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Googleの『20%ルール』を連想させる、エクスウェアの「サークルドリブン開発」とは

タグ : MOMONGA, エクスウェア, サークルドリブン開発, スマートメニュー 公開

 

エンジニアとして長く仕事をしていく上で、スキルアップの時間は切っても切り離せないもの。それゆえ、例えば業務時間外に、実務で触れない技術や最新の開発ツールについて勉強したいと考えているエンジニアは少なくないだろう。

しかし現実は、日々のプロジェクトや緊急性の高い業務、会社の雑務に追われ、勉強の時間を十分に確保できないと悩んでいる人も多いのではないだろうか。

そんな悩みを解消すべく、会社として社員の「業務外活動」を後押ししている企業がある。東京・品川区に拠点を置くシステム開発会社エクスウェアだ。

エクスウェアが提供する飲食店向け多言語対応メニューアプリ『スマートメニュー』

エクスウェアが提供する飲食店向け多言語対応メニューアプリ『スマートメニュー』

1995年に創業した同社は、Javaの黎明期に数多くの開発事例を作ってきた会社として知られており、現在は受託事業のほかに自社サービスとしてスマートデバイスとクラウドを活用した『MOMONGAスマートソリューション』シリーズなどを展開。直近では、飲食店向けの多言語対応メニューアプリ『スマートメニュー』の海外展開を進めている。

驚くのは、この『スマートメニュー』の海外展開が、社内スタッフの有志が集い合って設立したサークル主導で行われているということ。社員の業務外活動を支援するだけでなく、その活動に会社の事業まで委ねているのだ。

そもそも同社では『MOMONGAアンケート』という別のサービスを海外展開していく計画があったという。『MOMONGAアンケート』は、国内での導入実績が4000社以上と、すでに国内トップシェアを誇るサービスだったからだ。

だが、社内サークルの1つでアプリケーションの海外展開を主導する「グローバル委員会」がサークル内で話し合われた結果を元に、同社代表取締役の滝本賀年氏に直談判した結果、方針転換をして『スマートメニュー』の海外展開に注力することになったのだという。

2000年ごろに発足した社内の技術勉強会が元になっているというエクスウェアの社内サークル制度は、この案件以外にも、社内の課題から事業戦略までを独自に策定し、会社全体を動かすまでになっているそうだ。

エンジニアの業務外活動が会社の事業にも影響をおよぼす例といえば、Googleがかつて実施し、Google DocsやGmailを生んだ『20%ルール』が有名である。この取り組みをほうふつとさせるようなエクスウェアの社内サークルは、なぜ会社を動かすほどの影響力を持つようになったのか。「グローバル委員会」のメンバーである代田淳平氏と鵜口大志氏に、これまでの経緯を聞いた。

業務以外の経験が個人の成長を加速させる

(左から)話を聞いたエクスウェアの「グローバル委員会」のメンバー、代田淳平氏と鵜口大志氏

(左から)話を聞いたエクスウェアの「グローバル委員会」のメンバー、代田淳平氏と鵜口大志氏

「グローバル委員会」は、2015年3月末までにニューヨークの寿司店へ『スマートメニュー』の販売を目標としているサークルだ。現在は、エンジニア6人と営業部門1人の計7人から構成されている。

ニューヨークの寿司店へはWebサイトを通じての販売を目指しており、委員会のメンバーはマーケティングリサーチを進めつつ、ランディングページと製品紹介動画の制作を進めているのだという。

マーケティングリサーチや動画制作などは、もちろん彼らの本業ではない。『スマートメニュー』の開発には「グローバル委員会」とは別に、本業務として機能追加やUI/UXの改良に取り組んでいるチームがある。だが、今回の海外展開にあたっては、「グローバル委員会」からの要望にしたがってすでにいくつかの改良/改善が行われているという。

「イスラム教では禁止されている食材を表示したり、日本とは異なる著作権法への対応など、実際に海外の市場へ向けてリリースするにあたって機能や使い方の面でいろいろクリアしなければならない課題がいくつもあることが分かりました」(代田氏)

そう語る代田氏は、2001年に新卒で入社後、すぐにJavaの技術を学ぶ勉強会に加入し、入社1年が経つまでに2つの新しいWebサービスを手がけた経験を持つ。特に2つ目のサービスは、当時現場エンジニアだった、現・代表取締役の滝本賀年氏と2人で休暇を返上して設計・開発したという。

「これもまったく仕事とは関係ない試みでしたけど、仕事以上に熱く真剣に取り組んだことを覚えています」(代田氏)

入社1年目の提案同行について、とても貴重な体験だったと振り返る代田氏

入社1年目の提案同行について、とても貴重な体験だったと当時を振り返る代田氏

この時手がけていたのは、入社説明会の朝から入社~出世~海外派遣まで、会社での人生をRPGのように体験できるWebアプリの1つ。事業として立ち上がることはなかったが、新卒入社したばかりの代田氏も顧客へのプレゼンに同行していたという。

「プログラマーとして入社したので、それまで営業提案はしたことがありませんでした。普段の仕事ではできない体験をさせてもらって、すごく価値のある取り組みだったと思っています」(代田氏)

事実、うまくいかなかったプロジェクトでも、その積み重ねによるノウハウが結果として価値を生むと滝本氏は続ける。

「当社は、社外から『最新の技術に強い開発会社』という評価をいただくこともありますが、それは、失敗の積み重ねによるものだと思っています。実を結ばなかったプロジェクトでも、それを通して得た知識の蓄積が、当時で言えばJava、現在ならクラウドに強いといった自社のブランディングに結びついていると思います」(滝本氏)

自分がサークルに飽きないために受ける刺激を増やす

ところで、業務外のサークル活動というと、モチベーションが続かず、頓挫してしまったり、業務を優先するあまり、おろそかになったりすることが考えられる。

鵜口氏

サークル制度を入社直後に知り、すぐさま鵜口氏は参加を希望したという

これらをクリアするためのサークル側の取り組みとして、加入の際に、意欲や熱意を確認するためのプレゼンテーション試験を設けている。今年4月に入社したばかりの鵜口氏も加入を熱望し、プレゼンでそれを伝えた。

「試験では、サークルに入って自分がどんな役割を果たせるのか、どんな貢献ができるのかをプレゼンしました。先に入っているメンバーも試験をパスしてきたモチベーションの高いメンバーばかりなので、いい緊張感がありましたね」(鵜口氏)

メンバー個人でも、モチベーションを保つための工夫をしている。代田氏は吸収する情報量を増やすことで意識を高く持つようにしていると話す。

「1つのサークルにだけ所属していると、受ける刺激も『仕事』と『サークル』の2つだけになってしまいます。私は社外の技術ワークショップに参加することもありますし、社外のエンジニアを対象にしたハッカソンを企画することもあります。受ける刺激を増やし、サークル活動にフィードバックすることで、自分のモチベーションだけでなく、サークル全体のモチベーションアップにもつながります。今では社内の3つのサークルに所属し、2つの社外活動に参加しています。最近最も刺激を受けたのは、Pepperのワークショップですね」(代田氏)

また、経営者である滝本氏も現場のモチベーション維持には心を砕いている。

「モチベーションが下がる原因の一つは“やらされている”と感じてしまうこと。そうならないように、私はサークルの活動には過度に結果を求めないようにしています。あくまでスタッフの意思で参加してもらうものですから、ゴールも本人たちの中で決めてもらい、自由に活動してもらっています」(滝本氏)

するとサークルの自由な活動を奨励するあまり、エクスウェアでは文頭で紹介したように、サークルの意見で会社が方針転換を迫られるという事態が起きたのである。

いちエンジニアとして入社した代表取締役の滝本賀年氏も、自由にいろいろなことを試せる環境で成長してきたという

いちエンジニアとして入社した代表取締役の滝本賀年氏も、自由にいろいろなことを試せる環境で成長してきたという

こうした動きに、滝本氏は苦笑しつつも温かく見守るだけだ。

「会社の方針と違っていても、それはそれでかまいません。スタッフの意見を尊重します。私自身がエンジニアとして入社して、代田と一緒に無我夢中で新しいサービスの開発に取り組んだりと自由にやらせてもらった。だからこれからも会社が強いて課題を与えたり、決まりごとにするのではなくて、スタッフが自主的に考えていろんなことに取り組める文化、風土は守っていきたいですね。その方が結果的に個人の成長や自社のブランディングといったいい結果につながることが分かっていますから」(滝本氏)

経営者にならずとも、いちエンジニアが会社を動かす可能性を秘めた「サークルドリブン開発」。『Gmail』や『Google Docs』を超える有名サービスも、このような環境から誕生するかもしれない。

取材・文/浦野孝嗣 撮影/小林 正