エンジニアtype - エンジニアのシゴト人生を考えるWebマガジン

「インフラを含めた総合的な技術力でメンバーをけん引する」『Snapeee』神尾隆昌氏【連載:Hackers】

公開

 
隆盛を極めるスタートアップベンチャーの現場において、最も渇望されているのが組織のけん引役となるようなリーダーエンジニアの存在だ。必要なスキルセットは、技術、経営、採用など非常に広範に渡る。本連載では、創業期のスタートアップを支えるエンジニアへの取材を通して、彼らの持つスキルセットをインキュベーター・木下慶彦氏の視点から明らかにしていく。
インタビュアー

インキュベーター
木下慶彦

1985年生まれ、2009年早稲田大学理工学部卒。大手証券会社系のベンチャーキャピタルを経て、現在インターネット系のシード・アーリー企業様への投資・インキュベーションに特化したベンチャーキャピタル インキュベイトファンドにてアソシエイト。創業支援型インキュベーションプログラム『Incubate Camp』のプロジェクトリーダーも務める

第3回目となる今回は、スマートフォン向けカメラアプリ『Snapeee』を通じて日本の「Kawaii」を世界へ伝えるマインドパレット取締役副社長CTO・神尾隆昌氏にインタビューした。

同アプリが特徴的なのは、国別のシェア分布。日本(26%)だけでなく、台湾(24%)、香港(23%)、中国(15%)などアジア各国で高い人気を誇っている。4月23日に台湾のNo.1レストランレビューサイト『iPeen』とのタイアップ企画をスタートさせるなど、今最も勢いがあるスタートアップ企業の一つだ。

そこでCTOを務める神尾氏が考える「3つのスキルセット」について聞いてみた。

「皆がワクワクしてイノベーションを起こす」組織を創る

現在も現役でコードを書き続ける神尾氏が、同社代表の小林佑次氏とともに起業したのは、2010年11月にさかのぼる。

神尾氏はトランスコスモスにて運用、企画、PMのそれぞれの職種を経験し、その後ワークスアプリケーションズへ転職。人事給与や会計システムに強い同社において、CRM分野における新規事業の立案から開発までを行っていた。そこで出会ったのが小林氏である。

共に昼夜を問わずハードに働く生活をすることで強い信頼関係にあったが、ワークスアプリケーションズにて所属部署が統合することになり、小林氏からの発案でベンチャー企業に向けた準備をするようになった。

##

「ワークス時代の経験が、今のベンチャー精神につながっている」と話す神尾氏

「起業するに至った背景には、ワークスアプリケーションズ代表・牧野正幸さんの『常にベンチャーであれ』、『友だち同士で起業するな』という言葉が大きく影響しています」

そう話す神尾氏にとって、小林氏は「単なる仲の良い友人関係ではない、尊敬できるビジネスパートナー」であり、ベンチャーを本当にゼロから作れる仲間だそうだ。

その同時期に、サイバーエージェント・ベンチャーズが実施するインターネットビジネスの支援プロジェクト『Startups2010』に応募し、支援チームとして採択されたことにより2010年11月同社を設立。2人は正式にマインドパレットを立ち上げ、スタートを切った。

「2011年5月に『Snapeee』をリリースしたのですが、実は当初から具体的な事業内容が練り込んでいたわけではありませんでした。まずはサービスをリリースして”当たり”の良いものをベースに改善し続けていこうと。また、2011年1月にデザイナーが入社したことで開発が格段にスピードアップし、チームで目標達成するという体制になったことが大きいです。このころに『みんながワクワクしてイノベーションを起こし続けられるメガベンチャー』を目指すという、会社のビジョンが明確になりました」

そのビジョンを達成すべく、サーバ・インフラ周りを神尾氏が、アプリケーションを小林氏が作成する分担の下で開発を進め、サービスのリリースと、その後アジアでのヒットまでこぎ着けることになる。

神尾氏が語る、「スタートアップ技術者 に必要な3つのスキルセット」

「トランスコスモスに在籍していたころは、システムの運用保守を主にやっていて、コードは一切書いていませんでした。その経験もあって、インフラを自前で運用することの重要性を強く認識しています。いつ何時、自分たちのサービスが「跳ねる」か、分からないですから。

極端な話、コードだけを書く人なら外注することもできますが、DNSやロードバランサーの組み立てなど、サービス立ち上げから運用までの仕組みやイメージを持っているエンジニアについては必ず社内にいるべきだと思います。サービスの運用管理を外注してしまい、万が一サービスがダウンした時に、外注先から「24時間以内に対応します」なんて言われても困りますので。

また、急なピーク時のスケールアウトに対応できないのは、スタートアップのサービスにとって致命的じゃないですか。だからこそ、わたし自身がコードを書くだけではなく、インフラを含めたエンジニアリング全般ができることにマインドパレットの強みがある、ということを意識しています。

インフラの勘所があるかどうかは、エンジニアの採用面接でも重視しています、例えば、Amazon Web Service(AWS)のサーバを立てられるかどうかをスキルチェックの要件にしたり、面接から入社までの間にWebサービスを一つ作ってもらうことで、本番運用まで含めた想定や、意識が高いか低いかを見ています」

「これは、ワークスアプリケーションズの社内カルチャーの一つである『他責NG』から影響を受けています。非常に難易度の高いタスクを請け負って失敗したり、外的要因でトラブルが発生した時でも、すべて自己責任という考えのもとに最後まで問題解決に取り組むことを意識しています。そうすることで短期間で自分自身が成長でき、結果として問題解決のスピードが上がっていきますから。

これは自分だけの問題に限りません。例えば、昨年11月にリリースしたAndroidアプリの開発について、auの新機種にプリインストールされる重要な開発プロジェクトでもありましたが、これを22歳のメンバーに丸ごと任せました。非常に難易度の高い仕事を任せたわけですが、彼はAndroid版の『Snapeee』を自分自身のプロダクトだと思い、言いわけなど一切せずに仕事に取り組んでくれたので、スケジュール通りのサービスリリースを達成できただけではなく、彼自身が短期間で劇的に成長してくれたと実感しています。

マインドパレットでは自分を含めたメンバー全員が、達成可能かどうかギリギリのレベルの難しい仕事ばかりを担当しているので、もちろん失敗やトラブルが起きることもあります。そんな時でも、やたらと謝って萎縮してしまうような雰囲気にするのではなく、挑戦してくれたことに『ありがとう』と言うことを意識し、達成した時には素直にみんなで喜ぶようにしているのは、マインドパレットのカルチャーかもしれません」

「技術を追求するモチベーションの高さは、CTOにとって重要なポイントだと思います。わたしも、『新しい分野でもまずはやってみる』、『面白そうな集まりには顔を出す』、『優秀なエンジニアの動向をトレースする』といった形で幅広い技術トレンドをチェックしています。

それらを踏まえて、わたしは社内で技術に関するダントツの情報量を持つ存在でありたいのです。もちろん、それぞれの領域で自分より高いスキルを持つメンバーはいます。それでも、技術を組み合わせてサービスを実現する力、ある機能をどのように実装できるかに関しては、わたしがダントツで一番になれるよう心掛けています。

そうやって自分がトップを走ることで、マインドパレットの事業スピードがさらに上がっていくようにしたいですね。また、年齢や経験に関係なく社員全員がライバルで、お互いに研鑽し合う関係でいたいなと。今のところ負けるつもりはありませんが、わたしを圧倒的に凌駕するような技術を持っている人が出てきたら、その時はCTOを交代してマインドパレットを引っ張っていってもらえれば良いと思っています(笑)」

アジアのInstagramを目指し、どんなトラフィックにも耐え得るインフラを

20代の若いメンバーを中心に、少数精鋭のチームで作られる『snapeee』

20代の若いメンバーを中心に、少数精鋭のチームで作られる『snapeee』

2011年10月にはグリーとの資本提携を発表し、2011年末時点で100万人を超えている『Snapeee』は、すでに次の一手に向けて動いている。

現在はアプリケーションエンジニア4名、サーバ・インフラエンジニア2名、デザイナー2名、営業・企画2名、海外のコミュニケーションが1名と計11名でサービス開発にあたっている。

F1層の女性ユーザが中心というキーワードやシェアの80%が海外という実績に関心が寄せられ、大企業からタイアップのキャンペーン企画の相談も増えているそうだ。

デコ写真アプリという分野では類似のサービスが増えてきているものの、独自のユーザーベースを持っているサービスは少ない。神尾氏自身、「確かにほかの写真アプリから学ぶところは多いが、本当の意味でロールモデルとして、そしてライバルとして競う相手はInstagram」だと話す。

「キャンペーン企画や新機能をリリースすれば、必ずシステムに無理が生じます。CTOとしては、それを未然に防ぐためにインフラを踏まえて設計していく必要があります。ベンチャーは日々状況が変わっていくので、どれだけ仕様が変わっても、サービスが拡張しても、『技術的にできません』ということのないよう、常に試行錯誤を行い、技術力を養っていきたいです」

会社を作って1年半を振り返って、「ベンチャーの方が成長する」と感じているという神尾氏。これからもきっと、「サービスを止めないために必死になる」、「少数精鋭の組織でやっていくため周りのせいにはできない」といった、さまざまなプレッシャーを受けながらも、ベンチャーの環境を楽しんでいくだろう。

【インキュベーターの視点】

2012年4月9日にはFacebookによるInstagramの買収がニュースとなった。独自の会員を持つスマートフォンアプリケーションは、ビッグカンパニーからのニーズが強いものと確信を強められるものとなったのではないだろうか。

今回取材させていただいたマインドパレットの強さは、小林氏と神尾氏の両名が対外的な活動を行っている点にあると感じている。神尾氏はCTOでありながら、イベントにおけるスピーチや海外のマーケティング活動などを積極的に推進している。

CTOが事業についてアツく語り、事業提携をつなぎこめるかといった点や、採用においてシンポルになることができるかといった点。これらの要素が、事業拡大できるか否かを分けていくのではないかと感じている。

撮影/小禄卓也(編集部)