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世界が期待する日本のスマホ世代~仏の部品サプライヤーの考える“コネクテッドカー”とは【連載:世良耕太】

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F1ジャーナリスト世良耕太の自動車開発探訪

F1・自動車ジャーナリスト
世良耕太(せら・こうた)

モータリングライター&エディター。出版社勤務後、独立し、モータースポーツを中心に取材を行う。主な寄稿誌は『Motor Fan illustrated』(三栄書房)、『グランプリトクシュウ』(エムオン・エンタテインメント)、『オートスポーツ』(サンズ)。近編著に『F1のテクノロジー5』(三栄書房/1680円)、『F1ジャーナリスト世良耕太の知られざるF1 Part2』(オトバンク/500円)など

20年前と現在とでは生活を取り巻く環境が違う。20年前は紙の地図を見ながらドライブしていたが、現在はナビゲーションシステムを頼ればいい。

20年前はクルマの窓を手動で開け閉めするクルマが残っていたが、現在はスイッチを触るだけで済む。

外で電話を掛けるにはまず、公衆電話を探す行為から始める必要があったのが20年前。現在は多くの人がスマートフォンを持ち歩いているので、そんな面倒なことをする必要はない。

これは、9月中旬にドイツで開催された『フランクフルトモーターショー』において、あるサプライヤーが行ったプレゼンテーションの一節である。インフォテイメント機器を手掛けるメーカーのプレゼンでもなければ、電装品を開発・製造するメーカーでもない。

トランスミッションを手掛けるメーカーが、「変化を意識することが重要」だとして引き合いに出したエピソードだ。世の中は変化している(World is changing)ので、製品のジャンルを問わず、変化に対応することが重要なのだ。

情報や通信とは関係のなさそうなトランスミッション専業メーカーでさえ“変化”を意識しているのだから、そのものズバリな製品を開発するメーカーは、血まなこになって次の一手を模索している。

ジャン-フランソワ・タラビア

製造に関する造詣も深く、国際経験も豊かなジャン-フランソワ・タラビア氏

世界28カ国に事業所を展開し、118億ユーロ(2012年)の売上高を誇る自動車部品サプライヤー、ヴァレオグループも例外ではない。

R&Dと製品マーケティング部門のグループ・シニア・ヴァイス・プレジデントを務めるジャン-フランソワ・タラビア氏もまた、筆者のインタビューに対し「世界は変化している」と繰り返した。

『Valet Park4U』に見る、ヴァレオが目指す“コネクテッドカー”とは

「ヴァレオはイノベーションに多額の投資をしている。なぜなら、CO2削減に関するブレイクスルーを生み出す必要があるからだ。そのために多くの製品を送り出しているし、これからも送り出す予定だ。

と同時に、クルマをスマートにする取り組みをしている。ドライバーとクルマの付き合いをもっと豊かにするためと言い換えてもいい。そのためには簡単に使える(easy to use)必要がある。スマートフォンを使うのにいちいち説明書を読まないだろ。クルマも同じだ。便利な機能は開発していくが、簡単に操作できなければならない。

そして、誰もがつながっているようにしたい。コネクテッド(connected)だ。スマートなクルマ、すなわちスマートカーはいずれコネクテッドになっていくはずだし、ヴァレオはその方向で働きかけていく。

われわれが開発するスマートなコネクテッドカーは、直感的な操作によって機能することを目指している。自動化の推進もターゲットの一つだ」

クルマのスマート化、コネクテッド、自動化、直感的で簡単な操作の代表例は、クルマを自動で駐車スペースに誘導する『Valet Park4U』だ。

ValetPark4U

From Valeo
『ValetPark4U』ではスマートフォンで車載カメラの映像を確認することができる

駐車場の入口でクルマを降り、スマートフォンでValet Park4Uのアプリを起動し、操作すると、クルマは自動走行で空きスペースを見つけ、駐車する。駐車場側に特別な設備は必要なく、クルマが自律走行して駐車スペースに収まる。

この技術を可能にしているのは、動いている対象物や静止している障害物を検知する12個の超音波センサーと4台のカメラ、それに周囲の状況を確認するレーザースキャナーだ。車載カメラの映像はスマートフォンに転送されるので、いつでも自分のクルマの状況を確認することができる。

クルマを呼び戻す際も同じ。駐車場の入口でスマートフォンを操作すれば、クルマは自動的にオーナーの元にやってくる。

「便利だし、時間の節約になる」とタラビア氏は得意顔で言う。

商品開発において“国”に縛られることはナンセンス

フランクフルトモーターショーでデモンストレーションした『Valet Park4U』は、ヴァレオが実用化を目指す技術のほんの一部だ。クルマとの付き合いが便利で快適になる技術をどんどん具現化したいが、それにはまずアイデアが必要。

そのアイデアを求めるにあたり、ヴァレオはユニークなプログラムを立ち上げた。『ヴァレオ・イノベーション・チャレンジ』だ。

全世界の技術系学生を対象にしたコンテストで、「2030年の自動車をよりインテリジェントで直感的にする装備」を考えるのがテーマ。2名から5名でチームを組み、英語で応募。優秀とみなされた20組に対しては、アイデアを具現化し、デモ用の展示物を作成する費用として5000ユーロが支給される。

パリモーターショー2012

by nan palmero
120万人以上が来場するパリモーターショーは世界5大モーターショーの一つに数えられる

最終選考に残った3チームは、2014年のパリモーターショー会場に招かれる。そして、優勝チームには賞金10万ユーロが授与される。

「学生に考えてほしいんだ。彼らはわれわれの世代のようにカギを使ってクルマのドアを開けるより、スマートフォンを使いたがるだろう? クルマをもっと環境になじむように、そしてインテリジェントにしてほしい。将来具体化できる優れたアイデアが集まることを期待している」

海外のメーカーが日本の若手エンジニアを積極的にリクルートする動きが出ている例は、以前この連載でも伝えた。ヴァレオグループも同じ流れに乗る。

彼らは年間400名のエンジニアを、本社があり最大の拠点であるフランスで採用する予定でいるが、日本を含むその他の地域で600名(新卒キャリア)を採用する予定でもいる。なぜか。

「ヴァレオはフランスの会社でもヨーロッパの会社でもなく、ワールドワイドな企業だからだ。世界のすべての地域に拠点を置いて活動しているので、コンスタントにその地域から人材を集めたい。日本のニーズは私たちよりも日本人の方が詳しいだろう?

それに、日本には強力な自動車産業がある。日本のカスタマーとパートナーシップを結ぶことは、わが社にとって重要。だから、日本におけるプレゼンスを引き上げたい。それが、日本を重要視する理由の一つ。

時には、ある国で出た技術がほかの国で役立つこともある。アイデアのミクスチャーに興味がある。これも日本で人材を求める理由だ」

世の中は変化しているので、その変化をうまくとらえて商品開発をする必要がある。その時、どこの国の企業だなどと堅苦しいことは言っていられない。ユニークなアイデアを広く世界に求めることが、生き残りには欠かせないからだ。

ただし条件がある。公衆電話世代ではなく、スマホ世代の柔軟な頭脳もほしい。

そのことに気付いて行動を起こしたヴァレオという企業もまた柔軟で、それもまた、世の中の変化を示しているのだろうか。