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酒造をHackして全国的に有名になった日本酒『浦霞』に学ぶ、「インターネット屋の次の仕事」【TechLIONレポ】

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『IT革命』という言葉が「新語・流行語大賞」を受賞したのは2000年。もう14年も前になる。

その後久しく聞かれなくなっていた『IT革命』が近年めまぐるしく進んできた分野がある。その分野とは“酒造”だ。

「伝統的な知識を要する“酒造”のIT化を見れば、今後のインターネット屋の可能性が分かる」とは現在、東京大学大学院情報理工学系研究科の教授を務める江崎浩氏の言葉である。

2014年3月5日に六本木のライブハウスSuperDeluxeにて開催された、「酒」と「技術論」をテーマにしたトークライブ『TechLION vol.16』。その第1部で「インターネット屋の次の仕事」という演題で江崎氏が語った内容から、その真意を紐解いていく。

「フランスワインとカリフォルニアワインの違いって分かりますか?」

「酒」もテーマのひとつである『TechLION』にぴったりの内容に(左から馮富久氏、法林浩之氏、東京大学大学院の江崎浩氏)

「酒」もテーマのひとつである『TechLION』にぴったりの内容に(左から馮富久氏、法林浩之氏、東京大学大学院の江崎浩氏)

「フランスワインとカリフォルニアワインの違いって分かりますか?」

上の問いは、江崎氏から会場に投げられた質問である。江崎氏は両者の違いを、「農業製品」と「工業製品」という製法の違いであると解説する。

「フランスワインは木の樽で熟成させ、人が管理する、という昔ながらの伝統的な製法で作られています。一方、カリフォルニアワインはプラントのような金属の容器で、温度や湿度などをコンピュータで管理するというデジタルな製法で作られている。そういう意味では、フランスワインは“農業製品”、カリフォルニアワインは“工業製品”と呼んでいいでしょう」

伝統的な製法で作られるフランスワインは大量生産ができないが、さまざまなチャレンジができる。一方、カリフォルニアワインは大量生産ができるが、製法転換を容易にできないという両者間の良し悪しがある。

酒造ノウハウのIT化で酒蔵の持ち運びが可能に

そして江崎氏は、酒造におけるIT化の成功例として日本酒『浦霞』を挙げた。『浦霞』を生産しているのは、宮城県塩竈市にある老舗造り酒屋、佐浦である。

「約30年前、杜氏の方の高齢による引退に際し、その製法やノウハウをすべてデータ化し、“仮想杜氏”を生み出したのが佐浦です。佐浦はこれにより大量生産できるようになったのはもちろんのこと、製法のどこをどう変えたらどのような味になる、というシミュレーションまでできるようになりました」

宮城県は3.11の東日本大震災でも大きな被害を受けた地域だが、被災地の酒造会社で真っ先に製造を再開できたのは、このようなIT化を取り入れていた会社だという。

「酒造会社のIT化は、危機管理という意味でも効果がありました。極論ですが、データさえ無事であれば、まったく違う地域でもその銘柄の日本酒が作れる、ということになりますから」

非デジタル分野にこそWebエンジニアの活躍の場がある

「とりあえず飛び込むこと」がアナログ分野をハックするためのコツだと話す江崎氏

「飛び込んで丁稚奉公から始める」ことがアナログ分野をHackするためのコツだと話す江崎氏

「IT導入で発展した酒造業界は先進的な例で、伝統を重視するためアナログから脱却していない分野はいまだに多い。そのような分野に、今までのビジネスモデルとは違うアプローチを提案できるのは、ITを知っている人だけです」

しかし、アナログな業界をいきなりデジタル化するのは容易ではない。Webエンジニアが非IT分野をHackするにはどうしたらいいのか。

「いまだにIT化していないということは、その業界にはITに詳しくない人たちが多いということですから、最初はエンジニア的なアプローチも拒否されることでしょう。ただ、IT化してメリットを受けるのはユーザーだということを明確に説き続ければ、彼らは動きます。それまでは、丁稚奉公する腹積もりで、その業界のしきたりや慣習を学ぶんです。両者の間に信頼が生まれ、IT化の判断が下されれば、あとはイノベーションを起こすだけですから」

これからの「職場」として、選択肢の1つにITとはまったく関係ない業種を入れてみる柔軟さも、今後は必要になってくるのかもしれない。

>> 2014年6/26開催の『TechLION vol.17』出演者・開催概要はコチラ

取材・文・撮影/佐藤健太(編集部)