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「かつては日本に嫉妬していた」Appleを作った“もう1人のスティーブ”が語る、イノベーションと教育

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2014年10月7~8日、東京・六本木にて、ワークスアプリケーションズの新業務基幹システム『HUE』の発表会を兼ねたイベント『COMPANY Forum 2014』が開催された。

『HUE』はエンタープライズ向けながら表示スピードは100msと、コンシューマアプリに劣らないスピードを誇り、直感的な操作感と業務最適化されたサジェスト機能などから「有能な秘書」と表現されるくらいに行き届いたユーザビリティを実現した業務基幹システムである。

『COMPANY Forum 2014』ではウォズニアック氏以外にも、MITの伊藤穰一氏や建築家の安藤忠雄氏など、豪華ゲストが講演を行った

『COMPANY Forum 2014』ではウォズニアック氏以外にも、MITの伊藤穰一氏や建築家の安藤忠雄氏など、豪華ゲストが講演を行った

このイベントのキーノートセッションとして、同社CEOの牧野正幸氏と、Appleの共同創業者であるスティーブ・ウォズニアック氏との対談が、日本とアメリカをつないで行われた。

PCで世界を大きく変えた功績から“ウォズの魔法使い”と評されるウォズニアック氏は、どのようにしてイノベーションを起こしてきたのか。また、日本のエンジニアがイノベーションを起こすにはどうしたらいいのか。

対談の内容を抜粋して紐解いていく。

会社のスタンスが技術の進歩を阻む

(写真左から)同時中継で対談を行ったワークスアプリケーションズCEOの牧野正幸氏とAppleの共同創業者スティーブ・ウォズニアック氏

(写真左から)ワークスアプリケーションズCEOの牧野正幸氏と、Apple共同創業者スティーブ・ウォズニアック氏

牧野氏 まず最初にお聞きしたいのが、Appleでウォズがやったように革新的な製品を生み出す際のモチベーションは何ですか?

ウォズニアック氏 当時、まだ高校にコンピュータがない時代、私は独学でコンピュータを学びたいと思いました。そんな時、私が立てた目標は「自分のコンピュータを持つこと」でした。しかし、その当時コンピュータを手に入れるには家を買うくらいの金額がかかりました。私はアパート住まいでしたし、お金もありません。そこで、私は安価にパーツを集めてコンピュータを「作る」という発想に至ったのです。

当時のコンピュータといえば画面のない非常に無愛想な代物だったので、TVとCPUを組み合わせた製品を作ろうと思い、科学・物理などを勉強しました。言うなれば、「顔」のある「人」のようなものを作りたかった。コンシューマー向けに、人にとって使いやすいコンピュータを目指したんです。

最初は自分の自己満足のために作ろうとしていたコンピュータですが、ジョブズを含む『ホームブリュー・コンピュータ・クラブ』が将来的な展望を私のデザインしたものを見て、ビジネス的視点で考えてくれました。私は彼らのためにも安価なコンピュータを実現させたいと思いました。

そして、ジョブズが私のプロダクトを見て、「一緒に会社を興そう」と誘ってくれたんです。でも、正直、私は当時勤めていたHPを辞めたくはなかったんです。いちエンジニアとして一生ラボで働きたいと考えており、経営の仕事はやりたくありませんでした。これらの私の正直な考えをジョブズにも伝えました。

それでもHPを出て、起業に至ったのは、HPの企業文化では作れないだろうと思ったからです。HPに、会社としてこれを作っていこうと提案したんですが、売れないと却下されたんです。会社としてのスタンスは時として未来の技術の進歩を阻害してしまう可能性があります。HPがもしこの話に乗っていたら、今はどうなっていたか分かりません。

ウォズニアック氏がほぼ独力で開発したApple2。後の技術発展に多大な影響を及ぼした

From matt hutchinson
ウォズニアック氏がほぼ独力で開発したApple2。後の技術発展に多大な影響を及ぼした

牧野氏 私もウォズの作ったApple2でプログラミングを学びました。そのプログラミング技術でエンジニアとなり、今回発表した『HUE』を生み出すに至りました。そういう意味では、あなたは『HUE』のおじいさんですね。

ウォズニアック氏 そう言ってもらえるとうれしいです。私がApple2を作ったのは、私が10歳のころに0と1の羅列から感じた感動、驚きをみんなにも味わってほしかったからです。牧野さん、あなたのような人にこの驚きを分かってもらうことが私の役割だと思っています。

真のイノベーターは自分本位

牧野氏 ウォズは「イノベーションを起こすのに大切なのは知識よりもモチベーション」ということをよく言っていますが、それはどのような考えからですか?

ウォズニアック氏 人間は誰しもがイノベーションを起こしたいというモチベーションを生まれながらに持っていると私は考えています。実はAppleを退職してからの8年間、全ての取材を断り、学生たちに学習する喜びを教えていました。

そして一握りの優秀な学生だけでなく、勉強が苦手な学生一人一人にも目を向け、知識欲をどう引き出してあげるかに注力したんです。学ぶ意欲がなければ、知識は蓄積されません。

結局のところ、モチベーションさえあれば知識は仕事をしながらでも身に付けられるんです。私だったらこうしたい、自分がユーザーだったらこういうものが欲しい、という欲求が根本にあり、それを形にできるのが真のイノベーターだと思うのです。

マーケットリサーチのように他の人のことを考えるのは後でいい。「この製品は私自身を代弁するものだから私自身にとって完璧なデザインであればいい」という考え方が重要なんです。

(左から)若かりし頃のスティーブ・ジョブズ氏とウォズニアック氏

From thetaxhave
(左から)若かりし頃のスティーブ・ジョブズ氏とウォズニアック氏

私が作ったデザインをジョブズは「製品」にしました。パッケージやマーケティングなどを考え始めたのはこのときです。私は1人だけでイノベーションを起こしたわけではありません。経営する人もいれば、オペレーションをする人も必要です。

ただし、共通していないといけないのは「プロフェッショナル」であるということ。それぞれが高いモチベーションを持っていればイノベーションは起こせるということです。

私のフロッピーボードのデザインに関しても小さな改善を積み重ね、結果的に自分が納得いくものを作り上げました。これにはクリエイティブさが必要で、これがないと実現はできません。

私がイノベーティブであったのはお金がなかったからだと思います。資源がないとか、より安いものを作りたいという気持ちがモチベーションにつながるんです。

エンジニアの早期参画で広がるイノベーションの可能性

牧野氏 大きな会社に所属しながらイノベーションを起こすにはどうしたらいいのか、もしくはどう育成していけばいいのでしょう?

ウォズニアック氏 大きな会社に所属していると、どうしても車輪を回さなくてはいけません。つまり、売り上げにつながる仕事を手放すわけにはいきません。

一方で、新しい製品を出したとしても、いきなりそれまでの主力商品と置き換えるというわけにはいきません。

小さなスタートアップ企業は大企業と比べると、動き、決断が早いです。それに対し、大企業は小さな企業に比べて経験値が多いです。何が上手くいきそうか、という判断基準を多く持っています。その際、エンジニアを必ず巻き込んでください。何か新しいプロジェクトをする時には、企画の段階からエンジニアを参加させてください。エンジニアは問題解決能力に長けていますので、エンジニアからのアイデアで何かが変わるかもしれません。

牧野氏 なるほど。イノベーション人材の育成についてはどうですか?

ウォズニアック氏 まずは心身ともにエネルギッシュな学生を採用することです。企業の人事部がそのような情報網を張り巡らせておき、クリエイティブで優秀な学生を採用すること、まずはこれです。

次に、若いうちからチャンスを与えるということです。バランスシート的に順調であれば、会社としては現状維持になりがちですが、若手を起用することで、その現状を打破してくれる可能性があります。経営者は若手が会社全体に与える影響を知っておかなくてはならないという意味で、心理学者的な面も求められます。アタリでは実際に会社で心理学者を雇っていました。