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OSSをHackしてキャリアが広がる~海外生まれのドキュメントツール『Sphinx』を開発・運営する日本人メンバーに聞く

タグ : OSS, Python, Sphinx, コミュニティ 公開

 

システムやアプリ開発に取り組むプログラマーの多くが苦手としているのが「ドキュメント作成」。IT業界ではいまだにWordやExcelがメジャーなドキュメントツールとして用いられているが、そもそもこれらのソフトを敬遠している人も少なくないのではないだろうか。

とはいえ、組織としてコーディングを手掛けている限り、ドキュメント作成は避けて通れない“義務”であることも事実。そこで今、面倒なドキュメント作成をよりプログラマブルに行えるツールとしてPythonistaの脚光を集めているのが、OSSのドキュメンテーションビルダー『Sphinx』だ。

Python製ドキュメンテーションビルダー『Sphinx』の日本ユーザ会ホームページ

『Sphinx』は、Python 3.2や3.3のリリースマネジャーとして知られるゲオルグ・ブランドル氏が開発し、BSDライセンスを通じて公開されたツール。マークアップ言語のreStructuredTextでドキュメントを書いておけば、HTMLやPDF(拡張機能が必要)といった一般的に用いられるファイル形式に変換して出力できる点が最も特徴的だ。同時に差分管理ができたり、自動で目次やアンカーが作成され、ドキュメント内の検索も可能になっている。

そのOSSツールは今、ここ日本で機能追加や拡張、メンテナンスが行われている。中心を担っているのは、日本ユーザ会の主要メンバーとして活動している清水川貴之氏と小宮健氏、山田剛氏の3人である。

もともと海外で開発されたPython製ドキュメント作成ツールが、なぜ日本人エンジニアたちによって開発・運営されているのか? そのモチベーションと、活動を通して得たものについて3人に聞いた。

ムリせず自然体で3人それぞれが「できることをやる」

(写真左から)山田剛氏、清水川貴之氏、小宮健氏の3人

2011年11月、以前からSphinxのユーザーだった清水川氏がコミッターになったことから始まった『Sphinx』の開発。ブランドル氏が多忙になり、「チームで運営に当たりたい」とメッセージングしたところ、手を挙げた10名弱の1人が清水川氏だった。

「2010年に日本ユーザー会を立ち上げた渋川よしきさんからSphinxのことを教えてもらい、それ以来とても実用的なツールという印象を持っていて、仕事でも活用していました。僕自身はコミッターになる前から、日本語ファイル名対応や多言語化の向上を手掛けていました。SphinxはPython以外の言語でもすでに使われていて、もっと多くのエンジニアが手軽に使えるように機能を改善、向上していきたいと思っています」(清水川氏)

現在、日本ユーザ会の元会長だった小宮氏は主に『Sphinx』の拡張を手掛け、現副会長の山田氏は毎月行っているユーザ会主催の勉強会を主導している。

基本的な使い方の講習を山田氏が担当し、技術的な課題や機能追加・拡張の方向性などを清水川氏、小宮氏が検討するといった役割分担で行っているという。

3人共にそれぞれ企業に属して仕事をしており、組織での役割も小さくない。仕事帰りや週末などに集まって活動を進めているというが、しんどくはないのだろうか?

「正直、しんどくないと言えばウソになります(笑)。でも、自己満足ではありますが、『良いツールを少しずつでも世界に広めていっている』という満足感がありますね」(清水川氏)

「ドキュメントツールはHackしていて楽しいというか、改善ポイントが多いわりにやりたがるプログラマーが少ないので、自分が貢献できる余地が大きいんです」(小宮氏)

「それに、OSSコミュニティには情報感度の高いアクティブなプログラマーが多いので、自分自身のスキルアップとして勉強になっている面もモチベーションになっています」(山田氏)

小宮氏は「もともとPythonを勉強するための“ネタ”として『Sphinx』をHackしていた」と語るように、三者三様のかかわり方でユーザ会を運営しているという。これは、全員が負担なくコミュニティにかかわるためのポイントでもあるだろう。

OSSを「使うだけ」では得られないメリットとは?

エンジニアとしての「欲求ドリブン」でOSSコミュニティにかかわっているという3人

さらに、OSSコミュニティでの活動は仕事の上でも良い効果を生んでいると山田氏は話す。

「この活動を通してTwitterで発信していたことがきっかけになって、昨年6月に転職をしました。そういう意味では、ドキュメント作成という同じ課題を持つエンジニアと広く知り合うことができたのが一番の収穫でしょうか(笑)」(山田氏)

清水川氏も、拡張・改善を行っていく過程で「いろんな技術領域に触れるようになったし、メンテナンスのためにコードリーディングする機会が増えたのも身になっている」と語る。

同氏は以前、『エキスパートPythonプログラム』の翻訳に参加しているが、その時「Pythonだけでなく同じスクリプト言語のことや幅広い技術領域のことも知ってなければ訳せないということに気付いた」そう。プログラマーとして対応できる幅を広げる機会は、業務で開発に当たるだけではなかなか得られないため、OSS活動はプラスになっているといえるだろう。

ちなみに清水川氏をはじめ小宮氏、山田氏の3人は、共著者として2013年9月に『Sphinxをはじめよう』(電子書籍のみ)を出版。その執筆作業を通して関係が深まり、活動を続けていくモチベーションも高まったと声をそろえる。

OSSを使うプログラマーは日本でも増えているが、こうして自分たちがOSSを開発・運営する側になっていくことで、そこで生まれた人脈や得た知識をキャリアに活かしていく動きはまだまだ少ないといえる。その意味で、清水川氏らの活動は、プログラマーのキャリアメイクの参考となるものだ。

今年10月26日(日)には東京・渋谷区のVOYAGE GROUPオフィスで『SphinxCon JP 2014』も開催される。ドキュメント作成という課題に頭を悩ませているユーザーはもちろん、自らOSS活動を行うことのメリット・デメリットを詳しく聞いてみたいエンジニアは一度参加してみてはどうだろうか。

>> 『SphinxCon JP 2014』の開催概要はこちら

取材・文/浦野孝嗣 撮影/赤松洋太