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グルメアプリ『テリヤキ』開発陣に聞いてみた「プロデューサー堀江貴文さんって実際何がすごいんですか?」

公開

 

テリヤキ開発チーム

今年5月に弊誌が取材した際、堀江貴文氏はグルメ系サイトの立ち上げにかかわっていると語っていた。

この構想が11月3日、堀江貴文氏プロデュースのグルメアプリ『テリヤキ』として正式にリリースされた。すでに多くのメディアで取り上げられている通り、店舗やユーザーがグルメ店を評価するのではなく、堀江氏を含むキュレーターが推薦する店舗を紹介するアプリである。

このアプリの企画段階から参加し、プロデューサーの堀江氏とともに開発の主体を担ったのが、編集長を務める蛭田一史氏、そして開発を手掛けたランウェイの片田武利氏である。

グルメアプリをリリースすることになったきっかけ、そして堀江氏ならではのプロジェクトの進め方など、開発チームだけが知る“開発裏話”から、ホリエモン流の仕事哲学を探る。

プロフィール
蛭田一史氏

グルメアプリ『テリヤキ』編集長
蛭田一史氏

Webコンサルティング、Web制作を手掛ける株式会社ロックヒルの代表取締役として、さまざまな案件にたずさわる。当初はWeb制作の担当として堀江氏のテリヤキプロジェクトに参加、そこからテリヤキが形になるにつれテリヤキにかかわるすべてを 統括する立場になり、テリヤキ株式会社の代表取締役社長となる

プロフィール
片田武利氏

株式会社ランウェイ 代表取締役
片田武利氏

Webサイト構築やモバイルアプリ作成など、さまざまな受託案件を手掛けるITマネジメント企業として、ランウェイを2011年に立ち上げる。その制作実績の豊富さや、開発のスピード感を買われ、今回の『テリヤキ』プロジェクトの開発役として依頼を受ける

当初は、既存の店舗紹介や口コミサイトとは異なるアプローチのグルメサイトを立ち上げられないかという構想だったという。それがスマホ向けのアプリ開発へと進展していったのは、堀江氏自身が「欲しいモノを作る」という発想が原点にあった。

テリヤキ

『テリヤキ』のDLはコチラ:iOS /Android (※Androidに関しては一部対応できていない機種あり。現在、対応端末を増やしている)

「企画の最初からもリリースしてからもそうですが、堀江さんはあくまでも『自分が欲しいモノを』というのがすべての判断基準でしたね。堀江さんもほかのインタビューなどで話していますが、お金のことはほとんど考えずに進んだプロジェクトでした(笑)」(蛭田氏)

その後、蛭田氏のほかに『東京いい店うまい店』(文芸春秋)の編集長・柏原光太郎氏や、TBSのプロデューサー住田興一氏、エイベックス所属のクリエイティブユニット『ROISSY(ロワシー)』のしんどうこうすけ氏・及川紀子さんなど、業界の垣根を超えてメンバーが集まり出す。

そこで「堀江氏と何か面白いことを」と会話を進めるうちに、『テリヤキ製作委員会』が立ち上がり、片田氏もジョインすることになったのだという。

2人が堀江氏と協働したテリヤキプロジェクトで強く印象付けられたのは、「堀江氏のサービスに対するコミットの強さ」と口をそろえる。具体的に驚いたのは次の3つだ。

●アウトプットに対するフィードバックの異常なスピード感
●ブランクを感じさせないスマホユーザー目線
●人をその気にさせる巻き込み力

それぞれについて、開発過程を辿りながら紐解いていこう。

レビューやデバッグも即対応。24時間いつでもLINEで修正指示が

テリヤキ開発チーム

「他にやる人がいなかった」という消去法で編集長に選ばれたと自称する蛭田氏

テリヤキのリリースは前述のとおり11月3日。

実は、当初はアプリではなくサイトを立ち上げる構想だったため、7月ごろにはサンプルページも作られていたという。

だが「本当に欲しいモノを」という前提を突き詰めた結果、“アプリに特化したメディア”を製作することになったそうだ。

堀江氏はじめ制作委員会メンバーの多忙なスケジュールを付き合わせた結果、この日のリリースはずらせなかった。

「はっきりとアプリ開発を始めることになったのが9月の半ばごろ。正直、リリースが間に合うか不安になるスケジュールでしたが、堀江さんに、『難しいところがあったらオレやるから』と言われてしまってはもうやるしかない、と。実際、堀江さんにコードレビューをお願いすると、デバッグまでご自身でされて、フィードバックがあるんです。通常の開発案件とはスピード感が違いましたね」(片田氏)

「夜中に送ったものが、翌朝じゃなくて夜のうちに戻ってくるんです(苦笑)」と片田氏が言うほど、アウトプットに対するフィードバックの速さには、時に開発陣が助けられた。テリヤキの開発過程では、堀江氏からの連絡は24時間体制。まさに絶え間ないキャッチボールが続いたという。

テリヤキ編集長 蛭田氏

「連絡は基本的に『LINE』のグループでのやりとりだったのですが、それが24時間いつでも来る、という感じでしたね。堀江さんって、人と話している時でもスマホを操作しているじゃないですか。たぶん、やるべきことを常に同時進行でこなしちゃってるんです。『気付いたらすぐに手を付ける』のスピード感がハンパない。しかも本人は速いと思ってないんですよ」(蛭田氏)

今でもLINEの連絡は毎日あるほど、濃密なコミュニケーションを取るのには、堀江氏と仕事をする側としても理由がある。

1つは、ほかにもさまざまな案件に携り多忙を極める堀江氏にテリヤキを後回しにしないでもらうため。そしてもう1つは、堀江氏から湧くように出てくるアイデアを具体的にサービスに落とし込む間に、開発陣と堀江氏の間にズレが出ないようにするためであった。

徹底したユーザー目線。「開発側の都合」は通用しない

テリヤキのアプリ開発にあたって、堀江氏が参考にしていたUI/UXが『Antenna』というニュースアプリだという。ユーザーのほしい情報を多彩なニュースソースなどから収集して表示する、デザイン性の高いアプリだ。

「本当にうまい店を探せるということは、店舗側が課金できる既存の検索サイトでは無理ですよね。本当にうまい店だけが載っている雑誌みたいにしたいというコンセプトも『Antenna』に近かったんです。表示方法や操作性でも、ユーザーにストレスがないUIで、かなり参考にさせていただきました。あのアプリでできること、表示速度も実現したいというのは最低限のミッションでしたね」(蛭田氏)

今年3月下旬に仮出所するまで約1年9カ月、堀江氏はスマートフォンをはじめアプリやSNSの世界から隔絶されていた。この間のデバイスとサービスの進化は未知の領域であるはずにもかかわらず、ここまで徹底したユーザー目線を持っていることには2人とも驚かされたという。

片田武利氏

「仮出所してから、ものすごい勢いでスマホを使ってキャッチアップして、エンジニア、プロデューサーの視点でさまざまなアプリやサービスを実際に試して独自の分析や評価をしているんだと思います」(片田氏)

いざエンジニアがアプリ開発に携わると、多様な技術やツールを用いて、できるだけ多くの機能やメニューを盛り込もうと考えがちだ。ところが堀江氏は、「できるだけシンプルに、必要な機能だけを」と求めることが多かったという。

「テリヤキが既存のサイトやアプリと違うのは、あくまでキュレーターが選んだ店舗をユーザーに分かりやすく的確に伝えること。それをいかにユーザーにとってストレスなく使ってもらうことができるかが一番大きなこだわりポイントでした」(蛭田氏)

「毎日いろいろな指摘が飛んでくるのですが、どれもユーザーにいかにストレスを感じさせないかっていう基準からブレない。裏側の事情として、リリース日を守りたいという都合もあったのですが、『それを理由に検証が甘い』とか、細部の妥協も必ず気付いて指摘されるんです」(片田氏)

開発者としての知見も持ちながら、しっかりユーザー目線に立てるのが堀江氏の強み。いったん1つのプロジェクトを進めると決めたら、最後までコミットし続ける強さが“オーラ”の源と言えそうだ。

加えて、無事リリースされた後も徹底してユーザーの声を受け止める。堀江氏はTwitterなどSNSによる発信力だけでなく、受信力も高いのだという。

「Twitterやレビューへの投稿にもよく目を通していて、それをどう反映させるかもガンガン指示が飛んできます。堀江さんを天才と言う方が多いですが、あの人は愚直なまでにユーザー目線で見て、必要なサービスにすることに一番徹底しているんですよ」(蛭田氏)

譲らない部分と、抜く部分のさじ加減が絶妙

さらに2人が堀江氏の姿勢に驚かされたのが、「人を巻き込み、動かす力」だという。

「きつい口調で指示するトップダウン型みたいなイメージがありそうですが、まったくそんなことありません。不思議なんですけど『こんなアプリだったらいいなぁ』って堀江さんが話すと、だんだんと周りの人たちを同じ考えにさせていっちゃうんです。それも前向きなビジョンとして語るので、いつの間にかみんなのモチベーションも高くなっていくんですよね。それはスゴイなと思いました」(蛭田氏)

テリヤキ

ITバブルがはじける前のベンチャー企業の勢いを思い出せたと語る片田氏

「日常的に受託開発を行うエンジニアは開発を“仕事”ととらえていて、どこか客観的な姿勢になりがちです。でも堀江さんは違いますね。情熱というかコミット力というか、とにかく強いエネルギーを発しながら1つのモノづくりに取り組んでいる。

その姿にわれわれも巻き込まれていっちゃう感じです。何より、堀江さんと仕事したことで、ITバブルがはじける前の勢いあるベンチャーの感覚を思い出せて、楽しかったですね」(片田氏)

こだわるところは徹底的にこだわるが、ほかのメンバーに任せる部分がゼロだったわけではない。「それでいいんじゃない?」と軽いノリで決まっていったものも多々あるという。

「絶対に自分で決めたい」というワンマンプロデューサーではない点も、人を巻き込む上で大事なポイントなのだろう。

その一例として、アプリのネーミングを考えている時のエピソードを、蛭田氏が苦笑しながら語ってくれた。

「日本らしい“味”の1つとして世界でも定着する名前を、という意味を込めたいというのは決まっていたんです。そこでわたしが提案したのが『ONIGIRI』でした。そうしたらもう全員から反対されまして(笑)。たぶん、最初に否定したの堀江さんなんですよ。それで何かみんなも『おにぎりってそんなおいしそうに聞こえないしね』みたいな空気になって、ボツになったんですけど、そういう雰囲気作りというか、人の心を動かすのが本当にうまいんです」(蛭田氏)

最終的に、テリヤキ製作委員会の及川氏が提案した『テリヤキ(TERIYAKI)』が採用され、リリースから約2週間で3万DL(12/5時点では4万DLを越えている)という実績を上げたが、「堀江さん的にはまだ満足できる数字じゃないんです」(蛭田氏)という。

その言葉通り、海外進出やキュレーターの公募など、堀江氏は早くも次の事業展開を考え始めている。

さらなる発展を期して、製作委員会は正式に株式会社化し、代表には蛭田氏が就任することも決定した。堀江氏の“本格復帰”第一弾としてサービスインしたアプリ『テリヤキ』の今後に要注目だ。

取材/根本愛美(編集部) 文/浦野孝嗣 撮影/柴田ひろあき