに掛かる時間を短縮することができる。

2013年7月にリリースされた『O:der』に今回、Beaconセンサーを利用した2つの新機能が加わったことで、Showcase Gigが掲げる「流れるような購入体験」は、より理想的な形に近づいた。

店側にはアプリックス製の2種類のBeaconを設置。電波範囲10~20mの中距離型Beaconで『O:der』登録ユーザーの接近を検知し、店舗スタッフに通知することで商品の受け渡しはよりスムーズに。電波範囲5~10cmの近接Beaconを活用すれば、Suicaやおサイフケータイのようにスマートフォンをタッチするだけでデジタルスタンプを付与できる。

アイデアの出発点:mixiでの「実験」を経て、O2Oを日常へ

「O2Oを日常の世界にしたい」と語る代表取締役の新田氏は、Mixiなどでオンラインからオフラインへの送客にいち早く取り組んできた

「O2Oを日常の世界にしたい」と語る代表取締役の新田氏は、mixiなどでオンラインからオフラインへの送客にいち早く取り組んできた

代表取締役の新田剛史氏は、ファッション系のEコマースや東京ガールズコレクションの立ち上げに携わった後に、2009年にmixiに入社。『mixi Xmas』などのヒットコンテンツを生み出し、オンラインから店頭への送客施策にいち早く取り組んできた。

「日本にソーシャルギフトという概念がない時代に立ち上げたmixi Xmasでは、5日間で数万人に対し、コンビニ商品をオンライン決済させて、オフラインに送客することに成功しました。ただ、キャンペーンという限定的な形でしたし、実験的な側面が強かった。当時から、オンラインからオフラインに送客する形は今後さらに伸びると確信していました。今度はO2Oを日常にしたい。そう考えたのが、今回の試みです」

2012年2月にShowcase Gigを立ち上げ、その1年半後にモバイルウォレットサービス『O:der』をリリースした。

ポイントとなったのは、店舗側にもiPadを置くことで、注文および調理の指示が、時間の掛かるレジ作業を飛ばして、ユーザーのアプリからダイレクトに届くようになったこと。スマートフォン内でのクレジットカード決済と組み合わせることで、かつてない購買のスピード感を実現できると考えた。

ただ、それを実現するためには、アプリの機能だけでなく、店舗側のオペレーションも重要になってくる。1年近い実証実験を重ねてオペレーションを最適化、そこにBeaconを利用した新機能が加わることで、今回の『スマートオーダー』に結実したというわけだ。

開発のポイント:電波を制限し世界初のNFC型認証を実現

スマートオーダーへのBeacon機能導入に腐心したCTOの石亀氏。通常10~20mの電波範囲をいかに狭めるかがポイントだった

スマートオーダーへのBeacon機能導入に腐心したCTOの石亀氏。通常10~20mの電波範囲をいかに狭めるかがポイントだった

Beacon導入以前、デジタルスタンプの付与にはQRコードを利用しており、各店舗はiOS対応の認証アプリを使って顧客情報を管理していた。

ただ、iPadはPOSなどの専用読み取り端末と比べて導入にコストが掛からない反面、読み取りのフォーカスを合わせる手間などが発生する。

2013年9月にAppleがiBeacon機能を発表。端末の開発メーカーも一気に増加し、ローコストで入手できるBluetooth Low Energyの実用が加速し始めたのは暁光だった。

ただ、BeaconをNFC型のタッチ式認証に利用するためには、クリアしなければならないハードルがあった。通常、10~20mとされるBeaconの電波範囲の問題だ。

CTOの石亀憲氏が振り返る。

「レジ横に行列ができている場合、電波が3~5mだったとしても、列の後ろに並んでいる人のスマートフォンまで反応してしまうことになります。これでは、おサイフケータイのように利用することはできません。海外からビーコンを取り寄せるなどして、どうすれば電波を極限まで制限できるか、試行錯誤を繰り返しました」

最終的に、O:derのサービス仕様に沿って電波強度を制御できるBeacon端末を開発可能なパートナーを見つけ出し、世界初のiPhoneでのNFC型近接認証実現の見通しが立った。

大事なのはどうオペレーションに落とし込むか

「思いついたアイデアをいかにオペレーションに落とし込むかが大事」と声をそろえる両氏

「思いついたアイデアをいかにオペレーションに落とし込むかが大事」と声をそろえる両氏

「よく言われることですが、アイデアそれ自体には価値はあまりないと考えています。大事なのは、どうオペレーションに落とし込むかです」と新田氏は言い切る。

確かに、非IT分野にITを持ち込む難しさは、多くのスタートアップが突き当たる課題ではある。リアルとオフラインの融合に一日の長のある新田氏は、この壁をどのようにして乗り越えたのか。

「お店のオーナーとは半年ぐらいかけて膝詰めで話し合いを重ねました。理想にはすぐに共鳴してもらえるんです。でも、そこからが大変。無理なら自分たちで新規に店を出す覚悟で、実際に不動産情報を集めていた時期もありました」

今回、『スマートオーダー』導入1号となった『the 3rd Burger』は、六本木という立地、行列のできる人気、ITリテラシーの高いユーザー層と、すべての条件がそろったことも事実。だが、「リアルビジネスで培った経験、人脈、さらには身を以て示した覚悟がなければ、こんな出会いはなかったと思います」(新田氏)。

さらに、リアルとオンラインをつなぐ難しさは技術面にもある、と石亀氏が続ける。

「リアルな店舗はさまざまな条件の上に立脚しています。新しい店舗にサービスを広げるとなれば、地下なので電波が通じないということもあるかも知れないし、暗いので液晶が見えづらいということもあるかも知れない。そういうことに高速で対応しなければいけません」

Showcase Gigの場合、コンテナ管理ソフトウエアDockerを導入することで、「作って壊してを繰り返せる」システム環境を実現し、ローカルの開発環境と本番との違いを気にすることなく開発に集中できるようになったことが大きいという。

どこまで行っても中心はリアル

6月にはポイントサービス「Ponta」を運営する株式会社ロイヤリティマーケティングと資本提携。他にもいくつかの商談が進んでおり、大手と組んでアライアンスを作り、サービスを拡大していく方針だ。

さらに、今後は飲食店以外にも展開していく考えもあり、すでに水面下で進んでいるプロジェクトもあるという。

新田氏は言う。

「オンラインやアプリ上でのユーザーが数千万人いるいっても、リアルの世界に目を向ければ、月に2億人がセブンイレブンで商品を購入しているわけです。リアルに対してオンラインが作用できる範囲は、まだまだ小さい。どこまで行っても中心はリアルにあると考えたほうがいいと思います。ただ、そこに組み込みやすいデジタルやアプリケーションは絶対にある。そこを全部押さえて、ナンバーワンの企業になるというのが僕らの考えです」

取材・文/鈴木陸夫(編集部) 撮影/竹井俊晴

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