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日本初のTizenタブレット開発にシステナが込めた、「モノづくり大国ニッポン」復活への期待

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先日発表されたTizen搭載タブレット。まだプロトタイプの段階なので、製品リリースまでに機能や挙動をさらに洗練させていくという

6月24日、システナが発表した新しいタブレット端末に注目が集まった。その理由は、iOS、Androidに続く「第3のモバイルOS」の座をめぐり、Firefoxとともに話題を集めるOS、Tizenを搭載したタブレット端末だったためである。

発表時の表現上は「日本企業として初の」だったが、実質「世界企業で初」と言える日本のソフトウエアベンダーの発表に期待が掛かる反面、不安視する声もある。「まだ評価の定まっていないTizenを、なぜ搭載したのか?」という反応だ。

そこで、開発を行うシステナの開発責任者たちに、率直な疑問を投げ掛けてみた。

「安全性や自由度の高さ」はモバイルOSの中でも随一

「システナでは、これまでもAndroidが登場した初期のころに扱ってみるなど、最新技術の研究・開発を行ってきました。そのため、今回のTizen搭載タブレットの開発についても、あまり特別なことではありません」

そう話すのは、プロジェクト全体を統括する淵之上勝弘氏。続いて同氏は、モバイルOSの2大勢力として圧倒的なシェアを誇るiOSやAndroidにはない、Tizenの魅力についてを語った。

「iOSは完全に、Androidにしても一部のソースコードがブラックボックスとなっていますよね。うちはメーカーではありませんが、モノづくりのメーカーからすると、製品のすべてに責任を持つにあたってブラックボックスのある技術は採用できません。その点、FirefoxやTizenは完全なるオープンソースなので安心して製品に組込めるんです」(淵之上氏)

では、なぜFirefoxではなくTizenを選んだのか。プロジェクトリーダーを務める杉山新氏は、「どちらもHTML5を中心にして動く、という点で共通しているように思われていますが、実は大きな違いがある」と、技術的な観点からFirefoxとTizenとの違いから、Tizenの優位性について言及する。

(写真左から)システナの杉山新氏、村田一弘氏、淵之上勝弘氏

「FirefoxはすべてのアプリケーションやUIを、ほぼHTML5、JavaScript、CSS3で構成するという思い切った仕様で期待を集めていますよね。一方のTizenもまた、HTML5ベースのアプリを全面的に採用しています。一見、同じようにも見えるのですが、Tizenについてはネイティブアプリも動く仕様になっているのです。そのため、既存のC言語で書かれたコードを組み込むといったことも可能となります」(杉山氏)

例えば自動車や家電品との連携で新たなサービスを構築しようと考えたなら、パフォーマンス優先で開発を進めたい場面が当面は必ず出てくる。すべてをHTML5で解決しようとすれば、課題が山積になる恐れがあるのだ。

こうしてシステナは、「安定して素早いパフォーマンスを実現するプラットフォームとしてはTizenに優位性がある」という判断を下した。

「今回の開発プロジェクトにあたり、わたしたちはTizenだけでなくFirefox搭載タブレットも開発を進めています。正直なところ、どちらが容易かといえばFirefoxです。当社がすでにAndroidが動作しているPF上にFirefoxのポーティングを試したところ、カーネルにミドル層のエンジンを単純にポーティングするだけでも動きました。逆に、Tizenで同じ試みをしてもなかなかうまく動きませんでした」(村田氏)

Tizenは、サムスンとインテルが共同開発しているため、オリジンのソースイメージを見てもサムスンに特化したカーネルやドライバーに最適化されている。そのため、別のハードウエアにポーティングしただけではまったく作動せず、何度もトライ&エラーを繰り返してきたという。

「完全なオープンソースとはいえ、Tizenはそれ自体が歴史が浅く、課題に突き当たった時の解決策がAndroidのようにWebで見つけることが簡単ではありません」(杉山氏)

「初めてプログラミングを触った時のことを思い出させてくれるほど、難易度が高いと感じました(笑)。だからこそ面白くて、技術者魂をくすぐられるんですけどね」(村田氏)

日本の得意分野、自動車や家電にこそTizenが必要

気になるのは、Tizenが今後モバイルOSの世界で勝機があるのかどうか。先日、サムスンの開発するTizen搭載スマートフォンが遅延しているというニュースが世間を騒がせたばかりだということもあり、今後に不安を抱える人は少なくない。

しかし、村田氏は「あくまで憶測だが…」と前置きしつつ、「やはり開発難易度が予想以上に高いという点と、マーケットの整備を完璧な状態に仕上げてから発売させようという点の2つが開発遅延の理由ではないか」と楽観的だ。

「正直、エンドユーザーにとっては、使い勝手さえよければOSは何でもいいと思うんです。例えば、カメラにどんなOSが搭載されていようが、便利であればいいですよね。ただ、日本メーカーの側に立って考えた時に、そうは思えないんです。

冒頭のiOSとAndroidの話にもありましたが、例えば車載システムを作る時に、ユーザーのログや走行データがブラックボックスとなってどう扱われられているのかが分からないのは、自動車メーカーとしては致命的ともいえます。ユーザーに新たな価値を提供するためにもデータの流れは自社で持つべきなのに、アップルやグーグルに、さまざまなデータを持っていかれてしまうのは避けたい。そんな問題が、Tizenを搭載することで解決されるのです」(淵之上氏)

自動車だけでなく、テレビ、複合機、カメラなど。さまざまな家電にTizenを搭載させることができれば、活路は見出せる。

「われわれが目指しているのは、ロープライスの端末販売ではなく日本のメーカー向けにTizenの採用を促進すること。高度な技術を要するものの、さまざまなデバイスにTizenを採用すればパフォーマンスやセキュリティ重視のソリューションなどにも対応できる。日本企業が海外先進国向けの製品で差別化を実現できるようなサービスに仕立てていくことも可能になります」(淵之上氏)

「今日(※編集部注:取材は7月4日に実施)もTizen2.2βがリリースされ、使いやすさなどが改善されています。パフォーマンスを追及しているという意味では、サムスンがそれだけ本気で取り組んでいる、ということではないかと思っています」(杉山氏)

Tizenが、「モノづくり大国ニッポン」復活の口火を切るか

「日本の『二番手志向』を払拭するためにも、先陣を切って開発を進める」と話す淵之上氏。3人の熱意が伝わってくる

そうは言っても、いまだに世間では「第3のモバイルOSは必要なのか」や「生き残るのはFirefox? それともTizen?」という議論がされている程度である。システナほどの大手企業がこのタイミングでチャレンジするのは、冒険といえるのではないか?

「もちろん、危機意識は持っています。Tizenが普及しなかったらどうするのか、という懸念は世間でもあるかもしれません。けれども、『失敗するんじゃないか。だったら様子見をしておこう』という姿勢で後れを取ってきたのが今の日本企業じゃないか、という反省もあります。その自省の意味も込めて、『Tizenでこういうことがしたい』とクライアントからいろいろ要望を言われても、『できません』と言うのはやめようと思っています。そういう覚悟で難しいチャレンジにも立ち向かっていきたい」(淵之上氏)

かつてモノづくりで世界に存在感を示した日本の復活、日本メーカーの再生に、技術で貢献する。それが、システナからの回答だ。

取材・文/森川直樹 撮影/小禄卓也(編集部)