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ジャーナリスト石川温氏に聞く、アナログ企業がやりがちな“残念スマホ活用例”の傾向と対策【特集:スマホが企業を救う】

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先日、2013年内にスマートフォンの世界出荷台数が従来型の携帯電話を逆転するという予測が調査会社IDCより発表された。さらに、国内ではスマートフォンの普及率が約40%と、昨年1年間でほぼ倍増するなど、携帯電話利用者のスマートフォンシフトが激しさを増す中で、企業のスマートフォン活用ビジネスも白熱している。

今では、IT・非ITを問わずさまざまな分野・業界の企業が既存事業とスマートフォンを掛け合わせることで見えてくる新しいビジネス戦略を考え、試行錯誤を繰り返しているところだ。

しかしながら、先に公開した日交データサービスソニー損害保険のように、スマートフォン戦略で狙い通りの効果を見せている企業は多くはない。特に、非IT産業においては、最新テクノロジーをどう扱えば会社に貢献できるのかが見えにくいのかもしれない。

では、効果的なスマートフォン活用例と、そうならない戦略とは一体どんなものか。企業の「残念なスマホ活用例」を、携帯ジャーナリストとして活躍する石川温氏(@iskw226)に聞いた。

「社内の業務効率UPを図ったり、関連アプリで自社ブランドやサービスをプロモーションしたりと、企業がスマートフォンを活用する目的は実にさまざまです。昨今では多くの企業がスマートフォンの活用を促進していますが、まずはどんなものが失敗の可能性を秘めているのか挙げてみましょう」

■失敗しがちなスマホ活用例(業務効率化編)

たくさんの取材の中で印象に残っているのは、Android搭載スマートフォンが登場し始めた2009年ごろに大手飲料メーカーが導入した事例です。同社は、当時登場したばかりのAndroidスマートフォンを販売管理ツールとして活用しようとしていました。

From Emerson Alecrim
最新の技術やデバイスが登場した初期にビジネスとして本格的に使用するのは「失敗率が高い」という

ここで重要なのは、iPhoneではなく登場したばかりのAndroid搭載スマートフォンを活用した、というポイント。

単にスマートフォンが高性能で利便性も高そうだ、という理由で採用したところで、当時のAndroidのプラットフォームはまだまだ未熟。

今ようやく使えるようになってきたAndroidを、初期のころからIT化に慣れていない企業が扱うのは少しチャレンジングだったのではないかと思います。

■失敗しがちなスマホ活用術(プロモーション系アプリ編)

一昨年の12月のことですが、大手食品メーカーが自社製品のプロモーションアプリをリリースした事例があります。

大晦日を狙ってのプロモーションだったのですが、リリース直後は注目を集めず、結局アプリ自体が盛り上がったのが1月中旬ごろでした。結果的に盛り上がったのは良かったかもしれませんが、狙ったタイミングで効果を出せなかったことを考えると、プロモーションとしては失敗したと言えるでしょう。

まずはスマホ活用の失敗事例を挙げてみましたが、なぜこうした失敗を犯してしまうのでしょう。次に過去の事例から、失敗するスマホ活用の共通点を探ってみよう。

失敗例に学ぶ、スマホ活用5つのNGパターン

1.最新の技術・デバイスを闇雲に取り入れるだけ

スマートフォンやタブレットもそうですが、多くの最新技術やデバイスは、まだ進化の過程にある場合が多いです。先に挙げた大手飲料メーカーの事例にもありましたが、まだ成熟していない段階でそれらを導入すると、失敗してしまう可能性は大きくなります。

新しい技術についても同じことが言えます。こちらは非IT企業ではありませんが、かつてあるAR(拡張現実)アプリがメディアで大々的に取り上げられたことがありましたが、結果的には生活の中に溶け込むことができずユーザーが離れていきました。話題性先行や新しいことをやり過ぎても、スケールせずに終わる可能性は大きいです。

2.本業とまったく違うサービスを片手間で展開する

例えば家電量販店大手がゲームプラットフォームを作った事例があります。

同社が成功しているかどうかは分かりませんが、あまりにも本業と離れ過ぎている領域で、かつそれなりに運用する必要があるモノとなると、ノウハウもないし、ギャンブル的要素が強すぎてシステム部門も本気になりにくいのではないかと思います。

3.作るのに精一杯でプロモーションを何も考えていない

From ktpupp
中には「結果的に良くても、PR的に失敗」という事例も。「何がしたいか」によって成功とするポイントも異なってくるのが難しいところだ

食品メーカーなどが「●●という商品をプロモーションするためにアプリを作りました」という事例は多いと思います。しかし、狙い通りに話題になることはさほど多くありません。

その原因は、アプリ開発に注力し過ぎてプロモーションを考えられていない点にあります。

2年くらい前までは、アプリリリースからバズるまでの猶予期間として96時間くらいの時間があると言われていました。しかし、今はリリースから36時間以内に盛り上がらないと、アプリ市場ではバズらないと言われているほど、競争が激しくなってきています。

その意味でも、ニュースサイトやソーシャルメディア、テレビなどでどうやって露出するかといった仕掛けを作らないといけません。プロモーション系アプリを開発する際には、市場トレンドを押さえながらすべてを設計しておくべきです。

4.最新技術に対して上長の理解を得られない組織

いろいろな方のお話でよく聞くのが、「社長に実際に使ってもらうのが上手くいくためのコツ」だということ。また、社長なり、役員クラスの方がスマホを持つようになったり、最新デバイスに明るければ、会社にとってスマホをどう活用すれば良いのかがもすぐに理解してくれるでしょう。

会社として新しい取り組みをする上で、上長の決断なしでは決められませんからね。

5.(業務アプリなどについて)初めから完ぺきなモノを作ろうとする

非IT企業に多いのが、新しい取り組みをする際に製品としての完成度を求め過ぎるがゆえに、導入のタイミングが遅れたり、開発にムダに時間が掛かったりしてしまうケースです。

社内向けのアプリであれば、まずは作って社員に使ってもらいながら改善していく。まずはやってみようという気持ちで挑戦する姿勢を持つと良いかもしれません。

アプリは戦略の「入り口」でしかないことを自覚すべし

石川氏いわく、「非IT企業がスマートフォンを活用したり、アプリを作ったりする中で、成功している企業はまだほとんどない」という。というのも、多くの場合、打ち上げ花火のように一瞬の盛り上がりを見せても、それ以降は何も手を加えない企業が多いからだ。

そんな中で、上手く活用している企業とはどんな企業なのだろうか。

アップルの「iPad活用事例」としても紹介されているガリバーインターナショナル。有効なデジタル活用の裏には、さまざまなトライアンドエラーが隠されている

「中古車販売会社のガリバーインターナショナルは、スマホ活用において興味深い取り組みをやっている企業の一つです。同社はさまざまなアプリケーションを作っており、使われなくなったアプリも少なくありません。が、そんな試行錯誤の中で生まれた『ユーザーが手軽に売値を査定できる査定アプリ』は既存ビジネスに貢献していると聞きます」

IT企業で言うところのR&D部門のように、ある程度の失敗を許容できる体制を採り、貪欲に新たな挑戦を行う中でヒットするアプリやサービスを生み出す。そんな企業が、最新技術やデバイスの活用と上手く付き合っているのだという。

また、アプリを作ったりする以外にも、極力手間を掛けずにスマートフォンやタブレットデバイスを既存事業に採り入れている業界もある。

「ファッション業界や美容業界、医療業界などでは、これまで紙で出力していたカタログをPDF化し、iPadに入れて見せるなど、非常にシンプルな方法でスマートフォンを活用しています。専用アプリなどを開発せずとも、アイデア一つで業務効率化やコスト削減を実現させられる好例だと思います」

中でも石川氏が注目しているのが、航空会社による取り組みだ。

ソーシャルメディアも上手に使いこなし、スマートフォン対応もいち早く取り入れ、JALではモバイル予約のうちの7割近くがスマートフォン経由だと話す。国内線で、実に100億円もの売り上げを上げているのだ。ほかにも、ANAでは客室乗務員約6000名がiPadを活用しているという。

トレンドを追いつつ試行錯誤を繰り返すのが、成功への近道

国内のスマートフォン普及率は、1年前と比較して倍増しているとはいえ、シェアはまだ4割程度。今後の伸びを考えると、スマートフォンの活用戦略を考えるのは今からでも遅くない。

「スマートフォン自体、現在進行形で進化している最中ですし、その間にも世間の状況は変わっていきます。その中で、スマートフォンをはじめとする最新デバイスの活用方法のヒントは、どこに落ちているかは分かりません」

日本交通の『日本交通タクシー配車アプリ』も、海外のタクシー会社が採っていた戦略を参考にして作られているという。

「また、冒頭に『無理に最新技術を採用すべきではない』と言いましたが、技術や世界のトレンドをチェックしておいて損はありません。何度も言いますが、上手くスマートフォンを活用できている企業はまだ一握りです。先に挙げたNGパターンに気を付けながら、とにかくいろんなことに挑戦してみることをおすすめします」

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取材・文/小禄卓也(編集部)