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[連載:NEOジェネ!] マイクロソフトが注目するアプリ同期クラウド『Synclogue』の、「確信的に世界を狙う」開発戦略

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世間をアッと言わせるユニークなアイデアと技術力で勝負しているニュージェネレーションを応援するこの連載。今回登場するのは、前回の『trippiece』が紹介してくれた情報プラネットの2人。巷を賑わすアプリ系サービスとは一線を画したサービスを開発中とのことで、真相を伺うと、そこには納得の「理由」があった。
株式会社情報プラネット
(左)Fonuder / CEO  山本泰大氏    (右)Co-Founder / CTO  倉世古 恭平氏

異なるWindowsPC上でのアプリケーション同期を実現するクラウドサービス。それが『Synclogue』だ。

“ファイル”同期を行うクラウド型サービスは、人気の『Dropbox』のみならず多数存在するが、『Synclogue』には決定的な違いがある。同期するのは単なるファイルではなく、アプリそのものという点だ。

「ファイル同期」の場合は、ファイルをアップしたクラウドにアクセスしながら同時性を維持するしかない。そこでは、若干のタイムラグと手間が発生してしまう。だが、対する『Synclogue』は、「ファイルの同期だけでは足りなかった同期性を埋めるという感じ。アプリの同期とファイルの同期の双方があることで完全に同期ができると思っている」(CEOの山本泰大氏)。

シンクライアントにも似た発想だが、『Synclogue』をDLすれば手間のかかる設定など一切なしに同期を実現でき、各PCでカスタマイズ設定したアプリでも同期できるという利点もあって、その革新性に注目が集まっている。

中学生で株のネットトレーディングを始めた山本氏は、高校時代には学生向けの「大学の口コミ比較サイト」というビジネスプランで『ドリームゲート・グランプリ』関東大会を優勝。早くから学生起業家として名を馳せてきた。

しかし、「国内に”閉じたWebサービス”を展開しているままでは大成できない」と考えた山本氏は、世界に打って出るためのビジネスプランを5つほど用意。それをCTOの倉世古恭平氏とともに精査していった結果、「これならイケる」と最後に残ったのが、アプリケーションそのものを複数PC間で同期するサービス、つまり『Synclogue』構想だった。

「どの業界、どんなジャンルでも、大きくシェアを取るサービスというのは、これまでA→B→Cというステップを踏まなければできなかったことをA→Cに『スキップできる』ものだと考えたのが事の発端でした」(山本氏)

『Synclogue』開発の最も困難なポイントは、Windowsのレジストリ(Windows系OS上のシステムやアプリケーション設定を記録するデータベース)がどのように動作するか分かっていないと、アプリを同期できないということ。

ヘタに変更を加えたりすると動かなくなってしまうため、かなり知識のある人間以外は触らない方がよいとされる”聖域”を、誰もが共有できるようにするために倉世古氏らがゼロから調査。仮想化するための技術も独自開発し、スタートアップながら特許まで取得している。

さらに、初期はRuby on Railsで作っていたサーバサイドをWindows Azureに置き換える作業も実施中。完全移行できれば、クライアントサイドと同様に.NETが利用できたり、WCF(Windows Communication Foundation)の恩恵を受けられるなど、さらに作業が容易になる。

ここまでハックしてしまうと、開発元のマイクロソフトから指摘を受けそうなものだが、すでに山本氏が同社との密な意見交換などを通じて良好な関係を築いているため、問題はないという。用意周到なビジネス戦略と地道な先行開発が噛み合って、ここまでたどり着けた格好だ。

アプリ人気に背を向けて、あえてインフラ開発に着手した理由 

経済動向から経営・組織論、Web業界トレンドに至るまで、山本氏(左)が語るテーマは幅広く、かつ深い

経済動向から経営・組織論、Web業界のトレンドに至るまで、山本氏(左)が語るテーマは幅広く、かつ非常に深い

本当に22歳なのか?

これが最初の印象だ。[連載:NEOジェネ!]の取材やピッチコンテストなどで会う若き起業家たちの中でも、山本氏の聡明さは異彩を放っている。10代のころから会社を経営し、技術のみならずファイナンスやマーケティングなど、Techベンチャーの経営にかかわるすべてについての高い経験知がもたらすものなのだろう。

山本氏のFacebookを見ると、日々ウォッチしているIT関連ニュースの量は膨大。そして弁舌も明快だ。昨今流行する各種アプリ開発について、提供側の利点と難点をズバリこう指摘する。

「今はプラットフォームが充実してきたので、一気にシェアを獲得できるという点でチャンスは大きい。けれどもアプリは”水もの”で終わるリスクが高いんです」(山本氏)

そう話す根拠は何か。

「”水もの”とは、つまり『替えが利く』ということです。最初は目新しさで注目されても、成功し始めたらどんなビジネスモデルだって必ず後追いの競合が出てくる。『より安いサービス』、『よりクオリティーの高いサービス』をリリースされたら、ユーザーは徐々にそちらに付いていってしまう。反面、インフラに関するサービスは、開発に時間とお金がかかるけれど、きちんと特許などを取得してしまえばそう簡単に『代わり』は登場しない。つまり、需要があって置き換えできないものを開発できれば、長くトップシェアを取れるんです」(山本氏)

「ドラッグ&ドロップ」のワンアクションで、カスタマイズ設定したアプリも同期できるため、BtoB活用も期待される

「ドラッグ&ドロップ」のワンアクションで、カスタマイズ設定したアプリまで同期できるため、BtoB利用も期待される

そんな発想から生まれたのが『Synclogue』というわけだ。BtoCだけでなくBtoB利用の可能性もふくらむ「アプリ同期サービス」を、言葉通り時間とお金をかけて現実のものにした。さらに、スタートアップにもかかわらず、マイクロソフトとのオフィシャルな関係性まで築いている。

山本氏は、マイクロソフトがクラウドビジネスを強化し出すタイミングを待っていたかのように、同社に働きかけたという。発想、技術、特許、タイミング……それらの総合評価で決まるのがビジネスの優劣。それを心得ている山本氏の彗眼が、情報プラネットの強みなのは間違いない。

「ムチャぶり」を実現可能にしたCTOのハッカー的技術力

しかし、同時に興味深いのは、切れ味鋭いビジネス戦略を語る山本氏を、さも楽しそうに見ている倉世古氏の存在だ。

「この人のムチャぶりはホントにハンパないんですよ(笑)。まぁ、それが一緒にやってる楽しさでもあるんですが」(倉世古氏)

先述の通り、『Synclogue』開発の第一歩は実証実験の繰り返しから。はじめからマイクロソフトと共同開発したわけではないので、当然ながら気の遠くなるような取り組みが待っていた。Windows特有のレジストリを理解することしかり、ある意味ハッカー的な高い能力がなければ、実験すら進められないからだ。

仕事は完全分業と話す2人だが、お互いの持つ「尖ったチカラ」を認め合っているからこそ成り立つやり方だ

仕事は完全分業と話す2人だが、お互いの持つ「尖ったチカラ」を認め合っているからこそ成り立つやり方だ

それを倉世古氏は見事にやってのけた。山本氏のチャレンジは、倉世古氏の技術力あればこそ実現可能だった。そのことは、ほかならぬ山本氏が百も承知のようだ。

「僕らのチームは完全分業です。技術面は倉世古を信用していますから。コンセプトさえ皆で握っていればいいと思っています」(山本氏)

新サービスの種は「できる」と「あったらいいね」の際(きわ)にある

そのコンセプトとは、常に「開発できるかどうか」と「あったら良いものかどうか」が重なり合う際(きわ)にあると山本氏は話す。できることに拘泥し過ぎるとイノベーションは生まれず、理想だけで突っ走っても荒唐無稽な夢物語で終わってしまう。

経営者とエンジニアの両方が不可能を可能にしなければ、世界が驚くサービスは生み出せないのだ。

だからこそ、『Synclogue』はR&Dを最重要視している。今秋メドの本ローンチ(現在はティザーサイトを公開し、優先招待窓口としている)に向け、秋葉原に事務所を新設して人員も増やしている最中だが、R&Dに関する部分は今後も倉世古氏が中心になって受け持つという。

「今のメインテーマは同期速度の高速化。この領域についても特許を申請したいと思っています。高専時代に学んだのは組込みやゲーム開発で、サーバサイドも大学に入ってから勉強したので、再び未知の領域に足を踏み入れることになりますね。でも、やってみれば何とかなるんじゃないかなと」(倉世古氏)

その「未知の領域」に駆り立てる原動力は何なのか。そう尋ねると、倉世古氏は「エンジニアとして実現可能性の限界を探したいから」と返す。一方の山本氏の答えは、「ビジネスは期待値のゲームだと思っている」とのこと。

大局を見通す若き起業家とハッカー魂の組み合わせが生み出す未来に、期待がふくらむ。

取材・文/森川直樹 撮影/竹井俊晴

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