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思惑は5社それぞれ。東京モーターショーに見る国内メーカーのパワーユニット戦略【連載:世良耕太】

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F1ジャーナリスト世良耕太の自動車開発探訪

F1・自動車ジャーナリスト
世良耕太(せら・こうた)

モータリングライター&エディター。出版社勤務後、独立し、モータースポーツを中心に取材を行う。主な寄稿誌は『Motor Fan illustrated』(三栄書房)、『グランプリトクシュウ』(エムオン・エンタテインメント)、『オートスポーツ』(サンズ)。近編著に『F1のテクノロジー5』(三栄書房/1680円)、『F1ジャーナリスト世良耕太の知られざるF1 Part2』(オトバンク/500円)など

第43回東京モーターショー」が11月20日から東京ビッグサイトで始まった(一般公開は11月23日から12月1日まで)。新しい乗り味や楽しさを提案するクルマもたくさんあったが、ここではパワーユニットに軸足を置き、国産自動車メーカーがどこに向かおうとしているのかを考えてみることにする。

東京モーターショーの開催が近づくと、メーカー各社は出展車について事前に内容を告知する。各社が配信したリリースを見て気になったのは、「直噴ガソリンターボエンジン」の記述が多いことだ。

国内メーカーでは唯一ターボエンジンを展示したトヨタ(レクサス)

ターボエンジンを展示していたトヨタの高級ブランドであるレクサス

あのトヨタもいよいよターボエンジンを投入する。

「トヨタも」と記述したのでは正確さに欠いてしまう。東京モーターショーでターボエンジンを展示したのはレクサスだ。次世代のSUVコンセプトを示すLF-NXは、新開発した2L・直4ターボを積んでいる想定。

その新開発のエンジンについてプレスリリースでは、「高い走行性能と優れた環境性能を実現」と記している。1年ほど前の連載でも触れたが、ヨーロッパでは数年前から、排気量を小さくしつつ過給機(主に排気で駆動するターボチャージャー)を装着して走りと燃費を両立させる「過給ダウンサイジング」が定着している。

日本では「エコ=ハイブリッド」のイメージが定着していること、さらに、「排気量は大きい方がエライ」とする排気量神話が邪魔をして、過給ダウンサイジングエンジンは浸透してこなかった。東京モーターショーの出展車を見ると、国産メーカーが過給ダウンサイジングに大きく振れようとしているのを感じる。

最後発だからこそ、自ら高い目標を課したトヨタ

直噴ターボエンジンの周囲に群がる外国人ジャーナリスト

外国人ジャーナリストからも注目されるトヨタの直噴ターボエンジン

プレスデー(報道関係者招待日)にレクサスのブースに足を運んでみると、直噴ターボエンジンの周囲に外国人ジャーナリストが群がり、「説明員」の札を付けたエンジニアに質問を浴びせていた。「ハイブリッドのトヨタがなぜ?」と気になるのだろう。

技術面でも販売面でも先行する欧州メーカー勢もうかうかしていられない、というわけだ。

トヨタ(レクサス)が過給ダウンサイジングに手を伸ばした理由は「走りと燃費の両立」に尽きるし、それを求める風潮をマーケットから強く感じたからだろう。外国人ジャーナリストに囲まれていたエンジニア氏は、「最後発で出すからには、他社に負けるようなものを出すわけにはいきません」と気合いの入りようを伝えた。

ターボの弱点は応答性(アクセルペダルを踏み込んでから、ドライバーが要求した力が出るまでのタイムラグ)だが、トヨタの開発陣は応答性に気を遣って開発を行っていることが説明から伝わってきた。最新の技術が随所に投入されているが、値の張るデバイスを多用していないのが特徴で、知恵で高い目標をクリアした様子が伝わってくる。

車両のみの展示にとどまる三菱自動車

三菱自動車は「クルマづくりの方向性を示す」3台のコンセプトカーを世界初披露したが、搭載するガソリンエンジンはいずれも過給機付きだ。

MITSUBISHI Concept AR

「マイルドハイブリッドシステム」を採用しているMITSUBISHI Concept AR

大型SUVのMITSUBISHI Concept GC-PHEVは、3L・V6スーパーチャージャー・エンジンを搭載。コンパクトSUVのMITSUBISHI Concept XR-PHEVとコンパクトMPV(SUVとミニバンのクロスオーバー)のMITSUBISHI Concept ARは、排気量わずか1.1Lの3気筒直噴ターボエンジンを積む。

マイルドかストロングかの差こそあれ、3台ともハイブリッドシステムとの組み合わせだ。資料は過給ダウンサイジングエンジンを積んでいる想定であることを伝えているのに、展示してあったのは車両だけ。エンジンの展示や説明パネルがなかったので、会場で「三菱自動車が過給ダウンサイジングに向かう様子」を感じられなかったのは残念だった。

業界の流れと市場の間で葛藤するホンダ

ホンダがプレスデーの前日に発表した直噴ガソリンターボエンジン

ホンダがプレスデーの前日に新開発を発表した3種の直噴ガソリンターボエンジン

ホンダはプレスデーの前日に「クラストップレベルの出力性能と環境性能を両立した」直噴ガソリンターボエンジンを新開発したことを発表した。一気に3機種である。

昨年の今ごろ、ホンダは3種類のハイブリッドシステムを開発中であることを明らかにし、順次市販車に投入していくことを表明した。その実現例が2013年に発売されたアコード・ハイブリッドであり、フィット・ハイブリッドである。残りの1台は2015年に生産が始まるNSXだ。

実はこの頃すでにガソリン過給ダウンサイジングエンジンの開発は進行中だった。だが、両方を同時に発表すると「ホンダは一体どこに向かうのだ」と世間を混乱させると考え、公表を控えていたのだという。

本田技術研究所の野中俊彦副社長(四輪R&Dセンター長)は、メディア向けの技術説明会で、ホンダの技術戦略について次のような内容の説明をした。

「選択と集中が必要なのは承知しています。ですが、将来のパワーユニットは何が本命になるか、いまだ不透明です。ホンダはどこかと資本提携することを考えてはいません。独自で生き残っていこうとした場合、全方位でやらざるを得ない。選択と集中をするかといったら、しません。社会がどうなるか分からないので、すべてやります。全方位技術開発です」

リスクと裏返しだが、誠に潔い心意気である。開発中の2L・直4直噴ターボと1.5L・直4直噴ターボ、それに1L・3気筒直噴ターボは既存のハイブリッド技術やディーゼルエンジンと同様、グローバルで発売されるモデルの特性や地域ニーズに合わせて順次適用していくという。

現時点で過給ダウンサイジングエンジンの選択肢がないのだから仕方ないが、国内マーケットはハイブリッドが支配的だ。ホンダは過給ダウンサイジングエンジンの開発を進めているが、必ずしも国内への投入を約束したわけではない。

来場者を混乱させてはならないという配慮だろうか、ホンダのブースからはターボエンジン色が一切感じられなかった。スーパースポーツカーのNSX CONCEPTは直噴とポート噴射を併用したV6ツインターボエンジンを積んでいるのに、「ターボ」を意識させるような演出はなかった。

独自路線の日産、バイフューエルで攻めるマツダ

東京モーターショーのメイン展示を電気自動車とスポーツにおいた日産

東京モーターショーのメイン展示を電気自動車とスポーツにおいた日産

2012年7月に発表したノートで、日産は「エコスーパーチャージャー」を謳い、国産勢ではひと足早く過給ダウンサイジングの流れに乗ってみせた。

だが、東京モーターショーのウリは電気自動車とGT-Rに代表されるスポーツ、1990年以降に生まれた世代を示すジェネレーションZに向けた仕掛けだった。

環境に優しいバイフューエルで勝負に出るマツダ

環境に優しいバイフューエルで勝負に出るマツダ

スカイアクティブテクノロジーで攻め、その攻めが見事にヒットにつながっているマツダは、過給ダウンサイジングとは一線を画したパワーユニット戦略を推し進めている。

東京モーターショーの花形は、ガソリンとCNG(圧縮天然ガス)のバイフューエルだった。CO2削減を主目的とした代替燃料の一つとして、ヨーロッパを中心に注目が高まっている技術である。

ホンダ野中副社長の発言を引用するまでもなく、社会がどうなるかは誰にも分からない。選択と集中が必要だとして、集中すべきが過給ダウンサイジングかどうかも分からない。分からないが、全方位技術戦略を推し進めるとすれば、過給ダウンサイジングは押さえておくべきトレンドである。