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「ベンチャーの身軽さがスマートモービルを生んだ」テラモーターズ徳重氏に学ぶ、革新製品の作り方【特集:New Order】

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テラモーターズ徳重徹氏【特集:New Order】
テラモーターズ株式会社 代表取締役社長
徳重徹氏
住友海上火災保険株式会社(現:三井住友海上火災保険株式会社)にて、商品企画等の仕事に従事。その後、米国ビジネススクール(MBA)に留学し、シリコンバレーのインキュベーション企業の代表としてIT・技術ベンチャーのハンズオン支援を実行。事業の立上げ、企業再生に実績を残す。2010年4月にテラモーターズを設立。九州大学工学部卒

電気二輪車の年間国内販売台数記録を保持しているメーカーをご存知だろうか。ホンダでも、ヤマハでもなく、テラモーターズというベンチャー企業である。

同社が販売している『SEED』シリーズは、2011年度、日本国内で3000台を販売し、電動バイクとしては国内最多の販売台数を記録している。

そのテラモーターズが2013年7月に発表したスマホ連携のEVバイク『A4000i』は、ベトナムなどのアジア圏から販路を開拓し、2015年末までに10万台の販売を目指している。

『A4000i』は、iPhoneで現在位置や走行距離を記録し、管理するという商品。この『A4000i』のように、スマホと連携してデータを見える化する乗り物、スマートモービルはまだまだ珍しく、広く普及するのはこれからだ。

しかし、単なる移動手段ではなく、新しい価値を提供することが、スマートフォンがフィーチャーフォンを駆逐したように「世界のモービル文化」を塗り替えていくことになるだろう。

そこにチャレンジするテラモーターズの徳重徹氏は、「今年こそ成果を出さなくてはならない年」と話す。どうやって世界で戦い、勝っていくのか。戦略を聞いた。

「弱者同士」が組むことで、大手が実現不可能なスピード感を生む

年々深刻さを増すアジア諸国の大気汚染。マスクで顔を覆いながらバイクに乗る現状を打破したいと徳重氏は語る

by ninahale
年々深刻さを増すアジア諸国の大気汚染。マスクで顔を覆いながらバイクに乗る現状を打破したいと徳重氏は語る

―― スマホと電動二輪車を連携させる、というアイデアはどこから発想されたのでしょう?

この商品は東南アジアの現状から考え付きました。

東南アジアでは主な移動手段として、ガソリン二輪車が普及しています。ただ、普及し過ぎていて、騒音や大気汚染などの公害も発生している。バイクに乗っている人が、みんなマスクをしているんです。それを見て、EV二輪車は確実に需要がある、と思いました。

加えて、現地では二輪車は配達など多くの仕事にも使われていて、バイクに乗っている間の従業員管理や、燃料の効率化などのニーズもあったため、乗車中のあらゆるデータを可視化し、録ったログでこれらが解消できればビジネスユースでの販路拡大が見込めるだろうと。

媒介としてスマホを選んだのは、東南アジア地域、特にシンガポールやマレーシアではスマホ普及率が80%以上と高く、なじみがあるデバイスだということが分かっていたからです。

これらを勘案し、商品化に至りました。

―― バイクや三輪の世界は、日本の歴史ある大企業が強い分野です。にもかかわらず、テラモーターズが業界の先駆者になりつつある理由はどこにあるのでしょうか。

競合が、歴史ある大企業であるところです。ホンダもヤマハもスズキもカワサキも、エンジンを必要とするバイクの大手です。その分野に長けた素晴らしいエンジニアを何人も抱えています。ということは、簡単に彼らの仕事をなくせません。

それに、たいてい、エンジンのエンジニアは社内で花形。エンジンバイクと競合するEVバイクに力を入れることは、エースの仕事を奪うことになります。

守るものがない、身軽なベンチャーだからこそ新規参入が容易なのだと話す徳重氏

守るものがない、身軽なベンチャーだからこそ新規参入が容易なのだと話す徳重氏

―― なるほど。

一方で、テラモーターズにはそういった守らなくてはならないものはありません。また、EVは電機製品なので部品を各部品メーカーから買って組み上げますが、すると、会社ごとの品質の差を出しにくい。

企業の規模にかかわらず高品質の完成品を提供できることも、われわれのようなベンチャーには、有利に働きます。

同じことは、ほかの業界でも起きていますよね。

例えばデジカメ。デジカメを最初に開発したのは、カメラ用フィルム最大手のイーストマン・コダックでした。しかし、普及には熱心ではありませんでした。それは、デジカメが従来のカメラを脅かす存在だったからです。

結局、デジカメ全盛の時代を迎え、イーストマン・コダックは倒産してしまいました。

―― 皮肉な話ですね。

日本でも同じ現象がありました。ネットトレーディングです。

ネットトレードが解禁された時、大手の証券会社はネットサービス部門を作り、また、新規のネットトレード専門会社が立ち上がりました。ただ、大手は従来の電話取り引きなどとの競合を避けるため、あまり力を入れませんでした。だから、結局、尻すぼみになり、いち早く取り組んだ日興コーディアルグループの日興ビーンズ証券は、マネックスに買収されてしまいました。

ところが、従来型の証券会社のうち、松井証券だけは別の戦略を採りました。大手ではなかったかつての松井証券は、産業構造が変わる潮目に、それまでの財産ともいえる営業スタッフを解雇までして、ネット側へ大きく舵を切りました。それが、今の松井証券につながっているのです。

―― 業界大手じゃないからこそ、チャレンジできることもある、と。

大企業、特に日本の製造業は、意思決定が遅く、方向転換に時間がかかります。その点、大企業でもアジアの会社は決断が早い。テラモーターズは決断が早いのですが、それよりもずっと早い。

やってみて、うまくいけばいいし、いかなかったら止めればいいという考え方なのです。テラモーターズはそういった企業と組んで、フィリピンやベトナムでビジネスをしています。勝算は、そこにあります。

それに、アジアの市場では、日本という国、日本人、そして日本製品への評価がとても高い。もっと日本の製造業は、アジアの市場で勝てるはずです。ただ、既存のメーカーの課題は価格。今ある製品を作り替えていたら、アジア各国で買ってもらえる価格のものは作れません。

その点われわれは、ゼロから取り組むから、売れる価格帯のモノが作れるのです。

「思い」を継承できなければ、メガベンチャーにはなれない

企業家はクレイジーさを捨ててはならない、というのが徳重氏の持論

世界を目指す企業家はクレイジーさを捨ててはならない、というのが徳重氏の持論

―― 過去を捨てて大きく舵を取ると、大きなリスクを抱えることにもなります。

リスク=危機だと言われます。しかし、危機の機は機会の機。リスクを避けることは、機会損失です。

それに、リスクが大きいということはボラティリティ(振れ幅)が大きいということです。失敗する時は大失敗、成功する時は大成功です。大きく成功しようと思ったら、リスクを冒すしかありません。

VIZIOという会社があります。アメリカで液晶テレビやディスプレイを販売する、ファブレスのメーカーです。2005年にできたばかりの会社ですが、アメリカでの液晶テレビでトップシェアを持っています。テレビという先行者がたくさんいる世界の産業構造の変化を見逃さずにガチンコ勝負をしかけて、勝っています。

―― なぜ日本にはVIZIOのようなメガベンチャーが誕生しないのでしょうか。

トヨタもホンダもパナソニックもソニーも、元をたどればメガベンチャーです。今の問題は、そのころの記憶を持っている人がいなくなってきて、思いが継承されていないところにあります。

周囲に大きな成功を夢見て起業する人がいないから、それに刺激されて起業する人が出てこないという悪循環に陥っています。

でも、今の時代でも、製造業のベンチャーが勝てることは、VIZIOやテスラが示しています。日本だけができないわけがありません。

―― 日本発で、世界で通用するベンチャーを育て上げるには、何が必要でしょうか。

日本に対する思い入れ、世界の市場への理解、そして、クレイジーな起業家です。

わたしは人一倍、日本への思い入れが強いと自負しています。以前、会社に勤めていたころから、世界へ出て行くシリコンバレーの企業や、市場となるアジアの国も見てきました。そして、ヤマハやホンダに戦いを挑むなんて、クレイジーだと言われますし、自分でもそう思います。

テラモーターズがつけるメガベンチャーへの轍

先日『LEADERS リーダーズ』というドラマが放送されていたのを見ましたか?

―― トヨタ自動車の草創期を描いたドラマですね。あれを見ると、トヨタも昔はベンチャーだったのがよく分かります。

徳重氏の眼光からは、自分達が後進の道を作らなければならない、という強い使命感を感じた

徳重氏の眼光からは、自分たちが後進の道を作らなければならない、という強い使命感を感じた

戦後の日本では、車と言えばフォードのものがあるくらいで、日本車を走らせるなんて夢のまた夢でした。しかし、夢が大きく、実現が困難だからこそ、エンジニアも本気になってそれを叶えようと努力しました。もし目標が小さければ、ワクワクできなかったでしょう。

今の日本のエンジニアがリスクを冒さないのは、世界に大きなインパクトを与えようというクレイジーなリーダーがいないからでもあります。ベンチャーがあっても、規模が小さく、自分たちを「大手の下請け」だと決めつけてしまう節があります。

だから、例えばVIZIOのようなメガベンチャーは育たないのです。

日本からイノベーティブなメガベンチャーを生み出す。そのためにはイーストマン・コダックのように機敏に産業構造の変化を感じ取り、松井証券のように大きく舵取りをする。もちろん同業他社に先手を奪われないために、アジアの企業のようにすばやく決断をして、です。

自身を取り巻く産業構造の変化の潮流を恐れず、逆にチャンスとして乗っかればいいのです。

―― テラモーターズは今年で創立4年目です。今年の目標を教えてください。

テラモーターズは今年こそ、実績を出さないとならないと思っています。テラモーターズは、圧倒的な実績を出す前から、注目していただいています。

今年、実績を出せれば、難しいと言われている製造業での後発の参入が不可能ではないことを示せ、日本の起業家、起業を目指す人たちを刺激できるからです。

取材・文/片瀬京子 撮影/赤松洋太

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