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CTOも自社サービスで採用!! ソーシャル・リクルーティング『Wantedly』が追い求める理想のUX【連載:NEOジェネ!】

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世間をアッと言わせるユニークなアイデアと技術力で勝負しているニュージェネレーションを応援するこの連載。今回登場するのは、ソーシャル・リクルーティングという新しい採用の形を日本に根付かせようとしている2人だ。サービスそのものもさることながら、チーム結成のきっかけも非常にユニーク。そんな彼らが目指す、ネクストステップとは?
ウォンテッド株式会社
(左)CTO 川崎禎紀氏    (右)CEO 仲 暁子さん

ソーシャル・リクルーティング・サービスの『Wantedly』(ウォンテッドリィ)が持つ最大の特長は、実名登録が前提のFacebookと連携することで、従来の採用方法よりも格段にコストを下げ、かつミスマッチを防止できることにある。

しかし、違いはそれだけではない。

『Wantedly』を使うにあたって、企業ユーザーがやるべきことは「仕事内容」や「待遇」のとりまとめではなく、自社に興味を持ってくれそうなイベントを企画すること。個人ユーザーは掲出されている情報の中から、興味のあるイベントを選びぶだけでいい。「履歴書」も「職務経歴書」も一切不要。必要なのは「気になるあの会社を訪ねてみたい」という好奇心だけだ。

実際に『Wantedly』のサービスサイトにログインしてみれば、その意味は一目瞭然だろう(Facebookアカウント必須)。「29日はAmazonで肉会!肉食系のセールス志望ウォンテッド!」(アマゾン データ サービス ジャパン)や、「スイーツ付き!女性限定のプログラミング勉強会に参加したい人ウォンテッド」(ピクシブ)など、今をときめくIT企業からのフランクな呼びかけが並んでいる(※いずれも6月8日現在の情報)。

こうしたカジュアルなアプローチは、大量の集客を確保するためというより、転職意識の低い人材の掘り起こしを図るため。数より質の採用を重んじる企業にとっては、気軽なミーティングを糸口に自社に合った人材を口説くことができる。また、Facebookが構築した人と人との信頼関係をベースにしているため、安心感を醸成しやすい点も、サービス利用に拍車をかけている。

CEOの仲暁子さんがWebサービスの開発にかかわるようになったのは約2年前。米投資銀行のゴールドマン・サックスを辞め、個人プロジェクトと並行しながらFacebook日本法人の立ち上げにかかわった2010年ごろにさかのぼる。

Webプログラミングの経験がないにもかかわらず、数々のサービスを立ち上げてきた仲さん

Webプログラミングの経験がないにもかかわらず、数々のサービスを立ち上げてきた仲さん

当時、彼女が力を入れていたのは、マンガ賞の落選作の中に埋もれた優れた作品を海外に紹介する『Magajin』(マガジン)というサービスだった。

かつては自分もマンガ家を志望していたため、着想したというこのユニークなアイデアを形にすべく、イスラエルに住む3人のエンジニアに開発を依頼。ほどなくして公開を果たし、欧米のティーンエイジャーを中心にユーザーを獲得したが、後にマネタイズが困難と判断。志半ばでビジネス化を断念することになってしまう。

しかし、それであきらめる仲さんではなかった。次に手掛けたのは、友人同士で疑問や質問をやりとりできるというQ&Aサービスの『リアQ』。友人エンジニアの力を借りてプロトタイプを完成させ、知人に試用してもらうと意外な反応が返ってきた。「何でも質問できるけど、何を質問すべきか分からない」。そんな意見が多数寄せられたのだ。

そこで、コンセプトを絞り込むことの重要性に気付いた仲さんは、再び行動に出る。『リアQ』の持つ「Q&A」というコンセプトをもう一歩進め、「人探し」にフォーカス。『いもづる』と称するサービス企画に改めたのだった。そして、この『いもづる』を土台にブラッシュアップを重ねたのが、現在の『Wantedly』だ。

絶えざるピボット(軌道修正)が、『Wantedly』誕生の原動力になったのだ。

紆余曲折があったのはコンセプトづくりだけではなかった。『Wantedly』は専任エンジニアが不在で、開発が遅々として進展しない状況が続いていたからだ。

「プロトタイプの開発に協力してくれていた知人には、別に本業があったのであまり無理も言えません。そうはいっても、わたし自身コーディングについては素人。一日も早く世に出したいと、気持ちばかりが焦っていましたね」(仲さん)

ちょうどそのころ、気管支炎をこじらせ自宅療養を余儀なくされた仲さんは、持て余した時間をコーディングの習得に充てる決心を固める。「結局人を頼りにしていたらいつまでも先に進めない」(仲さん)と考えたからだ。

この時、本屋で出会ったのが『Ruby on Rails 3 アプリケーションプログラミング』という一冊の技術書。この本によって、それまで何度も挫折していたコーディング技術習得への道が拓かれることになる(この辺りの経緯は仲さんのブログ『航海日誌』2012年1月30日に詳しい)。

「今度こそ」と背水の陣で臨んだコーディングだったが、仲さんにとって幸いだったのは、以前とは比べものにならないほど、Railsの概念や原理がスムーズに理解できたことだった。

「バージョン3が登場する前にRailsに挑戦したことがあったのと、購入した技術書が抜群に分かりやすかったのが大きかったと思います。それと、やはり『他力本願じゃダメなんだ』っていう切羽詰まった気持ちも、結果的に良かったんしょうね。ネット上のリソースにも当たりながら、寝る間や食事の時間も惜しんでひたすら開発に没頭したら、何と約2週間でひとまず動くものが作れたんです」(仲さん)

ソーシャル・ネットワークが紡いだ優秀なエンジニアとの出会い

Heroku環境下で開発を始めたプロトタイプは、昨年の6月中には完成。8月いっぱいをかけてコードやデータベース処理を見直し、10月には2名のエンジニアが仲間に加わる。2011年12月、『Wantedly』はステルス・ローンチを迎えた。

「プロトタイプをブラッシュアップしている段階で、TechCranchさんに紹介記事が掲載されたことで、ユーザーが一気に増加しました。出だしとしては最高だったんですが、時間が経つにつれて『飲み友募集』といった、企画意図に沿わない使われ方をされることが分かってきました。そのため、10月に新規登録を一度止め、それ以降はクローズドな環境下でソーシャル・リクルーティング色を強める見直しを行っていきました」(仲さん)

ユーザーの動向やクライアントの意見を反映させるほか、サイト上で使われる言葉や機能調整を経て、2012年1月末、本格的に『Wantedly』のリリースにこぎ着ける。開発着手から半年あまり。練りに練ったサービスが本格的に世に出ることになったのだ。そしてこの時期、もう一つの転機がウォンテッドに訪れていた。

「ある日、Facebookのニュースフィードを眺めていたら、『Wantedlyを良くしたいガチエンジニアウォンテッド』って情報が流れてきたんですよ。何だか面白そうだなと思って、軽い気持ちで応募してみたんです」

そう話すのは、当時ある外資系金融機関の技術部門でチームリーダーを務めていた川崎禎紀氏だ。川崎氏は現在、ウォンテッドのCTOとして活躍している。

小さなチームだからこそ「誰と働くか」をちゃんと見極める

外資系金融という「畑違い」の世界から、スタートアップのCTO職に就いた川崎氏

外資系金融という「畑違い」の世界から、スタートアップのCTO職に就いた川崎氏

「クールなエリートが来た……」。仲さんの川崎氏に対する第一印象だ。一方の川崎氏も、仲さんの印象を「バリバリのキャリアウーマン」だったと振り返る。親しく会話こそ交わしたものの、互いに探り合うような雰囲気があったのは否めなかった。

「それでもお話しするうち、自分の中にピンと来るものがありました。もちろん、『Wantedly』が目指している世界観に共感もしましたが、それ以上に『このチームで働きたい』っていう思いがストンと腑に落ちたんです。皆さん個性的で魅力的でしたからね」(川崎氏)

この面談からしばらく経って、休みを利用して再びオフィスに遊びに行きたいと申し出た川崎氏は、1週間ほど彼らとともに新機能作りを始める。また、オフィスに次々届く家具を一緒に組み立てるなど、同じ場で時間を共有した。その結果、互いの印象は、「クールなエリート・エンジニア」と「バリバリのキャリアウーマン」という関係から、徐々に仕事をともにする「仲間」へと意識が変わっていったという。

「人柄とか考え方とか、経歴やスキルだけでは分からないことってたくさんありますよね。小さなチームであれば特に、『誰と働くか』ってとても大事だと思うんです。ですからあの時、仲間意識を分かち合えたのは本当に良かったと思っています。3月に入って正式にチームに加わりたいという申し出を受けた時はまだ半信半疑でしたが、4月に本当に入社してくれることが分かった時はうれしかったですね」(仲さん)

「前職には6年間勤めていましたから、『ちょっと刺激が欲しいな』っていうタイミングだったのは確かです。でも、前職で昇進した直後でしたし、まさか本当に転職することになるとは。自分自身でも驚きましたね」(川崎氏)

「転職市場にはなかなか出て来ない優秀な人材の掘り起こしができる」。これは『Wantedly』が打ち出すセールスポイントの一つだが、川崎氏が入社に至った経緯は、まさにこの言葉の有効性を証明することになったようだ。

国際金融の最先端にいた技術者も驚くBtoCのスピード感

「川崎が参加してくれて、開発の精度もスピードも格段に上がった」と仲さんが言う通り、川崎氏の入社から半月経たない4月末に、初のメジャーアップデートを実現。本人は「入社早々、深夜残業を強いられた」と笑うが、川崎氏にとってもこうしたスピード感は前職での開発では経験できないものだった。

「それまでは少数の社員のための開発が中心でしたから、ラーニングコストをかけてでも、マスターした時に最高のパフォーマンスが出せればよかったんです。でも、BtoCサービスではそうはいきません。当初はそこに難しさを感じましたね」(川崎氏)

学生時代にコンピュータ科学を専攻し、UIの研究を行っていた川崎氏だったが、かつて得た座学の知識と実践の間には、歴然とした違いがあるのを感じたという。

「文献が示す通り長期間にわたってデータを集め、じっくり分析した上で施策を打つのが理想ですが、結論が出るまで何もしないわけにはいきません。現実には走りながら施策を実践していくほかない。成果が出なければ次の施策を実行するだけでなく、成果が出た時、どの施策が良かったのかを見極めるのが非常に大事になってきます」(川崎氏)

取材中も、ホワイトボードにあるプランを活発に議論する2人。

取材中も、ホワイトボードにあるプランを活発に議論する2人。”健全な”チームがそこにあった

一瞬一瞬が判断の連続。それが難しくもあり、面白くもあると言う川崎氏。同時に、チーフエンジニアとCTOの違いも実感している。

「経営メンバーとしての責任を果たしながら、どうやって技術チームをリードするかは今後も課題になるでしょう。まずは7月に控えている大きなアップデートを成功させることで、技術チームの方向性を確かなものにしていきたいと考えています」(川崎氏)

「社内では次のアップデートを『ゴールド・エクスペリエンス』って呼んでるんですが、これが成功すれば、究極の適材適所を目指すわたしたちの理想が実現に一歩近づくことは間違いありません。詳細はまだ申し上げられないのが残念ですが、皆さんもこの『ゴールド・エクスペリエンス』に期待してほしいですね」(仲さん)

先日増資を果たし、成長期に突入したウォンテッド。一説に約9兆円ともいわれるリクルーティング市場にどう斬りんでいくのか。彼らの動きから今後も目が離せそうにない。

取材・文/武田敏則(グレタケ) 撮影/竹井俊晴

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