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音楽が形を失っている。僕らは、ジオラマ試聴機を作った。【連載:川田十夢】

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AR三兄弟の微分積分、いい気分。

AR三兄弟・長男 川田十夢(@cmrr_xxx

公私ともに長男。日経BP社より、『AR三兄弟の企画書』絶賛発売中。TVBros.で「魚にチクビはあるのだろうか?」を隔号で、ワラパッパで「シンガーソング・タグクラウド」を、好評連載中。WIRED vol.7で、『近未来は今』を具体化する内容の記事が4ページにわたって掲載されています。オフィシャルブログはこちら

つい先日、『What’s IN』と『PATI-PATI』の休刊が伝えられた。多くの人にとってどうでもいいことかも知れないが、どちらもわりと好きな雑誌だったから、ショックが大きかった。

『What’s IN』には、セルフライナーノーツというページがあった。ミュージシャンが、自身のアルバムについて、自身の言葉で語り尽くしていたのがとても貴重で、よくスクラップしていた。『PATI-PATI』は、かのYO-KING(真心ブラザーズ)が、「理屈っぽくなくてピースな感じ」と表したように、音楽の浮かれた側面に質量と輪郭を与え続けた希有な雑誌だった。

音楽が露骨に形を失っている。形を失うと、場所を同時に失う。売り場は、どんどんインターネットに流れている。この流れは、必然だ。とはいえ、音楽が質量を失うだけの一辺倒では、物悲しい。

僕はAR三兄弟だから、どちらかというとインターネットへの流れを助長することが役割のように思われているが、実はそうでもない。プロフィールには、「ARを使ったり使わなかったりして、昭和テイストでジャンルを拡張」と、標榜している。要するに、質量を持つべきものはしっかり持っておいて欲しいし、未来を憂うばかりの未来考とは距離を置きたい。音楽の浮かれた側面を、くっきり残しておきたい。

今回は、タワーレコードを舞台に開発をしたジオラマ試聴機を軸に、未来の音楽産業について記そうと思う。

禁断と無断のカンジブル。ユニコーンとAR三兄弟を引き合わせる。

ユニコーンの前で、カンジブル・コンピューティングを披露する長男。この時、初対面。

まずは、ジオラマ試聴機の契機となった出会いをさくっと紹介しよう。

ユニコーンと出会ったのは、2011年。ちょうどニューアルバム『Z』が出るか、出ないかの時期だった。当時も今も、TVBros.感覚で、許可をしっかり取らないまま新ネタを披露することが多いAR三兄弟。カンジブル・コンピューティングという漢字を使ったネタでも、ユニコーンの大迷惑を無断で使っていた。

僕も大人なので、他のアーティスト、他の楽曲ならば無断で使うことに躊躇があったかも知れないが、そこはユニコーンだし、大迷惑だし、おもしろいし、いいだろうと思っていた。

何の因果か、その噂が本人達に伝わり、まさに新作を録音しているスタジオに呼ばれた。スタジオには、奥田民生さん、阿部義晴さん、手島いさむさん、EBIさんが勢揃いしていた。録音ブースにMacBookを持ち込んで、カンジブル・コンピューティングを披露した。

「おもしれー」と、民生さん。「スゲーじゃん!」と、阿部さん。手島さんとEBIさんも「おーーー!」と、好リアクション。その場で、ニューアルバム『Z』で何かやって欲しいと、すんなりオファーいただいた。ドラムの川西幸一さんは、あいにく不在だった。大事な時ときに居ない。これも、流石だと思った。

好きな人を拡張する時は、なぜその人を好きになったかを考える。

『WebDesining』2011年7月号で、ユニコーンとともに表紙を飾った。

どんなオファーが舞い込んだとしても、僕はまずプロセスについて考えることにしている。

どこを省略すれば、斬新なのか。また、どこを切断して断面図を見せれば、おもしろく見えるのか。つまり、対象をじっくり観察することが必要だ。

ユニコーンの場合、前のめりで大好きだったので、新たな観察は不要だった。大好きな人たちを、大好きになった理由を自己分析して、それを現代に翻せばいいのだ。

彼らがメジャーデビューとともに世に送り出してきたミュージックビデオは、どれもユニークだった。多くのバンドが、自らのクールさとかタイトさを打ち出しているなか、ユニコーンはダッチワイフを抱いて登場した。おっぱいも出てきた。フルオーケストラの前で指揮をすることもあった。ダウンタウンが本格的に東京進出を果たした『夢で逢えたら』でも、コメディアンと対等に喋れるミュージシャンとして登場し、オープニングの主題歌も歌った。その後、「ダウンタウンのごっつええ感じ」では、『民生くんとアベくん』というレギュラーコーナーまで持った。

コミックバンドと思われるのが、もっとも損な時代。高い音楽性をしっかり持ちながら、お笑い番組に顔を出すのは、どんな気分だったのだろう。きっと覚悟があったのだろう。自分たちの音楽と姿勢に、絶対の自信があったのだろう。

メディアとの接着面が、とにかく絶妙。考えてみれば、僕は解散前のユニコーンのコンサートに、1度も出掛けたことがなかった。メディアの中の立ち振る舞いだけで、僕はすでに熱狂していた。そう、自己分析した。

あの、彼らが生み出してきた雰囲気だとか、価値観だとか、メディアとの接着面を拡張したら、未来のミュージックビデオになるかもしれない。僕は、ファンが入れるミュージックビデオを作った。

この施策は各方面で注目を集め、僕たちAR三兄弟は『Z』だけでなく、それにつづく『ZⅡ』についても拡張を任された。同時に、発売前にユニコーンが表紙をかざった『What’s IN』だとか、ツアーパンフも、拡張させてもらった。『WebDesigning』では、一緒に表紙を飾ることにもなった。最高の気分だった。

『奥田民生・カバーズ2』と、『ユニコーン・カバーズ』。

あれから、2年過ぎたある日。僕らとユニコーンを引き合わせた人物(仮に福田さんとしておこう)から、久々に連絡が来た。ユニコーンのカバーアルバムが発売されるから、またAR三兄弟に拡張して欲しいということだった。

リリース日が1カ月後に迫っていた。スマホ専用のアプリを開発してどうこうでは、きっと間に合わないだろう。今回は、ブルースペックCDという、音質のいいディスク仕様での発売になるから、売り場での売上に力を入れたいとのこと。とりあえず、現場で耳を澄ますことが必要だと思い、タワーレコード新宿店に向かった。

タワーレコードで耳を澄まして、思いついたアイデア。

試聴機といえばこれ、ナカミチのMB-V300。現在は生産終了。物悲しい。。

タワーレコードに出掛けたのは、数年ぶりだった。僕自身、あまりCDを買わなくなっていた。公私ともに、部屋という部屋に、物質が密集している。質量が邪魔くさい。音楽はiTunesでしか購入しないし、CDはリッピングする手間が面倒。そう、誰よりも僕自身の足が、音楽の売り場から遠ざかっていた。そんな状態からのスタートだった。

タワーレコードに着いてまず目に留まったのは、試聴機の存在だった。3枚のCDが内蔵されたお馴染みの試聴機は影を潜め、タブレット端末形式の味気ない試聴機が全体の1/3くらいを占めていた。

なんて物悲しいんだ。これでは、家でiTunes経由で音楽を試聴するのと、何ら変わりないじゃないか。何のために、客が売り場まで足を運ぶというのだ。この試聴機こそ、拡張すべきではないか。僕は、ジオラマ試聴機のアイデアを思いついた。

アイデアを内側と外側に伝える、設計図の存在。

1枚絵の設計図。画力の問題ではなく、密度の問題。

僕はいつも、アイデアを1枚の絵にまとめる。どんなにおもしろそうなアイデアであっても、1枚の絵にまとまらないものは、駄目だと思っている。最近は、立体的な造形を手掛けることもあるから、複数視点を補足する意味でアイデアラフが数枚に及ぶこともある。だが、アイデアは、1枚に設計図として集約できなければならない。

フラットな売り場で、二度見してしまうような、何か。音楽が質量を失いつつあることへの逆行となるような、何か。アイデアが思いつくのは一瞬だが、おそらくそんなことを意識していたのだと思う。

ジオラマ試聴機の設計図は、Webサイトのデザインラフと同時に浮かんだ。サイトのどの辺りでアッピールする施策なのかによって、ジオラマ試聴機の造形は変わってくる。順番には、美学と工学があって、それを司るのがデザイン。だから、プロダクトの設計図とそれを伝えるWebデザインのラフが同時に浮かぶのは、当然。

部分と全体を自ら説明できずに、誰が自分のアイデアを説明してくれるだろうか。部分と全体の輪郭は、アイデアを最初に生み出した者が記すべきだ。この行程をスルーして、後出しジャンケンで「イメージと違った」とか言うの、露骨に間違っている。イメージがあるのなら、それを明確に、端的に、密度で示すべき。絵の上手い下手は、問題にならない。

付き合いの長い友達に、アイデアをカバーしてもらうことにした。

AR三兄弟の仕事は、これまでほぼAR三兄弟だけで手掛けてきた。それが丸三年以上続いていた。活動を続けるうちに、いろいろな分野に仲間ができた。これは、カバーアルバムの発売を告知する施策である。AR三兄弟が考えたアイデアを、仲間にカバーしてもらうみたいにイメージを拡げてもらうのが、ベストだと思った。

恣意的に仕掛けたシンクロニシティ(共時性)が、アイデアを撹拌させることがある。僕は、旧知の仲であるテクノ手芸部よしだともふみと、盟友SCHEMAに声を掛けた。AR家族会議やAR忘年会など、遊びの延長線上にある場所では、会話と経験を重ねていた。仕事を頼むのは、初めてだった。よしださんも、SCHEMAも、職人としての才が際立った。特に、SCHEMAは、レギュレーションについて何度も確認してきた。プロっぽかった。

きっと、奥田民生さんやユニコーンも、旧知の仲間たちの本気に触れて感動しただろうし、カバーズに参加してくれたミュージシャンのことが好きになったに違いない。僕も、テクノ手芸部とSCHEMAのことが、改めて好きになった。

フレンドリーなWebサイトと、ジオラマ試聴機が完成した。

SCHEMAがデザインをしたWebサイトは、フレンドリーな仕上がりとなった。CharaさんとJUN SKY WALKER(S)さんから、お祝いのコメントが届いた。全曲試聴可能な仕組みも用意した。ファンから、7000を越えるいいね!と、5000を越えるコメントが集まった。2枚のアルバムで使っている色が、偶然にもSCHEMAの企業カラーとぴったり合っていた。そこに三兄弟カラーの黄色が加えられていた。多くの人にとってどうでもいいことだが、これも、フレンドリーを助長する大切な要素だったと思う。

ジオラマ試聴機は、展示初日に稼働しないというハプニングがあったものの、いままで見たことも聞いたこともない、ユニークな施策となった。

見た目は、昔ながらの試聴機。なのに、ジオラマと無駄に連動している。ジオラマを覆うアクリルケースには、振動板が接着していて、そこに聴診器をあてるとジオラマの中の音が聴こえる。接着面によって音が変わる。本当の意味での3Dだし、サラウンドだし、ジオラマだった。

NO MUSIC, NO AR3BROS.

この施策が、音楽を売り場に残すための永劫措置になったかどうか。定かではない。でも、音楽を求めて売り場まで来てくれる人の存在や、音楽そのものが持つ永遠の価値について、空間に宿る残響について、改めて考える大きな機会となった。

音楽はまだ終わらない。形も失わない。僕らは、音楽メディアの拡張と、友情の撹拌を続ける。