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『Fitbit』ヒットの仕掛け人が断言-フィットネスバンドの次は「スマートトイ」がスマホ連動サービスの金脈になる

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2013年10月、日本国内のスマホ普及率が49.8%になったというデータが発表された(IDC Japan『国内モバイル/クライアントコンピューティング機器 家庭ユーザー利用実態調査結果』)。

これはつまり、日本人の約2人に1人がスマホを持っていること。さらに、ベネッセ教育総合研究所が2013年7月に発表したプレスリリースによると、乳幼児のいる家庭の6割の親がスマホを所持しており、2歳児の2割が毎日スマホに触れているという(『乳幼児の親子のメディア活用調査』)。

ソフトバンクBBが運営する『Soft Bank SELECTION』

ラジコンやお絵描きツール、知育系といったラインナップをそろえる。今後は大手玩具店や家電量販店での販売を予定

そんな、子どももスマホに触れる時代の訪れを象徴するのが、2013年11月にソフトバンクBBが運営する『Soft Bank SELECTION』から発売された「スマートトイ」の数々だ。

スマートトイとは、スマホやタブレットと連携して遊べるおもちゃのこと。『Soft Bank SELECTION』は海外メーカーと提携し、輸入した製品を日本のオンラインショップやSoftBank直営店で販売している。

『Soft Bank SELECTION』のために、世界中におけるタブレット端末の最前線を常にウォッチしているのが、ソフトバンクBB戦略商材開発室担当課長でバイヤーの辻英一氏だ。

辻氏は2013年3月にスマホ連動ヘルスケア機器『Fitbit』をアメリカで発掘し、日本へ初上陸させた人物。2013年のトレンドとなっているスマホ連動の「フィットネスバンド」を、『Jawbone UP』や『NIKE+ Fuelband』に先駆けて日本へ持ち込んだ仕掛け人である。

アメリカで感じた、日本におけるスマートトイ浸透の可能性

辻氏がスマートトイ販売を思い付いたきっかけは、アメリカの玩具店で見た、ある光景だった。

「マーケット調査でアメリカの玩具店を巡った時に、スマホ連動おもちゃだけのコーナーが設置されているのを見つけたんです。アメリカではそういったスマートトイがすでに浸透していることを実感しました。プロダクトも面白いものが多く、アメリカと同等のスマホ普及率の日本でも流行るのでは、と予想したんです」(辻氏)

『Soft Bank SELECTION』の役割は、ただ海外の商品を買い付けてくるだけではない。ジャンル問わず日本国内で未成長の市場で海外製のプロダクトを発売。その市場が成長した時に、シェアを先取りすることを戦略の一つとしているという。

スマートトイ販売もその一環だ。

「知育系のスマートトイは、アプリ更新との親和性の高さからもっと注目されるのでは」と辻氏

「日本では、まだ『スマホ連動おもちゃ』というカテゴリ分けもあいまいな状況なんです。ARを用いたカードゲームなどはすでに国内メーカーも作っていますが、それらはスマホがなくても遊べるもの。スマホと連動することを前提としたおもちゃを展開しているスマートトイとは、少し違います」(辻氏)

例えば、『Amazon.jp』にはスマホ連動おもちゃというカテゴリはあるものの、種類は全部で6つとまだ少ない(2013年11月28日現在)。

また、その内訳はカードゲーム4種、ボードゲーム2種で、いずれもスマホがなくても楽しむことができるプロダクトだ。

このことから、日本ではまだスマートトイシリーズのようなスマホ連動おもちゃの市場はないに等しいことが分かる。

一方、玩具店に専用コーナーが設置されるほど多くのスマートトイがあるアメリカ。その背景には、スマホ連動おもちゃを開発するスタートアップの増加がある。

日本のスマホ連動おもちゃ市場を海外スタートアップが狙っている

「3Dペットの飼育などを楽しめる『Looksi(ルクシィ)』シリーズを開発するエスケープテック社は、2010年にイギリスで設立。スマホをぬいぐるみに入れ、知育ゲームや会話を楽しめる『UBOOLY(ウーブリー)』を開発するウーブリー社は2012年にアメリカで設立されています。それぞれ、投資家から資金を調達し、開発を進めてきたスタートアップです」(辻氏)

これらのスタートアップに共通するのは、スマホ所持率の高い日本での販売を、開発当初から狙っていたという点だ。

『UBOOLY』は専用アプリをインストールしたスマホをぬいぐるみの中に入れ、会話やゲームが楽しめる知育系おもちゃ

『UBOOLY』は専用アプリをインストールしたスマホをぬいぐるみの中に入れ、会話やゲームが楽しめる知育系おもちゃ

「われわれがエスケープテック社やウーブリー社に日本での販売の話を持ちかけたとき、彼らはすでに日本での販売を考えていました。つまり、日本のスマホ連動おもちゃ市場は海外から狙われているんです。」(辻氏)

日本国内にもスマホ連動おもちゃの開発を行っているスタートアップはすでに存在する。スタートアップのピッチコンテスト『ジャパンナイト2013』に参加した『moff』や『Fourbeat』などがその例だ。

どちらも同大会では投資を獲得するには至っていないが、日本でも今後、スマホ連動おもちゃの開発がスタートアップのトレンドとなる可能性は、確実に高まっている。

今のスマホ連動おもちゃ市場は、フィットネスバンド市場の黎明期にそっくり

少しずつだが、日本においてもスマートトイが流行する気運が高まってきていると話す辻氏。現状、スマートトイは海外製のプロダクトが主流だが、今後、日本製のプロダクトが増える可能性はあるのだろうか?

「可能性としてはあると思いますが、開発する側にとっては、市場がないジャンルへの参入はリスクが高いはず。そこで、フィットネスバンド市場での『Fitbit』の成功例が参考になるのではないでしょうか」(辻氏)

『Fitbit』は、ヘルスケアサービス『Soft Bank HealthCare』の機器として展開されるなど、日本でも浸透してきている

『Fitbit』は、ヘルスケアサービス『Soft Bank HealthCare』の機器として展開されるなど、日本でも浸透してきている

2013年3月に発売された、日本におけるフィットネスバンドの先駆けとなった『Fitbit』。この商品を開発したアメリカのFitbit社は、発売の約1年前の2012年1月、スタートアップのピッチコンテストで優勝し、1200万ドルの資金を獲得。

その少し前の2011年11月には、アメリカのITヘルスケア系スタートアップへの投資が増えている。

「スマホ連動おもちゃを開発するスタートアップがアメリカで多くの投資を受けているという点で、ITヘルスケアサービスの黎明期と状況が似ている。われわれがスマートトイの将来性を高いと推測する根拠はそこです」(辻氏)

さらに、辻氏は日本初上陸時のFitbit社について続ける。

「われわれが『Fitbit』の輸入販売を始めた時、Fitbit社は20人くらいの小さな会社でした。それが1年も経たないうちに200人を超える企業へと成長。そうした成長がスマホ連動おもちゃ市場でも起こる可能性は十分にあります。日本メーカーでも、この好機をうまく活かせば、第2のFitbit社になれるチャンスがあるということです」(辻氏)

チャンスをものにするためには、プロダクトも含めた開発費の獲得がスタートアップには必要になってくる。では、投資家へのアピールができる開発のポイントとは何なのだろう。

「月並みですが、親へのアプローチを上手にやることです。親が気にするのは主に2つ。視力の低下などの健康面でのリスクと、おもちゃが飽きられる度に新しく買わなければいけないというコスト面での心配です」(辻氏)

こうした問題には、「スマホ連動である利点を活かした対応策がある」と辻氏は語る。

「健康面に関してはアプリ側で30分経ったらその日は遊べなくするなど、時間制限機能を搭載させる。コスト面に関しては、アプリに新しいコンテンツを追加し子どもを飽きさせない工夫をすることです。いずれもアプリをアップデートして対応できる。このことは、スマホ連動おもちゃの長所ではないでしょうか」(辻氏)

健康面を配慮した設計と子どもが長期的に飽きずに楽しめる設計、スマホ連動だからこそ実現可能な2つの機能を兼ね備えた開発が重要なようだ。

辻氏への取材から明らかになった、日本国内のスマホ連動おもちゃ市場が持つ可能性の大きさ。スタートアップや投資家たちは、スマホ連動おもちゃ市場の動向をウォッチすることで、新たなビジネスチャンスを発見できるかもしれない。

取材・文・撮影/長瀬光弘(東京ピストル