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ネット黎明期から音楽配信に携わってきた男が語る、「文化」を発信するという技術【連載:匠たちの視点-竹中直純】

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プロフィール
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技術家

竹中直純氏

1968年生まれ。ネット黎明期からネット文化と密接にかかわるプロジェクトに多数携わる。中でも音楽SNS『recommuni』(レコミュニ/現OTOTOY)やタワーレコード日本法人のCTOとしてナップスタージャパン立ち上げなど、音楽とのつながりは深い。現在はネットコンサルティングのdigitiminimi(ディジティ・ミニミ)を中心に、電子書籍販売のBCCKS(ブックス)、音楽ダウンロード販売のOTOTOY(オトトイ)、未来検索ブラジルの取締役やCTOを兼任。武蔵野美術大学デザイン情報学科の非常勤講師も務める

「この20年ぐらいの間に、僕らは音楽を楽しむ自由を奪われてきたんじゃないかって思うんです」

かつて音楽ファンのためのSNS『recommuni』(レコミュニ)でDRMフリー音源の流通を試み、日本初のインターネットによるライブ中継『坂本龍一武道館ライブ』の配信立案、技術ディレクターを務めるなど、ネット黎明期からインターネットと音楽の関係を見つめてきた竹中直純は、現在われわれを取り巻く音楽環境が不本意でならない。

「世界にはすごく豊かで、とんでもなく面白い音楽がたくさんあるのに、日本ではほとんど知られていないものがすごく多い。例えば南米の“Cumbia”(クンビア)ってジャンルは、独特の変なグルーヴ感があってすごく面白い音楽なのですが、普通の日本人は知りません。”FUNKOT”(ファンコット)は若干マシな程度。もしかしたら”DUBSTEP”(ダブステップ)だって怪しいんじゃないですか?

この原因は、TVのような大メディアが過去20年の間に、音楽の楽しみ方を伝えることを怠ってきたからなんだと僕は思っています。これだけインターネットが発達して、地球の裏側の出来事だって瞬時に伝わる世の中なのに、僕たちにはそういう『音楽』が伝わらない。おかしな話ですよね」

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国内外で増え続ける音楽配信サービスの今について、竹中は「面白さに欠ける」と評する

長らく音楽エンターテインメントの主たる担い手だったTVから、世代を超えて支持される歌番組が消えて久しい。街角からは個性的なレコードショップが姿を消し、その欠損を補うように登場したメガCDショップも今は昔。

主役の座は音楽配信ダウンロードサイトに奪われてしまった。

少子高齢化という時代の趨勢と音楽市場の変化が、音楽ジャンルの細分化やそれにともなうコミュニティ間の断絶に与えた影響は大きい。今後、欧米で大成功を収めた『Spotify』や『Pandora』、『Rdio』といった音楽ストリーミングサービスの上陸も噂されるが、大半のアーチストやリスナーは蚊帳の外に置かれたままだ。

「確かにSpotifyもPandoraも使ってみたらすごく便利だと思います。でも、安くてたくさんの曲が聴けるってことだけが、音楽サービスのあるべき姿なんでしょうか? アーティストやユーザーを幸せにする方法なんでしょうか? 僕には決してそうは思えないんです。

音楽のような文化財を経済合理性だけで突き詰めていくと何が起こるかといえば、『月々の支払いの安さ』とか、『アプリの使いやすさ』で音楽を選ぶ時代が来るってことです。それって音楽の質とはまったく関係ないものじゃないですか?

本音を言えばアーティストは自分が作った曲を楽しんでほしいだけだし、ユーザーは新しい音楽に出逢ってワクワクしたいだけ。それなのに、現状は当事者の気持ちとはまったく別の次元で物事が決まっている。だから僕は『OTOTOY』で、もう一つの選択肢を提示しているんです」

竹中は今、音楽を取り巻く環境に抗うべく、自ら立ち上げた『OTOTOY』というプラットフォームを通して、ユーザーと音楽、ユーザーとアーティストの幸福な出逢いを追求している。「当たり前なことを当たり前に」がテーマだ。

とはいえ、アーティストやユーザー側にも考えてほしいことがあると竹中は言う。

「ミュージシャンが一定の支持を得ようと思ったら、メディアへの露出は欠かせません。いまやFacebookやTwitterもあればニコ動だってあります。TVや雑誌など既存のメディアのパワーが落ちているのですから、いつまでも『インターネットはちょっと……』なんていっていないで、どんどん使いこなしてほしいし、音楽ファンの皆さんには、もっとたくさんの音楽に興味を持っていただきたい。もしかしたら『最近の音楽はつまらない』んじゃなくて、単に知らないだけかもしれませんよ」

「今後100年は、プログラマーは重要な立場を占め続ける」

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竹中が手掛ける『OTOTOY』。iPhoneアプリはコチラ

竹中は、国内における「ネット第一世代」を代表する一人だ。

こちらの膨大な仕事史を見てもらえれば分かる通り、竹中の守備範囲は音楽だけにとどまらまず、90年代前半からインターネットとカルチャーの接点となるようなプロジェクトに数多くかかわっている。

国内初の電子チケット決済システム『e-ticket.net』や『2ちゃんねる検索』、電子通貨システム『モリタポ』、電子書籍の『BCCKS』の企画、開発、また1週間分のテレビ番組をすべて録画する『SPIDER』開発のきっかけを作り、最初のサーバ側プログラム群も竹中の手によるものだという。

言うなれば、インターネット黎明期から今日に至るまで、文字通りネット文化の最前線で分野の垣根を越えた活動を繰り広げているわけだが、なぜそこまで幅広い領域にかかわることになったのだろうか?

「僕らの世代は、インターネットが生まれる前に楽しいことをいっぱい経験しています。それこそ鬼ごっこやかくれんぼのように、身体を使った遊びもしましたし、家に帰るとTVやステレオセット、ラジカセがあって、自分の声やテレビ、FM番組をきれいに録るために工夫するのが何よりも楽しかった。そんな世代です。

編集する面白さを知ったのも、たぶんガリ版刷りからワープロへの進化に立ち会ったことと無関係じゃないでしょう。だから自分の中では、『昭和』に経験した楽しいことを『平成』の今、インターネットの時代に合う形にトランジション(転換)している感覚が強い。言ってみれば、決済も検索も音楽も出版も、僕にとっては全部同じ。一直線につながっているものなんです」

だから、たくさんのことにかかわっているっていうのはあくまで結果。意図したものではないと笑う。

こうした精力的な活動を支えているのが、卓越したプログラミング技術だ。竹中はプログラマーこそ社会を変えることができる稀有な存在だと信じている。

「考えたことをネット上で実現するにはプログラミング技術が必須ですし、社会の基盤をリアルからネットにスムーズに移行させるのが、プログラマーの使命だと思っています。今でもプログラマーという職業は、SEの下働きのような存在だと思われています。でも、昔も今も、ネット社会を支え、変革しているのはプログラマーの書くコードです。その重要性は今後100年にわたって続くと僕は思っています。

幸いなことに、僕はそのプログラミングが好きだし得意でもある。僕にとってコードを書くというのは、自分に忠実であるために欠かせないものであるとともに、自分の危機意識を社会に問うための大切な道具でもあるんです」

文化を支えるサービスは、経済合理性だけで計られるべきではない

自身の肩書きを「技術家」と称するのは、こうした社会基盤の担い手であるという自覚に基づいた自負の表れでもある。

だからこそ、音楽や本といったカルチャーを単なる金儲けの道具としか考えない人たちや、プログラマーを単にコードを書くだけの存在だと考える人たちとは、一線を画したいと思っている。
(次ページへ続く)