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[連載:NEOジェネ!] 旅のソーシャルWeb『trippiece』が4度目の改変で気付いた「最強チームのつくり方」

タグ : AWS, Backbone.js, Facebook, jQuery, PHP, trippiece, Web, スタートアップ, ソーシャル, , 起業, 開発 公開

 
世間をアッと言わせるユニークなアイデアと技術力で勝負しているニュージェネレーションを応援するこの連載。今回登場するのは、話題の『ソーシャルランチ』副社長の上村氏が薦めてくれた、『trippiece』の開発チーム。学生ベンチャーの有望株として『trippiece』が支持されている理由の一つは、彼らの絶妙なチーム力にあった。
trippiece
(左)CEO  石田言行(いしだ・いあん)氏    (右)CTO  鈴木健太氏

旅行プランを自分で企画し、そのプランに共感した人とソーシャル上でシェアし、一緒に旅を敢行して仲間の輪を広げていく。そんな新しい旅のスタイルを提供するのが『trippiece』だ。

開発したのは、CEOの石田言行氏を筆頭に、中央大学、慶應義塾大学、早稲田大学などに通う大学生たち。「こういう旅行がしたいけれど既存のツアーにはない」、「自作の旅行プランを通じて気の合う仲間を見つけたい」という思いを持った人たち同士の、”共体験”を生むソーシャルサービスとして注目を集めている。

旅行プランを企画した発起人は、『trippiece』ページ内最上部にある「旅のノート」にプランへの思いや料金などを書き込み、共感してくれたユーザーとページ内でのコミュニケーションを通じて一緒に詳細を詰めていく。参加人数や彼らの要望に応じて料金プランも変えられるなど、手作り感満載の旅行を創出している。

昨年5月にアルファ版をローンチ後、これまでユーザー数は7000人以上、ツアー実現も30件以上。この実績により、今年2月には流通総額2000万円(単月)を達成する見通しだ。マネタイズに苦心する新規Webサービスが多い中、着実に成果を上げているが、もともとは「完全に僕の想い先行型」(石田氏)で立ち上がった。

「僕が立ち上げた学生NPO『うのあんいっち』でフィリピンの水害支援に携わった時、日本から支援物資を届けたんですが、現地の人々が『こんな奥地まで来てくれて本当にありがとう。Thank you, Japan!』と言ってくれたんです」(石田氏)

その後、Twitterで「バングラデシュでソーシャルビジネスを学びたい」とつぶやいた時には驚くほど多くの人が共感し、「一緒に行きたい」と手を挙げてくれたという。想いと目的を共有することができたら、旅は想像以上の価値を生み出す――。「そのためのプラットフォームを作りたいと思ったのが出発点でした」(石田氏)。

石田氏の熱い想いを形にしたのは、CTOの鈴木健太氏をはじめ数名の学生エンジニア。現行のサイトはフロントにjQueryとBackbone.jsを利用し、サーバサイドの実装はPHP製MVCフレームワーク、環境はAWS+Apache+MySQLで構築されている。

鈴木氏は大学でセマンティックWebを専攻していたため、本格的な商用アプリケーション開発は今回が初めて。多くはほぼゼロから勉強し、触りながらマスターした。ただ、各技術の習得以上に大変だったのは、単に「動くサービス」を、本当に「望んだサービス」に仕立てていくプロセスだったと鈴木氏は言う。

2010年2月のリリースから、これまで4度のバージョンアップを行ってきたが、今年2月にリリースした最新版でやっと「僕ら自身が少しは納得のいくものができあがった」(鈴木氏)。そのきっかけになった出来事とは?

チームとしてまとまるまでは、何度も何度も話し合うしかない

石田氏の熱い「語り」に、時に突っ込みを入れながら補足を加えていく鈴木氏。関係性の良さがうかがえる

石田氏の熱い「語り」に、時に突っ込みを入れながら補足を加えていく鈴木氏。関係性の良さがうかがえる

この2人、とにかくバランスが絶妙だ。

『trippiece』構想の生みの親である石田氏がサービスに賭ける思いを語り倒し、それに開発担当の鈴木氏が「話が長いよ」と突っ込みつつ、現実路線でどうサービスを作ってきたのか説明する。取材中ずっと、長年連れ添った漫才コンビのような軽妙な掛け合いが目の前で繰り広げられる。

だがこの関係、「何度もケンカしたり話し合った末にできあがった」(石田氏)もののようだ。

「鈴木と初めて出会ったのは昨年2月ごろ。VOYAGE GROUPの学生インターンシップ同士のクチコミで鈴木が腕の良いエンジニアだと知り、『trippiece』の構想を話して一緒に作ってほしいと口説いたんです」(石田氏)

「石田がとにかく熱っぽく旅に対する想いを語ってくれて。バングラデシュとかで経験したという『見知らぬ人たちをソーシャルで巻き込みながら一緒に旅を作る楽しさ』には、僕も共感したんです。ただ、『じゃあどうWebサービスに落とし込もうか』という話になると、石田には漠然とした考えしかなくって、おいおいちょっと待てと(笑)」(鈴木氏)

「だってあのころは、アイデアさえあればエンジニアが作ってくれると勘違いしてたからさ(笑)」(石田氏)

「こういうヤツなんです(笑)。だから、本当に何度も何度も話をしました」(鈴木氏)

ではなぜ、鈴木氏は我慢強く話を聞き続けたのか。『trippiece』のサービス構想を直感的に面白いと感じたからというのもあるが、最も大きかったのは石田氏のハートの熱さにあるようだ。

「話はあいまいだし面倒くさいヤツだけど、とにかく『コイツ本気だな』って。ただ単にビジネスとしてうまくいくとか、サービスとしてほかのと違くない? みたいな話をされていたら、石田と一緒にやろうとは思わなかったでしょうね」(鈴木氏)

「このサービスの軸は結局何か」を全員が腹落ちしているか?

前述のように、現在の『trippiece』は4度のバージョンアップを経て生まれた。現行バージョンにたどり着く前は、2人とも「何かやりたいことと違う」と感じていたという。その最大の原因が、「今振り返ればコミュニケーション不足」(鈴木氏)。共に抱えていた違和感を払拭するターニングポイントになったのは、昨年9月に総勢4人の開発チーム全員で米サンフランシスコに遠征した時だった。

3週間ほど共同生活を送っていた中でずっと話題にしていたのは、「このサービスの軸は結局何なのか?」ということ。これは、現・楽天の執行役員で、日本企業のシリコンバレー進出サポートを行ってきた本間毅氏に会った際、助言されたことでもあったそうだ。

「それ以来、本当に毎日がケンカみたいな感じだった」と2人は口をそろえる。壮大な夢を語る石田氏と、サービスとして最適な形を模索する鈴木氏の言葉の応酬は噛み合わず、それこそ何十時間も議論を重ねていった。

そもそもなぜ、見知らぬ人と一緒に旅をするのか。それって心理的ハードルが高過ぎるんじゃないか。そんな疑問を本音でぶつけ合い、チーム全員で出した答えは、「『trippiece』はプランに共感する人を集め、一緒に旅を作っていくプロセスにこそ楽しさがある」、「それを具現化するため、機能を削ってシンプルなインターフェースにする」というものだった。

今回の改変で、ページ最上段にプラン企画者の想いを書き込む「旅のノート」が追加。一方で外した機能も

今回の改変で、ページ最上段にプラン企画者の想いを書き込む「旅のノート」が追加。一方で外した機能も

現在の『trippiece』と違い、以前のバージョンは日程調整を便利にするための機能があったり、値段や参加条件が最上段に表示されるインターフェースだったりと、かなり違った印象だった。

それらをすべて見直し、機能を減らし、先に説明した「旅のノート」を最上位で表示するなどの改変を加えたのは、このサービスが成功するカギは「旅への思い共有」、「目的共有」にあると明確になったからだ。

「エンジニアからすると、今回のバージョンアップで日程調整の機能を外すなど、むしろ作り込む部分が減ったんです。作り手として言えば、仕事が減って開発の面白みも小さくなるという部分があったのですが(笑)、『サービスをカタチにする』とはつまりこういうことなんだと考えが変わりました。コードを書くことが目的じゃなく、なぜこういうサービスを作るのかを考えてコードを書くのが大切なんだって」(鈴木氏)

「良いプロダクト開発の基盤は『場所づくり』にあると思っている」

「今回のバージョンアップを契機に、とことんコミュニケーションを重ねることの価値を全員が知りました。だから、今回の増資でいただくお金の大部分も、新しいオフィスに投下したんです」(石田氏)

石田氏と鈴木氏がお互いに、「言われて初めて気付くことはけっこうたくさんある」と話す

石田氏と鈴木氏がお互いに、「言われて初めて気付くことはけっこうたくさんある」と話す

今年1月にMOVIDAから出資を受けたニュースは各メディアで紹介されたが、その多くをコミュニケーション強化に投資する点も『trippiece』らしさ。シェアハウス型のオフィスにして、チーム内にとどまらず、社外の人たちとも気軽にコミュニケーションができるような空間づくりをしていくという。

そして、この新オフィスを基盤に、よりレベルの高いプロダクトづくりをしていきたいと2人は先を見据える。

「旅というのは、非日常を経験する『場所』がとても大事な要素です。だから、例えば今後『Pinterest』みたいな画像共有機能を作れば、過去に同じ場所へ旅行した人同士の交流を生んだり、ある土地を起点にして違う旅行プラン同士が連携していくような動きも演出できるかもしれません」(鈴木氏)

「鈴木と違って僕の考えはまだまだあいまいですが(苦笑)、今後は旅行プランの発起人が人を巻き込んでいくプロセスをもっとサポートできるような仕組みも取り入れたいと思っています。『旅×好き』という軸で『trippiece』をふくらませていけば、人種や国籍、居住地などというあらゆる”隔たり”を解消するサービスにだってできる。僕はそう信じていますから」(石田氏)

取材・文/森川直樹 撮影/竹井俊晴

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