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技術者として生き抜く上でのヒントが詰まった「WebSig1日学校」入学のススメ

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スマートフォンの登場、TwitterやFacebookといったSNSブーム、ノマドワークが注目され多様化する働き方、衰退する日本のモノづくり産業……。ここ2、3年で、わたしたちの働く環境や経済状況は、めまぐるしく変化している。これから5年後、10年後、まして1年後の未来は、もはや誰も予想できない。

そんな状況下で、技術者として前線で活躍し続けるためには、何を見て、どのように働いていけば良いか。

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IT業界でも幅広い交流を持つ馮氏(写真左)とえふしん氏(写真右)

そのヒントは、自分の業務領域の外側に目を向けることで見つかるかもしれない。そう話すのは、編集者という立場で、10年以上IT業界を見続けてきた技術評論社の馮(ふぉん)富久氏と、先日ガラケー向けのTwitterアプリ「モバツイ」を売却し、現在はフリーランスエンジニアとして活躍の幅を広げるえふしん氏だ。

「改めて説明するまでもありませんが、かつてわたしたちが安定企業として”鉄板”だと思っていた大手家電メーカーやSIerは壊滅状態ですよね。今まで日本は大丈夫だと漠然と思っていたのが、どうやら立ち行かなくなってきているぞ、というのはみんな感じているところではないでしょうか。社会が大きく変化してきているからこそ、社会の大きな流れを見極める力を持つ必要があると思います」(えふしん氏)

冒頭で話したような社会の変化には、IT技術の進歩が密接に関係している。それを踏まえても、えふしん氏が話すように狭い視点で働いていると、気が付けば自分の立ち位置が危ぶまれるということもあり得る。

「以前わたしが転職を考えていた時に、MOT(技術経営)を学びに大学院に行こうと思った時期があります。でも、説明会などに行ってみて感じたのは、ネットで生きていく人たちが既存の工学部系の勉強をすることへの違和感。わたしが思うに、Webはとてもエモーショナルで楽しくて、ユーザーに使ってもらわないとダメなものであって、大学院ではそこを学べそうになかった。だから、結果として転職を選びました」(えふしん氏)

Webサービスとは、もっと曖昧なもので、感覚的なものであり、必ずしも経済合理性にかなったものではない。だからこそ、えふしん氏は机上の学習ではなく現場を選んだのだという。

「例えばWebサービスを作ろうとした時に、自分の作ったものを通して何を演出するのか、その知見は誰にだって必要です。それはユーザー体験(以下、UX)についても言えることで、それをデザイナー任せにしてはいけない。今は、UXをデザイナー任せになっている部分が大きいですが、本来はWebサービスを作っている全員で考えるべきです。それが、今注目されているデザイン思考にも繋がる考え方であって、ユーザーセンターデザインなどはモノづくりにかかわる人なら知らなければいけないことだと思うんです」(えふしん氏)

社会の変化に対応する時に、変えるべきものと変えてはいけないもの

モノづくりを進める上でぶつかる課題には、正解が明確に見えないものが少なくない。そうした時に、個人もしくはチームで解決へと向かうためには何が必要なのだろうか。

その道標となり得るのが、えふしん氏の言うようなモノづくりに必要な知見であったり、「生もの」としての社会の動向であったりするのだろう。それらを踏まえて、馮氏は「エンジニアには、もっと視野を広くし、大局観を持ってほしい」と語る。

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技術系メディアの編集者として、数多くの現場技術者とかかわってきた経験から、より俯瞰的な目で技術者の持つべき視点を語ってくれた

「例えば2年くらい前にスマートフォンが浸透し始めたころ、Flashエンジニアの中には『これからどうしよう』と思っている方も少なくありませんでした。このケースのように、特定のテクニック(技術)だけを磨いていると、ある時社会が大きく転換する時に首を振れなくなり、時代の流れに取り残されてしまいかねません。

仮に今Flash技術しか使えなくとも、例えばアルゴリズムだったり、問題の解き方を考えることを知っていれば、別の技術に移行することだってできるでしょう。ただ流行っているからという理由で技術を身に付けるのではなく、社会の文脈を掴んでいれば、自分の立ち位置を見失うことはないと思うんです」(馮氏)

社会がいくら変化しようと、自分の中で「技術者としてこうあるべき」という軸を据えていれば対応できる。その軸が何かを見極める際、周囲の人との関係性について考えてみると良いと、馮氏は付け加えた。

「技術者として経験を重ねれば重ねるほど、人とのつながりは増えていきます。その時に、『この人と何年後かに一緒に何かを作りたいな』と思った人がいた場合、その人と継続性のある関係を保てるかどうか。そこで、自分の技術者としての立ち位置がかかわってきます。それは、技術者としての自分かもしれませんし、別の自分かもしれません」(馮氏)

今必要なのは、「答えのない問題を突き詰めて考える」こと

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10月6日(土)に開催されるWebSig1日学校。席はわずかながら残っているそうだ

今まで取り上げてきた、「目まぐるしく変化する社会の中で、技術者としてどう生きていくべきか」というテーマ。簡単な問題ではないが、このテーマについて考えるために、「WebSig1日学校2012」というイベントは、技術者にとって大きなヒントをもたらしてくれそうだ。

「Webの未来をテーマに、インターネットにかかわる多様な人たちとリアルの場で考え、これからのWebを作っていく」ことを目標に2004年から任意団体として設立されたWebSig
。本物の学校という場で丸1日Webについて考える「WebSig1日学校」は、今年で3回目を迎える。同イベントに、馮氏はモデレーターとして、えふしん氏は講師としてかかわっている。

個人差があることは承知の上だが、えふしん氏も馮氏も、技術に没頭してしまう技術者の多くは、視野が狭くなってしまいがちだと話す。その視野を少しでも広げてもらうめに、このイベントでは普段の勉強会やITイベントでは見られないような講師陣が登場するそうだ。ジャーナリストの佐々木俊尚氏や作家・批評家の東浩紀氏、ロフトワーク代表の林千晶氏、バスキュール代表の朴正義氏など、豪華な顔ぶれが揃っている。

普段は同じフィールドにいるとは言えない彼らから、技術者は何を学ぶことができるのだろうか。馮氏はこう話す。

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「このイベントを始める時に考えたことの1つが”説教する場”の提供でした。そこから今の”学び”という概念につながっていきました」と、1日学校誕生の背景を語る馮氏

「そもそも『WebSig1日学校』で登壇いただく講師の方々は、わたしたちが考える本質的に今の時代を捉えている方を呼んでいます。特に最近は、企業単体でFacebookページを運用できたり、有料メーリングリストが活発になってきたり、単体でマネタイズできるメディアが多様化しつつあります。

その中で、中川淳一郎さんや東さんに登壇いただくというのも、Webの多様化の一つだと思っています。彼らが『多様化するWeb(社会)』の世界で、どういう立ち位置で何をしているのか、なぜ注目されているのかを理解することは、Webの今を知る良いきっかけになるのではないかと思うのです」(馮氏)

「WebSig1日学校2012」のテーマは、「温故知新」だ。今の社会が多様化していくトレンドにも、温故知新が潜んでいるのだ。

「高度成長期には組織でモノづくりを行った方が会社として効率的だったものが、ものが豊富になり、ネットが普及したことによって働き方が変わりつつある。重要なことなので何度も言いますが、佐々木さんや東さんなどをお呼びした理由は、Webが多様化している中で、あえてエンジニアリング以外の方々を呼ぶことで、知識の幅を広げてもらう。少しでも視野を広げられるような場を提供したい。聞いてみてくれれば損はさせないという自信はあります」(馮氏)

「今回、わたしはビジネストラックでお話をさせていただくのですが、例えば技術者が自分でサービスを作って2年で事業売却することがハッピーかどうか、といった話をしようと思っています。技術者のキャリアの選択肢が広がる中で、自分にとって何がハッピーなのかを見つめ直してもらえれば嬉しいですね」(えふしん氏)

同イベントは、10月6日(土)にデジタルハリウッド大学の八王子制作オフィスで開催される。

技術者向けイベントは多数あるが、「混沌とした社会の中で、技術者としてどう生きていくべきか」という抽象的なテーマについて考えられる場は、現状はごくわずかしかない。時には自分の領域から一歩踏み出して、新しい風を感じ、社会の流れを体感してみてはいかがだろうか。

取材・文・撮影/小禄卓也(編集部)