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エンタメから認知症発見まで~ソシャゲ人気の裏側で着々と進んでいた、「シニア向けオンラインゲーム開発」の可能性

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今、「ゲーム」といえばフィーチャーフォンやスマホなどで楽しむソーシャルゲームの開発が全盛だ。国内での市場規模は実に約4200億円と言われており(矢野経済研究所調べ)、10~30代のユーザーをメインに成長を続けている。

そんな中で、あえてシニア層をターゲットにオンラインゲームを提供し、一定の支持を集めてきたのが、ゲーム開発会社のシグナルトークだ。

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シグナルトークが手掛ける本格オンライン麻雀ゲーム『Maru-Jan

同社が“究極のオンライン麻雀ゲーム”と謳う『Maru-Jan』は、2004年4月にサービス提供を開始。以来、アップグレードを重ねながら現在までに60万人を超える会員登録を獲得し、売上も約6億円規模に成長してきた(2013年1月実績)。

なぜ、高い伸び率を示すソーシャルゲーム市場でなく、あえてシニア層をターゲットとしたオンラインゲーム開発にこだわってきたのか。その理由について、創業者で代表取締役社長を務める栢(かや)孝文氏は、スポーツの「ビーチ・フラッグス」を例に挙げてこう語る。

「今はソーシャルゲームの市場が盛り上がっていますが、今のタイミングで参入するのは、ビーチ・フラッグスで1本の旗を大人数で取りに行くのと同じ。それよりも、飽きのこないゲームジャンルの1つである麻雀を軸に、オトナがどれだけ長く楽しめるようにするかを追求していった方が、競争率が低いわりに堅実にユーザーからの支持を得られると思っていました」

起業前、セガやソニー・コンピュータエンタテインメント(以下、SCE)といった大手ゲーム開発会社で、主にコンシューマーゲームの企画・開発に取り組んできた栢氏は、作り手として「どんなゲームも、ユーザーはやがて飽きてしまう」というジレンマを感じていたという。

その葛藤の中で、「歴史的に見ても、麻雀は奥が深く飽きがこないのでは?」と考えるようになり、『Maru-Jan』の開発・提供を手掛けるようになった。

そして昨夏からは、よりシニア世代の生活に密着したシリアスゲーム(学習意欲向上や生活習慣の改善を目的としたデジタルゲーム)の提供も開始。どんな戦略でシニア向けマーケットを開拓していくのか、栢氏に話を聞いた。

中高年に受けるゲーム開発は「じっくり、高級感を重視して」

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栢氏のファーストキャリアはプログラマー。エンジニア出身社長だけに開発風土にはこだわりを持つ

―― ソーシャルゲームが10代、20代をターゲットにしているのに対して、『Maru-Jan』ユーザーはボリュームゾーンが40代、50代だそうですね。

ええ。この3年で特に目立つのは、20代、30代のユーザーが減った分、50代、60代のユーザーが倍増している点です。この世代に着実な支持をいただいている手応えを感じています。

―― 「シニア向けゲーム開発」というのは、一般的なコンシューマーゲームやソーシャルゲームとどの辺りが異なるのでしょうか?

エンターテインメントとしての魅力を維持・発展していくため、ディテールにこだわって作るという点では、ほかのゲーム開発とさほど変わらないと思います。

あえて若者向けのオンラインゲームやソーシャルゲームと比較するなら、「高級感」と「DAU(デイリーアクティブユーザー)のとらえ方」が違うと考えています。

目の肥えたオトナを対象としたゲームですから、長く愛されるためのリッチ感は欠かせません。加えて、アクティブ率や運用の手間を考え、一般的なソーシャルゲームやオンラインゲームなら廃止してしまうような機能でも、特定ユーザーからの要望が高ければあえて残すなど、とにかくユーザー目線に立ったゲームの提供を心掛けています。

開発スタイルも、1週間、もっと言えばデイリーで改善を繰り返すソーシャルゲームとは違って、じっくり作り込んでいくスタイルです。現在も、1年後にリリース予定のニューゲームを開発していたりします。

「認知症患者を100万人減らす」を目的に開発された『脳測』

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いわゆる“シリアスゲーム”として新規リリースした『脳測』。4段階のゲーム結果で脳の認知機能をスコア化する

―― 新規ゲームという点では、昨年7月から『脳測』という認知症を早期発見できる日本初のシリアスゲームも提供しています。開発のきっかけは何だったのですか?

「麻雀は認知症の予防に効くらしい」という俗説に興味を持ったことでした。本当に麻雀で脳が活性化するかどうかを探るため、学術的な裏付けがほしくて資料を調べたり、専門家の方にお話を伺ったりしていたんですね。

そうしていくうちに、「クリニックでは麻雀や囲碁を認知症予防に採用しているところもある」、「でも、麻雀が本当に効果的なのかは、病院のような専門機関で膨大な数の検査データを採らなければならない」、「その検査データを採るだけでも数千万~億単位のお金がかかる」ということが分かりました。

これを違う視点でとらえると、実際にご年配の方々が認知症かどうかをチェックする際も、きちんとした施設でそれなりのお金をかけて検査をしなければならないということ。それを事前に行っていらっしゃる方は、おそらく少数だろうと。

ならば、もっと簡単かつ客観的に脳の認知機能をチェックできるようなオンラインゲームがあれば便利では? と考えるようになったのです。

―― 『脳測』は認知症の治療に役立つオンラインゲーム、ということですか?

いいえ、治療は専門機関でなければできないので、『脳測』はあくまでも認知機能の測定ツールという位置付けです。発達障害の検知ツールをベースに、専門家の先生方にもアドバイスをいただきながら開発を進め、現状は4段階のゲーム結果から認知機能をスコア化・見える化するところまでを提供しています。

定期的にプレイしていただければ、時系列の変化もグラフでチェックできるので、いわば“脳の体温計”みたいなものだと謳っています。

―― リリースから半年間の反響はいかがですか?

具体的なユーザー数などは非公開ですが、すでにご夫婦で登録していただくなど、シニア層のユーザー登録は徐々に増えています。また、医療機関や介護施設からの問い合わせも増えているので、こういったところとの提携を加速していき、最終的なゴールとして「認知症患者を100万人減らす」ところまで持っていきたいですね。

『脳測』は、進む少子高齢化社会の中でシニア層の方々が元気に働き続けるのをサポートするという点からも有益だと思っているので、マーケティングにはより力を注いでいきたいと思っています。

シニア向けのPCゲーム市場は、これからもっと伸びるはず

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「今の団塊世代は仕事でPCを使ってきたため、スマートフォンよりPCに親和性があるのではないか」と話す栢氏

―― 『脳測』の開発談を伺っていると、エンタメを何かしらの「問題解決」として位置付けている印象ですね。

はい、ソリューションとしてのエンタメを日々研究していくというのが、シグナルトークとしての開発ポリシーです。ゲームやエンターテインメントは、単なるお金稼ぎの道具ではないと信じていますので。

もちろん、このポリシーを維持するには、会社として収益を確保し続けなければならないので、『Maru-Jan』のバージョンアップや新規ゲーム開発にも人員とアイデアを投入していく予定です(技術者募集の詳細はコチラ)。

―― 今後もシニア層をターゲットにしたPCオンラインゲームの企画・開発が主軸になりますか? 最近はスマートフォンやタブレットがゲームデバイスとして注目されたりもしていますが。

スマートフォンやタブレットへの対応は徐々に進めていく予定ですが、そこまで急いでいません。シニア向けのPCオンラインゲーム市場は、今後もっと伸びていくと予想しているからです。

現時点では、スマートフォンやタブレットを使いこなしているご年配層はそれほど多くありませんが、PCに関しては定年前のお仕事などで使っていたという方も非常に多い。『Maru-Jan』の中高年ユーザーが年々増え続けているのも、この世代がPCオンラインゲームと親和性が高いという一つの証拠だと見ています。

それに、日本国内に限って言えば、現在のような10代、20代がボリュームゾーンのソーシャルゲームは、少子高齢化でいずれ落ちつくはずです。あまのじゃくではないのですが、過熱気味の市場がやや冷静になったところであえてスマホ向けアプリを手掛けるとか、他社とは違うおもしろい試みをやってみたいと思っています。

取材・文/浦野孝嗣 撮影/伊藤健吾(編集部)