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倉貫義人氏が語る「顧客が欲しがるプログラマー」とは【連載:大元隆志が聞くSEの未来像】

公開

 
大元隆志が聞くSEの未来像

ITビジネスアナリスト
大元隆志氏

大手SIerに在籍し、システム構築やプロジェクトマネジメントで活躍しながらモバイルを軸としたビジネスの企画・立案を手掛ける。各種メディア向けの執筆活動でも知られており、近著に『ビッグデータ・アナリティクス時代の日本企業の挑戦』がある。ITビジネスアナリストとしての発信は自身で立ち上げたブログメディア『ASSIOMA』でも行っている

私が以前「若手SEのキャリアメイク」について『エンジニアtype』の取材を受けた際、「今後5年は需要があっても、その後の5年をサバイブしていくのは難しい」という考えを述べた。そして、SI業界で最もボリュームが大きいと思われる業務系SEは、PLやPMを経てラインマネジャーへとキャリアアップしていくのはもはや「ゴールではない」とも断言した。

その状況下、今後は「エバンジェリスト」、「フルスタックエンジニア」、「マーケター」、「ビジネスコンサルタント」といったビジネス視点を持ったスペシャリストだけが活躍の場を広げていけるのではないかと予想している。

この連載は、こうしたスペシャリストのうち、先駆者として活躍している人たちに会って話を聞き、今、業務系SEやプログラマーといった立場にある若手エンジニアたちがキャリアパスについて考えるヒントやきっかけにしてほしいという趣旨で始める。

今回は、大手SIerから起業し「納品のない受託開発」という独自のビジネスモデルを展開しているソニックガーデン代表取締役の倉貫義人氏に、今後SEがどのようなキャリアを歩んでいけばいいのか、話を伺った。

ゲスト

株式会社ソニックガーデン 代表取締役社長 CEO
倉貫義人氏

大学院を修了後、東洋情報システム(現・TIS)に入社。同社の基盤技術センターの立ち上げや、社内SNSの開発と社内展開、オープンソース化などに携わる。2009年、社内ベンチャー「SonicGarden」を立ち上げ、2011年にMBOを行ってソニックガーデンを創業。クラウド&アジャイル環境を駆使した「納品のない受託開発」を展開し、業界の内外から注目を集める

「フルスタックエンジニア」は都合がいい言い回し

大元 私はこれから5年後以降、SIerにおけるSEやプログラマーのキャリアパスは、今のPMよりもより専門的な知識を要する職種になると考えています。その中の1つとして、最近良く耳にするようになった「フルスタックエンジニア」も将来有望な選択肢だと考えているんですが、倉貫さんはどうお考えですか?

倉貫 僕は「フルスタックエンジニア」という言葉を使ったことがないですし、そもそもどんなエンジニアのことをそう定義するのか疑問ですね。というのも、エンジニア自身は「フルスタックエンジニア」なんて言わないじゃないですか。採用や人材集めに便利そうな言葉なので、そうした業界から広まった言葉だと思いますよ。大元さんはどんなお考えで、いわゆる「フルスタックエンジニア」に光明を見出していらっしゃるんですか?

大元 私としては、特にSIプロジェクトで求められるスキルが1つではなくなってきていることから、例えばフロントエンドもバックエンドのインフラ分野も、一通りこなせる知識やスキルを持ったエンジニアを「フルスタックエンジニア」と位置付けています。

倉貫 なるほど。あえて「フルスタックエンジニア」を定義するとしたら、私は在籍している会社の事業によって変わると思うんですよね。仮にインフラ分野が主力ビジネスの会社の場合、Rubyでバリバリとコードを書くプログラマーは必要ないわけですよね? iOSアプリの開発がメインという会社で、インフラに詳しいエンジニアが活躍できないように。

大元 まあ、そうですね。そういえば、ソニックガーデンは「納品のない受託開発」を展開されていますが、定義はともかくエンジニアの皆さんが「フルスタック」と言えるくらい業務領域が広いとか?

倉貫 受託開発とクラウド主体の自社サービスがちょうど半々くらいですが、基本は顧客の「技術顧問」のような立場でビジネスの企画立案から関わってITで何を実現するかを提案して、実際に構築して運用するというのを個々のエンジニアがすべて手掛けています。

大元 基本的に1社の顧客を1人のエンジニアが手掛けているんですか?

倉貫 そうです。

大元 それはすごい。そうすると、プロジェクト管理、いわゆるPMのスキルは必要だけれども“人を管理する”必要がないわけですね?

倉貫 プロジェクト進行を管理するスキルは必要ですが、部下やスタッフを管理する必要はありませんね。そういう働き方をしているエンジニアをフルスタックエンジニアと呼ぶのであればその通りですが、僕は前述のようにフルスタックという言葉に疑問を持っているので、あくまでも「プログラマー」と呼んでいます。

「TIPS」を重視するソニックガーデン独自の採用方法

大元 話を伺っていると、ソニックガーデンで活躍しているプログラマーはかなり市場価値が高いと思うんですが、どんな採用基準を設けているんですか?

倉貫氏率いるソニックガーデンは、採用フローにも独自性が見られる

倉貫氏率いるソニックガーデンは、採用フローにも独自性が見られる

倉貫 応募してきたエンジニアのうち、実際に採用にまで至る人は10%を切ります。それに、問い合わせから採用まで半年かかりますね。

大元 やはり相当厳しいんですね。

倉貫 我々は独自の『TIPS』という採用基準を設けています。それぞれT=テクニック(技術力)、I=インテリジェンス、P=パーソナリティー、S=スピードの略ですが、これらの基準を満たした方だけ入社していただいて、一緒に長く働いていきましょうというスタンスで経営しています。

大元 その『TIPS』について教えていただけますか?

倉貫 「T」についてはプログラマーとしての基本的、基礎的な技術があるかどうかですね。当然のことですが特別な分野だけに知識やスキルが突出している必要はなくて、きれいにシンプルに無駄のないプログラミングができるかどうかをまず見ます。

「I」については当社には中間管理職がいませんので、顧客の「顧問」として自ら考え、自ら必要なことができるスキルが必要ですね。

大元 いわゆる「指示待ち」ではダメなわけですね。

倉貫 そうです。そして「P」のパーソナリティーにも関連してきますが、とは言っても個人商店の集まりではないのでスタッフの誰かが悩んでいたり、困っていたりしたら助け合って課題を解決していこうという姿勢も必要です。

最後の「S」はスピードです。弊社では月額・定額制で開発から運用までを手掛けていますから、基本的に契約期間はエンドレスです。それには顧客のパートナーとして常に満足度の高いサービスを提供し続けていけなければ難しいですよね。

大元 そういった適性や資質を、半年かけて互いに理解していくわけですね。

倉貫 よく「試用期間」というのがありますけど、あれって雇用される側にとってはものすごく不利だしムダですよね。ですから当社では、まず自分で予習してもらった上でトレーニングがあって、それからプロジェクトに加わってもらって一緒に働くというステップで進んでいきます。

大元 SI業界における一般的な意味での「プログラマー」だと、そこまでのスキルセットは問われないと思うんです。倉貫さんが「プログラマー」にこだわる理由は何なのでしょうか?

倉貫 特にこの業界で顕著なんですが、営業がいてPMがいてプログラマーがいて……という構造だと、関わる人が多く「伝言ゲーム」を繰り返しているだけなんですよね。これはロスや食い違いが多くなります。

大元 分かります。

倉貫 また、どんな要件も、結局はシステムやソフトウエアを作るのがゴールです。そのシステムやソフトウエアを作るのはプログラマーです。なのに、“ただ作るだけの人”みたいにどこか下に見られているんですよね。それを変えたい、と。

大元 ソニックガーデンは独自のビジネスモデルを確立しつつ、プログラマーの役割向上、地位向上にも取り組んでおられるわけですね。