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『人とくるまのテクノロジー展』で注目の新素材SiCは自動車の未来を変えるか【連載:世良耕太】

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F1ジャーナリスト世良耕太の自動車開発探訪

F1・自動車ジャーナリスト
世良耕太(せら・こうた)

出版社勤務後、独立し、モータリングライター&エディターとして活動。主な寄稿誌は『Motor Fan illustrated』(三栄書房)、『グランプリトクシュウ』(エムオン・エンタテインメント)、『auto sport』(三栄書房)。近編著に『モータースポーツのテクノロジー 2013-2014』(三栄書房/1680円)、『F1ジャーナリスト世良耕太の知られざるF1 Part2』(オトバンク/500円)など

公益社団法人自動車技術会が主催の自動車技術展『人とくるまのテクノロジー展2014』(5月21日~23日/パシフィコ横浜)は、会場の混雑ぶりから判断するに大盛況のようだ。

『人とくるまのテクノロジー展2014』は『東京モーターショー』と違い、専門的な会話が飛び交うのもその特徴

『人とくるまのテクノロジー展2014』は『東京モーターショー』と違い、専門的な会話が飛び交うのもその特徴だ

『東京モーターショー』などの自動車ショーとはいささか雰囲気が異なり、出展社が相手にしているのはエンドユーザーよりもむしろ、潜在的な取引先だ。どちらかといえば、BtoCよりもむしろ、BtoBに軸足を置いたイベントである。

ブースでは説明員を相手に、門外漢には理解のおよばない突っ込んだ質問が飛ぶ。商談めいた会話が耳に飛び込むこともしばしばだ。

すべてのブースがそうかというと、そんなことはない。技術力の高さや技術の先進性を広く一般にアピールすることを意図したブースも目立つ。商売の性質からして、完成車メーカーにその傾向が強い。

「PR上手」と感じたのはトヨタ自動車だ。トヨタは『人テク』開催の前日に以下の技術発表を行った。

新素材SiCによる高効率パワー半導体を開発──1年以内に走行実験を開始。将来的にハイブリッド車の燃費10%向上を目指す──

トヨタはSiCでPCUの大きさを1/5に

新素材SiCは、トヨタとデンソー、豊田中央研究所が共同で開発した。ハイブリッド車などの電動車両は、モータ/ジェネレーターユニット(MGU)の駆動力や回生力を制御するパワーコントロールユニット(PCU)が不可欠だ。

このPCUには、主にバッテリの直流電流をMGUの駆動に必要な交流電流に変換するインバータが搭載されている。超高速のスイッチングによって交流を生み出すのがパワー半導体だ。

そのパワー半導体はこれまでSi、すなわちシリコンを用いていたが、シリコンと炭素の化合物(炭化珪素)であるSiCを使用したパワー半導体を開発したという内容だ。

PCUはハイブリッド車の電力損失の約4分の1を占めているが、損失の大半(電力損失の約20%)をパワー半導体が占めるため、パワー半導体の高効率化は燃費向上のキーテクノロジーとなる。だから開発に取り組む価値があるのだが、実用化にメドがついたと発表したのだ。

SiCパワー半導体は、高周波で使用しても効率的に電流を流すことができる性質があるため、昇圧コンバータで用いるコイルやコンデンサを小型化することが可能になる。効率が高いということは熱の発生も少なく、冷却システムの負担が小さくなる。

現行品との比較はかなりインパクトがある

現行品と比較するとその小ささは歴然だ

リリースでは「PCUは1/5の小型化を目指す」と説明し、サイズが5分の1になった際のイメージを、現行品と比較してみせた。

大きさの違いは一目瞭然で、「とてつもなく画期的な開発が進んでいる」ことを一瞬のうちに感じ取ることができる。

直前にそう発表されてしまうと、「それじゃ見に行ってみよう」という気になる。ご同輩は多数だったとみえ、展示物の周囲は人だかりが絶えなかった。周囲に車両が展示してあったりするので、5人が展示物の前に陣取ると、あとは後ろで列を作って順番待ちを強いられる状況。それでも、待った甲斐はあった。

「シリコンPCU(量産品)」として展示してあったカットモデルは、3代目プリウス用だろうか。実はこの3代目プリウス用PCU、2代目プリウスのPCUに対して約36%の小型化を果たしている(容積17.7L→11.2L)。

大きなコンポーネントのイメージがあったPCUが12V鉛バッテリー程度の大きさになったことに、2009年の発表当時は衝撃を受けたものだった。

その小さくなったPCUを5分の1もの容積にするポテンシャルを備えているのが、SiCパワー半導体だ。体積が小さくなれば当然重量も軽くなる。クルマのパッケージングやスタイリング、運動性能にも少なからぬポジティブな影響をおよぼすことが想像できる。

トヨタのブースに展示してあった5分の1のモックアップは水冷システムを組み込んだ状態だったが、デンソーのブースに展示してあった「SiCインバータ」(のモックアップ)は空冷としたため、外付けハードディスクを2つ重ねた程度の大きさでしかなく、容積は0.75Lにすぎない。

「SiCが持つポテンシャルを最大限生かした場合のサイズを表現してみました」と語る説明員のもとには「この大きさで一体電流はどれくらい流しているんですか?」などという質問が投げかけられていた。

三菱電機はすでにサンプル出荷を開始

トヨタがうまいな、と思うのは(というかPR作戦にまんまと引っかかった口だが)、SiCを用いたパワー半導体を開発しているのはトヨタ(+デンソー+豊田中研)だけではないことだ。三菱電機のブースにもSiCパワー半導体を用いたコンポーネントは展示してあった。

三菱電機は「自動車駆動用システムの小型化に向けた研究開発」に取り組んでいる。現在はMGUとインバーターを別体で構成するのが一般的だが、これを一体化する提案を行っている。

一体化すれば、電気配線や水冷配管を簡略化することができ、部品点数の低減や小型・軽量化に利く。

これが第1ステップで、2018年頃の実用化を目指している。2023年の実用化を目指した第2ステップは、Siだったパワー半導体をSiC化することによってさらに小型化することだ。

三菱電機が実用化を目指すSiCインバーターを内蔵型のEV用MGU

三菱電機が実用化を目指すSiCインバーターを内蔵型のEV用MGU

ブースには「電気自動車(EV)モータドライブシステム」と名付けた、SiCインバーターを内蔵したEV用MGUが展示してあった(MGU/インバーター共用の水冷システムを組み込んでいる)。

2023年の実用化と聞くとずいぶん先のことのように感じてしまうが、絵空事ではない証拠に三菱電機は、「高周波用ハイブリッドSiCパワー半導体モジュール」のサンプル出荷を5月15日から開始している。

事前に得た情報を現地で確かめるのも『人テク』を訪れる楽しみのひとつだが、ブース巡りをしていて思わぬ発見にでくわすのもまた、楽しみである。

立場の異なるさまざまな来場者が、似たような経験を求めて歩き回っていたに違いない。

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