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構造不況に左右されず「生き抜くSIer」の特徴とは? テクノバンに見る3つのカギ

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2008年9月のリーマン・ショックからもう5年。今年3月に調査会社のIDCが公表したリポートによると、2012年の国内ITサービス市場は4年ぶりのプラス成長となり、企業のシステム投資欲に復活の兆しが見え始めている。

ただ、同レポートでは「今後、市場のけん引役を担うのはクラウドやビッグデータなど『第3のプラットフォーム』関連」との記述もあり、オンプレミスな企業システムを開発・納入するだけの従来型のSIビジネスは、引き続き厳しい局面と言えそうだ。

そんな中、「淘汰の時代」を迎えたSI業界をサバイブし、新たなマーケットを着々と開拓しているSIerも少なからず存在する。1996年2月の設立で、社員数約340人と中小規模ながら、今期も前年同期比で20~30%以上の売上増となっているテクノバンもその1社だ。

大手の基盤に“乗っかるSI”から、自ら“創るSI”への転換

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(写真左から)テクノバン・ITビジネス第3部の田中仁氏と、ITビジネス第1部の村田大治氏

リーマン・ショック以降、多くのSIerが低迷した理由の1つには、大手ベンダーが提供するハードや基盤に“乗っかる”だけのビジネスモデルがあった。

2000年代前半はERP導入ブーム、その後は内部統制システムのニーズ増など、SI業界にはその時々のトレンドがあり、それに合わせて大手が提供する各種パッケージシステムをカスタマイズ導入するのが、中堅・中小SIerの定石だった。

テクノバンも創業以来、上記したような受託ビジネスやオフショア開発を展開しており、現在も継続して行っている。ではなぜ、彼らはリーマン以降に露呈した構造不況を乗り越えることができたのか。

それは、いち早く変化に気付き、“乗っかる”だけの開発から自分たちの手でサービス開発を行う道へ、選択肢を広げてきたからだ。その好例が、2007年に立ち上げたインフラ事業の一環で生まれた『Air Secretary』である。

Air Secretary

Air Secretary』のソリューション紹介ページ。同社サイト左にある「サービス」紹介枠には数々のソリューションが列挙

これは、シスコシステムズの提供するワイヤレスネットワークソリューション「Cisco CleanAirテクノロジー」を用いたテクノバン独自のソリューションサービスで、複数の無線LAN端末(アクセスポイント)の制御・運用をクラウド上で行うことができる。

通常、複数台のアクセスポイントを一元管理するには「ワイヤレスLANコントローラ(WLC)」を導入する必要があるが、機器そのものの値段の高さや管理者への負担がネックとなることが多かった。

そこでテクノバンは、高機能なWLCをクラウドサービスとして提供したいとシスコ社と交渉。ファイアウォールや管理機能にいくつか独自開発を加えることで、より安価で使い勝手の良い無線LANソリューションを実現した。

『Air Secretary』のプリセールスを担当する、ITビジネス第3部の田中仁氏はこう話す。

「無線LANサービスをクラウドで統合管理することで、障害検知がすぐに行えるほか、『このネットワークには誰もがアクセスできるが、別のネットワークは自社用デバイスでしかアクセスできない』といった運用ポリシーも柔軟に変更できるようになります」

この利点により、例えばオフィスビル全体に『Air Secretary』を導入することで、オフィス内では社員のみが、打ち合わせスペースでは訪問者のデバイスでもネットワークにアクセスできるような設計がしやすくなる。

また、独自に電波調査のノウハウ(設置場所によるつながりにくさを調査・解消する)も積み上げたことで、さまざまな障害物が置いてある工場内や、間取りが複雑な商業施設内でも快適につながるサービスを提供。

「一般的な無料Wi-Fiサービスでは、店舗内の座る位置によってネット接続できないようなケースもあります。『Air Secretary』はそういった課題を解消するソリューションとして、徐々に引き合いも増えてきました」

今後はビッグデータビジネスの展開も構想中

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現在構想しているビッグデータ関連の新ビジネスについて話す2人。「新規構想」の説明に、顔もほころぶ

さらに、『Air Secretary』は各アクセスポイントごとのログも収集できるため(取得するのはデバイス別アクセス情報のみ)、今後はそれを利用したビジネス展開も可能となる。

同社で主に基幹業務システムの開発案件を担当するITビジネス第1部の取締役・村田大治氏は、『Air Secretary』との連携でビッグデータビジネスへの参入も視野に入れていると話す。

「『Air Secretary』は、ビッグデータで最も重要なログ取得のインフラにもなり得ます。今後より普及させることができれば、ログの取得~解析~基幹システムへの連携をテクノバン1社でご提供できるようになるため、ビジネスインテリジェンスの総合サービスを展開することも可能でしょう」(村田氏)

例えば、ある大規模商業施設に『Air Secretary』を導入し、位置情報と連動した天気予報を来店者に提供。「どのアクセスポイントで、いつ、どのくらいの来店者がネットワークにアクセスしたか」をログ解析することで、各店舗がクーポン情報を効果的に配信するシステムの開発にもつなげられる。

バズワード化しているビッグデータだが、データ取得の部分からログ解析~活用まですべてをサポートできるSIerはそう多くないため、テクノバンはこのポジションでオンリーワンの座を狙っている。

社内ではHadoopを使ったログ解析の手法についても知見を蓄えており、現在は「受注待ち」といった状態だという。

変化適応力の高い開発部門を作る3つのヒント

ここで取り上げた『Air Secretary』の事例は、テクノバンがいくつか着手してきたソリューション開発の成功例だ。過去には「グループウエアの開発・提供を試みたがほとんど受注が採れなかった」(村田氏)というように、立ち上げに失敗したプロジェクトもあるという。

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過去には同社のWi-Fiソリューション用にキャラクターを作り普及を図ったことも。この柔軟性も魅力だが、本質的な強さは別の点に

だが、間違いなく言えるのは、このような試行錯誤を繰り返す中で、SI不況の波に飲み込まれないための成長の種を生み続けてきたということ。

そして、テクノバンには構想のみならず実践まで行えるエンジニアリングの力があったということだ。

この「実践」の強さはどう生まれているのか? テクノバンの社風から、3つのヒントが見れ取れる。

【1】 「アーキテクチャまで学ぶ」エンジニア教育

SIerであればどの企業もエンジニアの育成に力を入れるものだが、テクノバンはこの「育成」を独自の研修(リンク参照)で徹底して行っている

「普通なら専門分野の資格取得だけで良いところを、当社の場合はそれだけで終わりません。各技術について、アーキテクチャレベルまで習得してもらうようベテランエンジニアが教えるような研修も行っています。技術トレンドが変わっても通用する知識を持ってもらうためです」(村田氏)

深層を理解すれば応用もできる、というわけだ。

【2】「分業意識」をなくす

特に大規模システムの開発を行うSIerでは、フロント、ネットワーク、データベースetc…とそれぞれの開発領域で専門のエンジニアを立てるケースが多かった。

それはテクノバンも同様で、前述したITビジネス第1部は主に基幹システムの開発を、第3部はネットワーク・インフラ関連の担当と、それぞれ専門領域が分かれている。

ただ、これは組織編成上の区分けでしかないと村田氏は言う。「専門領域を深めるだけでなく、異なる技術分野への理解も広める」(村田氏)ための各種取り組みに注力してきたのは、SI業界の悪しき風習の一つと言っても過言ではない「分業意識」を取り払うためだ。

「例えば新規ビジネスに関する会議は部門を超えてスタッフを召集するなど、それぞれ専門分野や業務上の役割はあっても、部門横断で『次にどんなビジネスを生み出していけばいいか』を考える風土が根付いています。こういう雰囲気が浸透しているからこそ、先ほどお話したビッグデータビジネスの構想なども生まれてくるのだと思います」(村田氏)

【3】「スーツとギーク」の垣根もなくす

かつ、この「横断」は技術職だけにとどまらず、プリセールスをはじめとする営業職との連携にも及んでいる。顧客ニーズと技術トレンドを融合させないと、新しいソリューションは生まれてこないからだ。

「当社も『Air Secretary』を導入しているため、ITビジネス第3部のオフィスはフリーアドレス制になっています。で、社内には『同じ職種同士で固まって座ってはいけない』という不文律があるので、なるべく違う部署や職種のメンバーと顔を合わせて仕事をするよう勧めています」(村田氏)

こうして物理的な「壁」をなくすことで、ちょっとした無駄話から新しいサービスの構想が生まれたりする土壌ができ上がっているそうだ。

2012年9月に、あるストレージ専業メーカーから転職してきた田中仁氏も、それを肌で実感する1人だ。

「それまではストレージを専門に扱う会社にいて、正直、専門外の分野についてはノータッチでした。それが転職してからはネットワークやインフラについても学ぶようになり、分からないことがあれば、詳しいエンジニアの隣に座ってちょっとずつ聞いたりもするようになりました」(田中氏)

村田氏いわく、「テクノバンの社員は、営業でも技術職でもない超総合職」。そう言い切れるまで教育と意識変革をやり切ってきたからこそ、変化に強い組織が完成したのだ。

取材・文/浦野孝嗣 撮影/竹井俊晴

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