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ひがやすを×橋口恭子が”LINEを超えるアプリ”を誌上ブレスト「長く愛されるサービスを作るプロセスとは?」

公開

 
ユニークなWebサービス『かわいい検索』を開発した現役女子大学院生の橋口恭子さんとの対談で、”アイデアを言語化する”という発想方法と、サービスを形にするプロセスとで多くの共通点が見つかったと驚きを隠せないやすを氏。サービス開発へのスタンスが近い2人が、今度は「長く愛されるサービス」のあり方を語り尽くす。
プロフィール

株式会社電通国際情報サービス ハイパー・グレート・クリエイター
やすを(ひが やすを)氏 [@higayasuo]

国産OSS『Seasar』シリーズやJavaフレームワーク『Slim3』開発を主導してきた、アルファギークの一人。電通国際情報サービスに勤めるかたわら、さまざまな技術コミュニティへの参加など、多方面で活躍。個人ブログ『ひがやすをblog』でエンジニアへの提言も行う

プロフィール

慶應義塾大学大学院 修士課程在籍
橋口恭子さん [@kyon_ha]

「文字で砂時計ができないかな」という発想から、文字の”見た目”からその内容を検索する『かわいい検索』の開発を主導。NTTレゾナントの研究プロジェクト「gooラボ」のサポートを得て、2011年にリリースされて大きな話題となった

―― 前回の対談では、やすをさんが「あなたはわたしですか?」と言うくらい、サービス開発のスタンスに共通する部分が多かったお2人ですが。

やすを 正直、こんなに感覚が合う人と話す機会ってあんまりなかったから。

橋口 やすをさんにそう言っていただけると、すごく自信が持てます。

―― 今回はその続きとして、橋口さんからやすをさんに聞いてみたいことをテーマに対談できればと思っています。何か「これ!」という質問はありますか?

長く愛され続けるサービスの条件をずっと考え続けてきたと話す橋口さん

長く愛され続けるサービスの条件をずっと考え続けてきたと話す橋口さん

橋口 今日、お会いする際にぜひ聞いてみたいと思っていたのは、どうすれば「長く愛されるサービス」が作れるか、ということです。

やすを 不思議だね。僕も同じようなことを最近よく考えてるんだ。社会のインフラになるようなサービスを作るには、どうすれば良いのかって。

橋口 あっ、同じようなこと考えてますね。

―― 今回もまた、シンクロ率がヤバいですね。

やすを 僕も答えは分かってないんだけど、お互いのヒントになればと思うので、ブレストみたいな感じで話をしてみようか。

橋口 ありがとうございます!

文字の歴史を調べると、女性の方が”新しいUI”に敏感だと判明

やすを 長く愛されるためには、一時的な面白さではなく、普遍的な欲求を満たすものでないとダメだと思う。

橋口 そう思います。それで以前、文字とか文章の見せ方って、歴史的にどう変遷してきたのかなって調べたことあるんです。

やすを 文字を書いて人に何かを伝えたいって普遍的な欲求だからね。

―― どうして文字の歴史を調べることに?

橋口 前回もお話したように、『かわいい検索』はいろんなブログを印刷して並べてみたり、巻物みたいにつなげて眺めたりしていく中で、「書き方に特徴がある」って発見をして検索のアルゴリズムを思いついたんですね。その後、「そもそも何でブログは書き方がいろいろあるんだろう?」って考えるようになって。それで、後から文字の歴史を学んで、文字とか文章の見せ方がどう変遷してきたのかなって調べました。

対談当日、橋口さんはこれまでの研究成果をどっさり持参。編集部も「考え続けること」の大事さを痛感させられた

対談当日、橋口さんはこれまでの研究成果をどっさり持参。編集部も「考え続けること」の大事さを痛感させられた

やすを 結果はどうだったの?

橋口 まず、昭和50年(1975年)くらいから、女の子の間で「丸文字」や「ヘタウマ文字」がすごく流行り出したっていう歴史を知ったんですね。注目したのは、こういう文字を使っていたのって、女の子が大部分で、男性は使っていないって部分で。その理由が知りたいと思って、今度は山根一眞さんが書いた『変体少女文字の研究』っていう本を読んだり、宮台真司さんの社会学の本を参考にしたりしましたね。

やすを 普遍的な欲求を、歴史から探っていったわけだね。

橋口  そうですね。最初は文字の研究から入っていったんですが、そこから「女性が生み出す文化」ってどういう風に変化していったんだろうっていうところに行き着いたんです。

やすを それで、何が見つかったの?

橋口 新しい見え方の文字って、女性が生み出すことが多いんですよ。例えば、ひらがなが生まれた背景をずっとさかのぼって調べてみると、万葉仮名にまでたどり着くんですよね。一般女性が使いやすいようにって理由から、万葉仮名が起源になってひらがなやカタカナが生まれたっていうことと、さっきお話した「丸文字」や「ヘタウマ文字」が生まれた背景って、とても似ているんです。

Facebook vs LINEで考える、普遍的な欲求と「変わる仕掛け」

 

ブログの見た目や行間などで「かわいさ」を検索できるサービス『かわいい検索』

ブログの見た目や行間などで「かわいさ」を検索できるサービス『かわいい検索

―― では、「文字を絵として見る」という『かわいい検索』の切り口は、女性向けサービスを考える際の仮説としては間違ってなかったわけですね。

橋口 はい。ブログで行間を空けたり、独特の文字づかいをする理由は何なんだろうって考え続けていたのが、いろいろ調べていくうちに納得できるようになってきて、「ついに見つけたッ!」って思いましたね。

やすを そうやって調べていくことで、「変わってきた部分」と「変わらない本質」が分かるようになるよね。変わらない本質がきっと普遍的な欲求。

橋口 でも、『かわいい検索』の時はもう一つ、興味深い仮説が見つかったんです。1人のユーザーの中でも、文字の使い方って変わっていくんですよ。丸文字やヘタウマ文字も、中学生・高校生のうちは使っているけれど、20代になると書かなくなる。丸文字やヘタウマ文字がプライベートなものだとすると、普通の文字の使い方って公式というかパブリックなものという感覚で使い分けているのかなって。

やすを 今のサービスに例えると、Facebookがパブリックで、LINEがプライベート、みたいな?

「人の本質的な欲求を知るには、歴史的に続きてきた事象を調べてみること」(やすを氏)

「人の本質的な欲求を知るには、歴史的に続きてきた事象を調べてみること」(やすを氏)

橋口 そうかもしれません。わたしの感覚的には、Facebookが漢字で、LINEが丸文字やヘタウマ文字みたいな。

やすを Facebookだと、どうしても変なことを書けないっていう、プレッシャーめいたものがあるよね。

橋口 ほかの人のポストもマジメな内容が多いので、空気読む、みたいな(笑)。

やすを 昔は「mixi疲れ」とかあったけど、最近は、「Facebook疲れ」っていうのを耳にすることが増えているよね。

橋口 そうなんですよ! それが、「長く愛されるサービス」の要素を考えるきっかけで。

あえて今、『PostPet』を振り返って見えた、ウケるサービスの基本

やすを 基本的にサービスっていうのは、7割くらいはすでに存在するもので、残り3割くらいの部分で違う見せ方とかやり方を提案しているような気もするね。Pinterestなんかもそう。基本はソーシャルブックマークサービスで、そこにビジュアル中心という味付けをしたみたいな。

橋口 7割くらいの既存部分が、普遍的な欲求なんですね。やすをさんが注目している普遍的な欲求って何ですか?

(c)So-net Entertainment Corporation
90年代後半から2000年代初頭に一世を風靡した『PostPet』。生みの親である八谷和彦氏のインタビューはコチラ

(c)So-net Entertainment Corporation

90年代後半に一世を風靡した『PostPet』。生みの親である八谷和彦氏のインタビューはコチラ

すを 1995年か96年ころに『PostPet(ポストペット)』っていう電子メールソフトが流行ったじゃない。ピンクのクマがメールを届けるっていう設定になっていて、おやつを上げたり世話することができたりするやつ。

橋口 あぁ覚えてます! わたしも使ってみたかったんですけど、まだ小さかったので結局使えずじまいで……。

やすを 『PostPet』って、仕組み自体はすごく単純なんだよね。普通のコミュニケーションに、ビジュアル要素がプラスされることで、対話の楽しさが増すというか。これとLINEを比べて考えてみると、人が喜んだり楽しんだりする肝って、あんまり変わってないんじゃないかなって思ってるんだ。

橋口 ビジュアルがコミュニケーションをちょっと助けてくれるみたいな。

やすを  そういう言い方もあるかもしれない。LINEのスタンプ機能には、文字情報だけじゃ伝えられない感情を伝えられるって面があるよね。これを相手側の視点で見れば、「感情を考える」楽しさもあるってこと。こういうちょっとした気がかりを生み出すサービスには、廃れないもののヒントがあるのかもって。

(次ページに続く)