エンジニアtype - エンジニアのシゴト人生を考えるWebマガジン

大手メーカーからテラモーターズへ転職した技術者が、モノづくりベンチャーで生き残るために実践した2つの意識改革

公開

 

メイカームーブメントの流れに乗って、大手メーカーからモノづくりベンチャーへ……。そんな思いを持ったモノづくりエンジニアは少しずつ増えてきている。しかし、IT業界と違い、フリーランス文化が定着しておらず、起業のハードルも高いため、人材の流動性はなかなか上がらないのが現状だ。

安定した環境から、弱肉強食のベンチャーの世界に飛び込むには、さまざまな不安要素が挙げられる。その中でも、任される仕事の裁量の大きさに不安を抱える人は少なくない。

テラモーターズの事業開発グループに所属する加藤真平氏(27歳)も、転職した直後はその違いに苦労したという。大学院で流体力学やロケットエンジンの研究を行っていた同氏は、卒業後にグローバルで10万人を超える外資系自動車部品サプライヤーでエンジニアとして働いた後、2012年にテラモーターズへ転職している。

前職の仕事の進め方では対応しきれない部分を、加藤氏はどのようにしてアジャストさせたのだろうか。インタビューを通して、多岐にわたる業務に対応するべく、2つの意識改革を行っていたことが分かった。

大手メーカーのエンジニアには、付加価値が足りない

加藤氏がなぜ安定したポジションを捨て、テラモーターズへ転職したのか、その理由は、学生時代に持っていた希望が、ゆっくりと消えていく事へ恐怖と危機感にあった。

現在は、徳重氏のあたたかくも厳しく指導の下で、目の前のミッションを一つ一つクリアしているという加藤氏

大手メーカー時代は、自社プロダクトの研究開発に従事していた加藤氏。「コンピュータシミュレーションや実験を通して1つの物理現象に説明を与え、製品開発に活かす。国内メーカーの定義だと、いわゆるR&Dの部門」だったと話す。

「外資系企業ということもあって、ディスカッション文化が根付いているところがとても良かったです。時にはディスカッションから生まれたアイデアをベースに自ら開発したシミュレーションツールが採用されることもあり、恵まれた環境ではあったと思います。ただ一方で、人的規模の大きな組織において、緊迫感やそれに立ち向かうことによる成長感、そこから生まれる飛躍やダイナミズムを感じられないことが歯がゆかったです」

学生時代から、「いつかは、自分が生み出したプロダクトで世界に仕掛けていきたい」という漠然とした思いを持っていた加藤氏。だが、今すぐそれを実行に移すことはできなかった。大手メーカーの一部署で、与えられた役割をこなす自分には、まだ開発以外のスキルが足りなかったためだ。

「大手メーカーなどにいるエンジニアや研究者の多くは、専門職としては非常に優れた技術やノウハウを持っている反面、プラスα 、つまりモノづくりに必要な開発以外のスキルが付きにくい気がします 。その上、メーカーの多くが分業制のため、例えば社外エンジニアやデザイナーとの交流の機会を自ら創り出したり、人やお金を引っ張ってきたりするようなスキルが育たない。そのため、このまま専門性を突き詰めていった結果、そのほかのスキルを磨く機会が失われていくんじゃないかという不安や危機感を常に持っていましたね 」

何とか現状を脱したい。そこで、自分で事業をやろうと考え、自らの足で情報収集を始めた矢先に、テラモーターズの代表・徳重徹氏に出会った。加藤氏は、そのままその人柄と情熱に惚れ込んで転職することとなった。

加藤氏を変えた、「オーナーシップ」と「見切り発車」の気構え

テラモーターズでの加藤氏の役割は、大きく分けてエンジニアと企画営業の2つあるという。

「エンジニアとしては、車体のコンセプト設計や仕様決定を行うのをメインで担当しています。細かく言えば、部品調達の価格交渉やサプライヤーのリサーチ、交渉などもすべて行っています。営業としては、国内外の営業戦略からかかわる、社内の方向性を決めた上で販路を拡大していく役割を担っています。コンペティターや市場環境の変化など、時々刻々と変化する『変数』も多いですが、それを開発に即座に活かす事ができる。これが疲れるが楽しいし、成長を実感できる」

From star5112
「大手メーカーと違い、一人ひとりがカバーする業務範囲が広いので、慣れるまでは大変かもしれない」と加藤氏は話す

どちらも前職では経験したことのないため、ほとんどが独学だと話す加藤氏だが、どのようにしてその多岐にわたる業務に対応してきたのか。同氏が重要だと感じたのは、「オーナーシップの視点」と「見切り発車」の心構えを持つことだ。

≪ オーナーシップ ≫

要するに自分がテラモーターズの経営者である、という感覚を持つということですね。これに尽きます。エンジニアリングに詳しいだけでなく、コスト、時間、会社の評判、どの指標にもシビアになること。会社のプラスになるであろうイベントや接点に敏感になること。そして、担当業務以外にも会社にとってプラスになりそうなことを自発的に提案したり、かかわったり、勉強したりすることなど……。すべての物事を自分ごと化する意識です。

→加藤氏のマインドの変化

代表の徳重がよく言っているのですが、「結果に責任を負う」、「何としてもこれをやり切る」ということを念頭に置いてすべての行動を行うようにしました。前職では、目の前の業務と並行して自分の能力開発にも重きを置いていたのですが、テラモーターズでは、ベンチャー特有の緊迫感とそれと対峙しながら結果を出す事が、自分の成長をドライブしていると感じます。結果を出すために必要な事は、それが門外漢であろうとすべて学習して補います。これこそが、専門性という防波堤の内側に安住するエンジニアが持つべき能力だと考えています。

≪見切り発車≫

1という事象を「1のまま伝える」のか、「10にして見せる」のか、「100のものとして伝える」のかを、状況に応じて最適な選択肢を採る力が求められる、ということです。どんな組織でも自分の意見を通すためには「交渉力」を養わなければいけないと思うのですが、ベンチャーにいると、そんな場面に出くわすのは日常茶飯事です。

→加藤氏の行動の変化

行動としては非常にシンプルです。それまでは、確証が持てなかったり、先の見通しが立たないものに対してGoサインを出せなかったり、回答を差し控えることがありました。これを徹底的に排除したのです。といっても、何でもかんでもGoサインを出すのではなく、自分の中で60%以上の確度があればGoサインを出すようにしています。Goサインを出した後は、それを実現させるために精一杯の背伸びをする。「無責任な事は言えない」と逃げるのはやめました。

このように、2つの意識改革を行うことで、加藤氏は前職では経験してこなかった業務にも対応しているという。

給与半減より、現状維持に持つ危機感

入社するまでは、お金、仕事、会社の将来性など、心配事は少なくはなかったという加藤氏だが、「正直、給与は前職の半分以下になってしまいましたが、転職したことに対してはまったく後悔していません」と話す加藤氏。

「ベンチャー企業ってバイク(二輪車)に似ているなと思います。車は車体に守られているけど、二輪車は守られていない。コケたら多少ケガはするけど、その分自分でコントロールできるし、風を感じられて気持ちいいじゃないですか。風を感じてるから、いつのまにか自分で突き進んでる感じがするんです。」

前進しない組織は静かに死んでいくと言われるが、その組織にいるエンジニアにとっても同じことが言える。そんな危機感を持ち、モノづくりベンチャーに飛び込んでみたいと思うエンジニアの方々は、加藤氏の意識改革を参考にしてみてはいかがだろう。

取材・文・撮影/小禄卓也(編集部)