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[連載:Web業界「先駆者」の履歴書 面白法人カヤック・堤修一 2/2] 興味を持ったら、動かずにはいられないんです

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後藤 エニックスのお話といい、堤さんはユーザーがはっきりと見えた時にモチベーションが上がるタイプなのかもしれませんね。ひょっとしたら、それもカヤックさんへとつながっていくような気もします。

   はい、それはあると思います。

後藤 でも、2度落ちた後もほかの企業への転職を考えたんですよね?

   正直マイクロソフトを受けたことがきっかけで、自分の中で「もう転職せずにはいられない」モードに入っていました(笑)。そんな中、人材紹介会社さんからキヤノンの採用話を聞いて、受けてみることにしたんです。

後藤 キヤノンさんも明確に「ユーザーの見える」会社ですよね。

   あ、でも、実はカメラにも複合機にも、あまり興味を持ってはいませんでした。

後藤 それでも受けて、結局転職をしたのは、やっぱり「流されて」だった?

   いや、この時はそうではなかったと思います。面接に行く以上、キヤノンのことを知っておくべきだと思い、関連本を探していたら御手洗冨士夫会長の本を見つけまして。これを読んだら、すごく良いことがたくさん書いてあって、「カリスマ性のあるリーダーのもとで働いてみたい」という気持ちが高まったんです。それに、NTTデータでの音声認識の仕事は、あの会社の本流ではなかったけれど、キヤノンの複合機は世界トップクラス。そのコア技術である画像処理の仕事をするということにも大きな魅力を感じました。

後藤 なのに2年半で再び転職していますよね。どうしてですか?

   新しい技術や知識に出合って、それを吸収していく過程はとても面白かったんです。けれども、仕事をすればするほど、自分が複合機に興味や愛着を持てない事実も、どんどんハッキリしていって。納得して、前向きに転職してきたつもりでしたけれど、その時点になって「やっぱり本当に面白いと思うものを仕事にしないとダメだな」という思いが復活してきたんです。


後藤 堤さんが流され続けているのは事実。まだこの時点で堤さんは「先駆者」にはなれていません。しかし、時代の先を読んで用意してきた人だけが先駆者になるのかというと、違うと思います。特に技術の世界では先を読むことなど不可能。何が問われるかといえば、日々出合うふとしたきっかけを、どれだけ自分の糧にできるか。大企業だけが持つ魅力に堤さんも興味を持っていましたが、行動することでその実体に触れた。その上で「ここではない」と実感した。それが次へとつながったのだと思います。出合いを行動につなげ、行動で得たことを自分で判断する。そんな感性にこそ価値があります。

32歳でFlashをゼロから覚え、念願のカヤック入社

後藤 カヤックさんとの出合いも本屋さんだったそうですね?(笑)

   そうなんです。転職活動をしていたわけではないんですが、複合機の仕事に「しっくりこないなあ」と思っていたころ、たまたま書店で『面白法人カヤック会社案内』という、カヤック代表の柳澤(大輔氏)が書いた本を見つけました。読めば読むほど「そうだよなあ」と共感して、虜になってしまいました。

「堤さんがカヤックで働いているのも、常に自分にとって大切な縁と出合いを見極めてきた結果だ」と話す後藤氏

「堤さんがカヤックで働いているのも、常に自分にとって大切な縁と出合いを見極めてきた結果だ」と話す後藤氏

後藤 転職に結びつくきっかけは、いつ、どこで?

  堤
 本を読んでから2~3カ月後、カヤック主催の技術者交流会があって、そこにWeb系スキルがなくてもカヤックに入ろうとしている人がけっこういて、「じゃあ、オレも受けよう」と思うようになりました。実はその日、結局家に帰らずカヤックの社員さんの家に泊めてもらうことになり、その方と話をするうちに、本気モードになりました。

後藤 ディレクター募集に応募して1度落ちていますね。

   事業やソフトのアイデアを99個持って行って受けたんですけど、ダメでした。人事担当からは「32歳でその職種の未経験者では採用は難しい」と言われました。ただ同時に「今から猛勉強してプログラミングとかFlashとかできるようになったら、あり得るかもしれない」と言われ、即、勉強を開始しましたね。Flash の体験版からスタートして、スクールでActionScriptを習って、という感じです。

後藤 さらっとおっしゃいますけど、すごく短期間のうちに賞まで採っていますよね?

   『天気予報API活用アプリコンテスト』というので大賞をいただきました。その後、人事の方に「再チャレンジさせていただきます」とメールして、それで2度目にして採用が決まったんです。

後藤 努力したことが評価されたんでしょうか? それとも2度も受けた熱意ですかね?

   さっき僕も人事に初めて教えてもらったのですが、熱意だけじゃダメだったみたいです。やはり勉強をして、それをしかも形にして、賞という一定の評価まで得て、実際につくっていたものを持って受けに来たことが評価されたんだそうです。

後藤 うれしかったで
すか?

   そりゃあ、もう。実は本を読んだ時に一番心に響いたのが「量が質を生む」という行動指針でした。掲げているだけではなく実際にカヤックではラボチーム(呼称『ブッコミ』)を立ち上げて、年間100個近くのサービスをリリースしていた。一方の僕はキヤノンに2年半もいて、1つも世の中に製品を出していなかった。でも、カヤックに入ったなら挑戦してサービスを次々と出すことに挑戦できる、と思えたんです。

後藤 今ではそのブッコミチームの一員になってバリバリやってるというわけですね?

   バリバリかどうかはわかりません(笑)。失敗もバンバンしてますし。でも、間違いないのは、毎日仕事が楽しくて仕方がない、ということです。

後藤 偶然が重なってハッピーな結末になった。そう表現することも可能ですが、やはり堤さんは、自分のアンテナを見つめ続け、正直に行動を起こしていった。それが今につながったのだと思います。スタンフォード大学のクランボルツ教授が提案したキャリア論に「計画的偶発性理論」というのがあります。「予期せぬ出来事」を、実は自分で呼び寄せて、それを前向きに活かしていくキャリア形成。これを堤さんは実践しています。
 書店で転機となる本を見つけたのも、イベントでカヤックの人と触れ合ったのも、堤さんが行動を起こしていなければ発生しなかった偶然。「心から面白いと思える仕事を」と、強く求めていなければ、その後の転職アクションもなかったでしょう。「失敗しない転職を」などと考えて、リスクを恐れているうちは、先駆者への道は開かれません。リスクを恐れず、気持ちに正直になって行動する。そうして生まれたチャンスを、堤さんはつかんだのだと思います。

取材・文/森川直樹 撮影/赤松洋太

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