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スマニュー、メルカリ、BrainWars。“スケールアップ企業”とスタートアップの世界戦略3つの違い~TechCrunch Tokyo 2014レポ

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「今は誰でも簡単に会社を作れる時代。これからはスタートアップではなく、いかに会社をスケールアップできるかの勝負になっていくと思います」

このコメントの主は、『アングリーバード』で知られるRovio Entertainment社の日本法人代表から、『PlugAir』などを展開するBeatroboのCOOへ転じたアンティ・ソンニネン氏。今年9月にジョインした直後のインタビューで、「なぜ起業ではなくBeatoroboへの移籍を選んだのか?」という問いに対して答えたものだ。

ソンニネン氏が言う“スケールアップ企業”とは、優れたプロダクト開発で事業の地盤を築き、その後資金調達や提携などで一気にグローバル展開を狙うような企業である。

2014年11月18~19日の2日間、渋谷ヒカリエで行われたスタートアップの祭典『TechCrunch Tokyo 2014』で、「世界で戦えるプロダクトの作り方」をテーマに登壇したスマートニュースメルカリは、この“スケールアップ企業”の代表格と言えるだろう。

両社ともに巨額の調達を経て、本格的に欧米進出を仕掛けている最中だからだ。

一方、同テーマのセッションには、起業からまだ1年足らずで対戦型脳トレゲーム『BrainWars』を世界700万ダウンロードまで広めたトランスリミットも参加。『SmartNews』はニュースキュレーション、『メルカリ』はフリマ、『BrainWars』はゲームと、それぞれジャンルが異なるため一概には比べられないものの、当日語られた世界展開へのアプローチはスケールアップ企業の2社とスタートアップしたばかりのトランスリミットで「違い」が浮かび上がる格好となっていた。

顕著だったのは、主に以下の3点だ。

【1】開発拠点を現地に作る? 作らない?
【2】海外向けにUIを改善する? しない?
【3】エンジニアの採用はスキルを重視? キャラを重視?

それぞれの具体例を、登壇した鈴木健氏(スマートニュース)、小泉文明氏(メルカリ)、高場大樹氏(トランスリミット)の3者のコメントから紹介しよう。

開発拠点を現地に作る? 作らない?

トークセッションの模様

今回の3社のうち、スマートニュースとメルカリはアメリカに開発拠点を構えており、着々と現地拠点の人員を増やしている。

特に、スマートニュースは現地スタッフの拡充に余念がない。なぜなら、ニュースアプリの特性上、現地のWebメディアとの協力関係が必要不可欠からだ。特に、ニューヨークはCNNなど世界規模のニュースメディアが集まっている。

「現在はサンフランシスコに4人、ニューヨークに2人のスタッフが在籍しています。ゆくゆくは、“世界選抜”のようなチームを作ることを前提に、あらゆる職種のスペシャリストを集めた組織にしたい。その際、海外スタッフの『カルチャーフィット』は非常に重視しており、必ず日本に一定期間滞在してもらったり、面接も10回程度重ねるようにしています」(鈴木氏)

一方、トランスリミットは現状、海外に拠点を置いていない。まだ資金的な余裕がないという事情もあるものの、高場氏は「来年どうなっているかは分からないが、現状はまだプロダクトをローンチしたばかりゆえ、拠点を分散するより顔を突き合わせてチューニングしていく方を優先したい」と理由を説明する。

「『BrainWars』は世界中のユーザーと対戦プレイをするものなので、各国の通信インフラの違いは心配でした。ただ、ソケット通信を使ってほぼ問題なくプレイできています。今年のW杯の時も、ブラジルに行く友だちに検証端末を持たせて、Skypeでつなぎながら実際にプレイ環境をテストしてもらい、日本となんら変わりないと確認できました。こうやって地道にテストしていれば、国内での開発も十分可能だと思います」(高場氏)

ローカライズが必要不可欠なジャンルかどうかで戦略は変わる。海外展開を志向するスタートアップは、その見極めが肝心になるようだ。

海外向けにUIを改善する? しない?

『BrainWars』のユーザー割合は、現時点で日本よりUSほか海外が多い。その理由の一つはUI設計にあるという

そのローカライズについて、メルカリは2014年9月にUS版をリリースする前、世界共通の大胆なUIリニューアルを行った。スマートニュースに関しては、欧米向けに日本版とは別のUIを採用しているそうだ。

日本版のUIを海外向けに作り直すかどうかは多くの開発チームが悩むところだが、なぜこの2社はUI刷新の判断を下したのか? メルカリの小泉氏は、経緯をこう話す。

「初期のメルカリは日本の女性に受け入れられるよう、あえてゴテゴテしたデザインにしていました。ただ、好みが違うUSユーザーには『ダサい』と思われるかもしれないと、彼らがなじみ深いフラットデザインを採用してUIに変えたのです。

社内には『国内のユーザーが離れるのでは?』という懸念もありましたが、今は日本でも『Facebook』や『Instagram』のようなUS生まれのアプリが普及しています。そのため、思い切ってUS仕様のUIで統一しても、日本でのユーザー離れは起きないのでは? という結論になりました。いざ蓋を開けてみると、リニューアル後も批判的な意見はほとんど出ていません」(小泉氏)

そのフラットデザインをアプリのリリース当時から採用していたのがトランスリミット。最初から世界中の人が使うことを念頭に置いて開発していたためだ。

「その成果もあってか、『BrainWars』は国内外を問わず広告宣伝費ゼロで700万ダウンロードまで成長することができ、海外ユーザーの割合も非常に大きなものになっています」(高場氏)

フラットデザインが主流となりつつある今では、フェーズの違いに関係なく、最初からトランスリミットのような割り切り方が有効なのかもしれない。

エンジニアの採用はスキルを重視? キャラを重視?

最後に、トークセッション後に世界展開へ向けて、国内のエンジニア採用についてどのようなポリシーを持っているか鈴木氏と高場氏に直接聞いてみた。

かたやアメリカの拠点を拡張し、世界選抜チームを作るという野心を持つスマートニュース。かたや(現状は)日本での開発にこだわっているスタートアップ、トランスリミット。両者の現状の採用スタンスには明確な差があった。

スマニューの鈴木氏は、「世界選抜を作るには、大前提として技術力が必要」と話す。

「それともう一つ、『プロダクトを知るエンジニア』であるかどうかも重視します。スキルフルで職人気質なエンジニアは世界中にたくさんいますが、プロダクトの仕上がり全体に徹底したこだわりを持てるエンジニアは世界的に見ても希少価値があるからです」(鈴木氏)

他方、自らもエンジニアであるトランスリミットの高場氏はこう話す。

「今はまだ7人しかスタッフがいないので、技術力の高さより、人間性がチームにマッチするかどうかを重視しています。これから、僕らと一緒に長い時間を掛けて世界を狙えるメンバーになれるか。そこを重点的に見て採用していくつもりです」(高場氏)

【1】で紹介したスマートニュース鈴木氏のコメントも踏まえれば、すでにベースが固まりつつある中でスキルとカルチャーフィットを重視するのか、それともこれからカルチャーを共に作っていくためのキャラクターを重要視するのかは、スケールアップ企業とスタートアップの違いだろう。

ベンチャーへの転職を検討しているエンジニアは、これらの違いに着目しながら情報収集するのもいいかもしれない。

取材・文・撮影/長瀬光弘(東京ピストル