皆さん、こんにちは。チームラボMake部の高須です。この「アジアンハッカー列伝」では、主に僕が滞在・在住したアジアの国々のハッカーについて書いていきます。
前回に続き、深圳(しんせん)のハッカーを紹介します。前回紹介したエリック・パンのSeeedstudioで働くバイオレット・スー(Violet Su)です。

中央の女性がバイオレット・スー
Seeedstudioは深圳を代表するMaker企業です。2008年にCEOのエリック・パンが深圳に来て創業。急成長した現在は100人を超えるまでに成長しています。
バイオレットはエリック・パンのアシスタントとして、さまざまな業務をしています。社内外の調整はもちろん、英語の通訳、FacebookやTwitter IDの中の人も含まれます。MakerFaire深圳の実行委員会はほとんどSeeedstuioなので、MakerFaireのシーズンとアフターシーズンは、それらの公式Twitterの運営なども業務に加わります。
大学ではマネジメントを学び、SeeedStudioに入る前はタイのペッチャブリー県で中国語を教えていました。通訳の仕事を探しているうちに、インターネットでSeeedstudioを知り入社。特にエンジニアリングに詳しいわけでも、休日に電気屋にいくわけでもありません。
ニコ技深圳観察会、DIYのツアーアレンジメント
4月のMakerFaire深圳と、その後数日にわたって行われたSeeedstudio主催の深圳工場見学で、深圳の剣客たちのパワーに圧倒された僕は、「何としてでもこの街を僕の友だち、日本のMaker達に見せたい!」と考えました。
自由参加、現地集合解散、参加者は全員感想をネットにアップする「ニコニコ技術部観察会(以下ニコ技観察会)」のフォーマットを使い、日本のMakerを深圳に呼ぼうと思ったのです。
MakerFaireの最中からその思いは強く、引率をしてくれたSeeedの人たちに、「絶対、日本の友だちをいっぱい連れて、ここに戻ってくる。Seeedをまた訪問させて欲しい」と語りました。奇妙なNecomimiを付けた日本人の言葉に、エリック・パンの隣にいたバイオレットがうなずいて握手してくれたのを、今でも覚えています。
社長のエリック・パンは、シンガポールに戻った僕からのメール1本だけでツアーへの協力を即決し、バイオレットにアレンジの一切を委託しました。
バイオレットは、こちらの事情で3回も日程が変更されたツアー(もともと5月の予定が8月になった)を、数日しか会ってない日本人に対して、「4月の工場見学ツアー、人によってはバス酔いしたし、借り賃が割り勘で支払いに文句を言った人がいたけど、いいの?」、「深圳の食べ物はどうだった? 何か『これが食べたい』という要望がある?」などなど、親身に要望を聞いて、ツアーをよくするよう努力してくれました。
3カ月間でやりとりしたメールは数十通にのぼります。

その時のやりとりが溜まっているメールフォルダ
ニコ技観察会のフォーマットで行われるツアーを、特定の人間がホストするのは前代未聞です。これまではディズニーランドのような、「もともと大量に人が来るための場所/イベント」でしか行われていませんでした。
何人が参加するかも、どういう人間が来るかも分からない。しかも全員がブログを書きに来るのです。どういう評判になるのかも分かりません。
1人も旅行のプロが関与していないので、全員が普段やったことのない仕事をやります。バスの運転手は道を間違えるし、時間も読めません。例えば、昼食時に「電気街の中で日本人30人が入れておいしいレストランを探す」みたいな無理難題が発生します。予約は当然していないし、お店が混んでいたら予想より時間がかかるかもしれません。
しかもこのツアーに参加したのは、いかにも団体行動が苦手なベンチャー社長やMaker、作家たち。毎晩自由に、初めての街のナイトクラブに繰り出したり、雑居ビルの3Fにある、看板も出ていないような小さなオフィスに「当日合流する」と言い出したりします。
タクシー運転手は「だいたいあのへん」ぐらいしか分かりません。周囲に似たようなビルはいっぱいあり、たどり着くのが難しい。

写真中央が、日本を代表するMakeエヴァンジェリスト、尻Pこと野尻先生
それでもこのツアーは特に問題もなく実行され、全員が大変楽しみました。全員が目の前のことに夢中で、集合時間に「ほんとうのギリギリ」まで楽しむのですが、不思議と遅れるメンバーはいませんでし、現地集合も実現しました。
一度、飲み会や社員旅行の幹事をやった人は分かると思いますが、「人数」は、さまざまなモノを予約するのに一番重要な数字です。今回のツアーは28名ほどの日本人Makerが参加したのですが、ツアーの週になって4人が増え、当日になって欠席した人が数名いました。
見に行く対象の工場もベンチャー企業も、普段は「大量の人間が見学に来る」なんて経験がない場所です。バスの運転手は場所を知らないし、順路やパンフレットもありません。
それでもこのツアーは、参加者全員の大満足を得て終了しました。

全員が大満足したツアー
全員の感想まとめは
https://media.dmm-make.com/item/2027/
にアップされています。ツアー日程と様子は井内育生さんのブログに詳しいです。
http://omsrkb.tumblr.com/post/94342611700/makers
Resourceful=機転が利く
深圳にラボを構えるハードウエア開発支援集団HAXLR8Rが、起業家に投資する条件の第一に「Resourceful」を上げています(ほかは、楽天的なことと、ハードワークができること)。
Resourcefulについては適切な日本語が思いつかないとのことでしたが、「引き出しが多い、解決のためにいろいろな方法を採れる、自分でやることも人に相談することもできる、その時一番良い方法で問題を解決できる」とのことでした。僕は「機転が利く」と解釈しています。
今回のバイオレット、そしてSeeedや深圳のベンチャーの人たちは、まさに「Resourceful」でした。いくつか例を挙げます。
僕たちは電池ボックスのお尻の金属部品、乾電池のプラスを受ける側が凸、マイナスを受ける側がスプリングになっている部品をひたすら作る金属加工工場を見に行きました。見慣れた部品が目の前で生産されていくそれは新鮮な体験でした。
僕らは、何を作ってるか紹介するために、いくつか完成した部品を欲しがりました。バイオレットは「検品して数を数えた後の製品から抜き取るのはダメだけど、検品前のものなら大丈夫だと思う」というアイデアを出してくれ、工場の人と交渉して、僕らにサンプルをくれました。
こういう交渉の中心には、いつもバイオレットがいました。
観光バスで僕らが居眠りをしている間も、いつもiPhoneを耳に当てて誰かと電話していました。そして工場ではツアーを先導しつつ、すごく楽しそうに工場の人たちと語り合っていました。
今回のツアーメンバーはいずれも、面白いことにもすごいことにも見慣れていて、何でも楽しむけど、簡単にはベタホメしない人たちです。でも、僕ら27人は1人も例外なくバイオレットと、彼女のようなスタッフで構成されているSeeedstudioに多くの賞賛を送りました。
彼女の業務は多岐にわたり、こなし方が決まっているものでなく、さまざまな役割を瞬時にこなし、時にはできそうな人を見つけて頼むことが必要なのだと思いますが、彼女はあらゆる問題をResourcefulに対応できるのだと思います。

射出成形の金型工場で、工場の人の中国語を英語に訳してくれるバイオレット

ツアーメンバーの1人、日本にオープンソースの活動を正確に伝えてくれた大恩人、山形浩生氏
後編では彼女のパーソナルストーリーを紹介します。テクノロジーと無縁だった女性が、どうやってSeeedstudioに入社したのでしょうか。
次回、後編でご紹介します。お楽しみに!
告知です
今年の12月7日~11日にまた、シーグラフアジアの直後にニコ技深圳観察会を予定しています。終了後にレポートを書き、自力で参加して、ツアー中のトラブルを解決できる(またはトラブルを不満に思わない)方であれば、誰でも参加を歓迎します。
また、11月23日~24日のMakerFaire Tokyoに絡めて、25日~28日ぐらいに日本のMakeをバイオレットら外国人に見せるツアーを計画しています。こちらはやれるかどうか分かりませんが、東急ハンズ、秋葉原MOGRAなど、僕たちが好きな場所を紹介しようと思っています。
僕らは深圳が大好きになりました。彼らに東京を大好きになってもらいたいです。ご飯を一緒に食べてくれる、ツアーに参加して彼らと友だちになってくれる、バスの手配や通訳をしてくれるなど、協力者を募集しています。