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子ども向けインタフェースを考える上で必要なこと【連載:五十嵐悠紀】

タグ : WISS, インターフェース, 五十嵐悠紀, 教育, 育児 公開

 
天才プログラマー・五十嵐 悠紀のほのぼの研究生活
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筑波大学  システム情報工学研究科  コンピュータサイエンス専攻  非数値処理アルゴリズム研究室
五十嵐 悠紀

2004年度下期、2005年度下期とIPA未踏ソフトに採択された、『天才プログラマー/スーパークリエータ』。筑波大学 システム情報工学研究科 コンピュータサイエンス専攻 非数値処理アルゴリズム研究室(NPAL)に在籍し、CG/UIの研究・開発に従事する。プライベートでは二児の母でもある

先月の連載に引き続き、子どもネタでお送りしたいと思います。

2013年12月4日~12月6日に高知県で開催された『WISS2013』という「インタラクティブシステムとソフトウェアに関するワークショップ」に子連れで参加してきました。

このような学会に子ども連れで参加する人は珍しいので、学生さんからは、「早期教育の観点からお子さん連れで来られているんですか?」と聞かれましたが、いえいえ、そんな前向きな理由ではなく……。わが家は夫婦共に同じ分野の研究者なので、2泊3日の泊まり込みワークショップに参加しようとすると、

【1】夫婦のうちどちらかが参加をあきらめる
【2】実家に預かってもらう
【3】子連れで参加する

などの選択肢の中で、その時に最適なものを選んでいます。というわけで、今回は4歳と2歳の息子2人を連れて、高知県高知市まで行ってきました。

周りの研究者の方々のご理解があって子連れ学会参加は成り立っているわけですが、2歳児はともかく、4歳児の兄の方は、ずいぶんと登壇発表やデモ発表などを楽しめるようになってきました。

また、時に年齢層の違うユーザーとして、研究者にフィードバックを返したりもしていました(信憑性や信頼できるかどうかは別として 笑)。

そこで今回の記事は、WISSで発表された最新研究のレポートを兼ねて、《子どもを対象としたようなインタラクティブシステムを考える上で大事なこと》という目線からお伝えしたいと思います。

4歳でも電子回路が作れた、インクジェット印刷による電子回路配線技術

ACM Ubicomp 2013 という国際学会で、ベストペーパーを受賞された研究の招待デモもありました。東京大学の川原圭博准教授は、家庭用のインクジェットプリンタを用いて電子回路素子を印刷する技術を考案されました。

4歳の長男が初めて設計した電子回路。馬のしっぽの部分が光っています

導電性のインクを使い、電子回路を手書きで書くこともでき、これにLEDと電池をつければ実際に動く電子回路のできあがり。

わが家の長男が初めて設計した電子回路が右の写真です。

近年、急速に3Dプリント技術に代表されるラピッドプロトタイピングが普及してきていますが、電子回路素子印刷の技術の普及で、エンジニアや研究者が迅速にさまざまな回路を試すことができるようになりました。

LEDで発光する賞状

LEDで発光する賞状(写真提供:表彰担当の明治大学宮下先生)

ほか、子どもや一般の人でも、手軽にメッセージカードなどに電子回路を埋め込むこともできるようになっています。

実際に川原先生の名刺には回路が印刷されていましたし、WISSの最優秀論文賞をはじめとする各賞の受賞者に送られる賞状も、導電性インクを充填したインクジェットプリンタで賞状を印刷することで、LEDが発光するという斬新なものでした。

仮想力覚提示デバイス体験では大人との違いも

登壇発表で発表された、東京大学暦本純一教授の「Traxion:仮想力覚提示デバイス」は、人間の振動刺激とその知覚の非線形な関係を利用して、振動波形を制御することで、装置を持つ人に押したり引いたりといった「力」を感じさせる小型のアクチュエータです。

登壇発表後に発表者との質疑のために設けられたオフィスアワーの時間になると、体験したい人々が続々と集まり、次々に体験。デバイスを軽く片手でつまみ、暦本先生が「Traxion」に力の働く方向を制御すると、そちらへの力を感じて思わず「おぉ!」と歓声を上げながら体験していました。わたしもそんな一人。

大人が感動するものでも、子どもにはいまいち伝わらないものも

そこへやってきた4歳の長男にも持たせてみることになり、周りではどんな反応をするか期待していたのですが、息子は何も反応せず。「どっちかに動かない?」と聞くと、「ただ、ブルブルするだけ」との答え。

何度やってもどうも分からないようで、もしかしたらこんなところに「子どもと大人の触覚の科学的な違い」があって、実は解明すると面白いことが分かるのかも(!?)と考えました。

「興奮」を抑えられない子どもならではの動き

本連載にも育メン研究者として登場していただいた京都産業大学の平井重行先生は、「お風呂インタラクション」を長年研究されています。今回発表されていたのは、「叩打音を利用した操作インタフェース」。

お風呂で親子で遊べる「叩打音を利用した操作インタフェース」

これは浴槽のふちを叩いた音を利用して操作を行う、というもので、インタフェースを利用した例として、もぐらたたきや、早押しクイズが実装されていました。水回りでは通常使えるインタフェースとは違ったインタフェースを考えないといけないので、「叩打音を利用する」というのは面白く、また大人だけではなく子どもにも分かりやすかったようです。

しかし、子どもは白熱してくると、大人なら上から垂直に叩いてくれるような場面でも、横滑りするような手の動きになってしまい、「キュキュッ」という音が鳴ってしまいます。このシステムでは、こうした横滑り音は別操作のコマンドに割り当てられていたので、白熱して横滑りするたびに操作画面が頻繁に切り替わってしまう、といった場面もありました。

大人の役割は「教えすぎない」ことで子どもに考えさせること

WISSの特徴の1つとして、夜通し研究の議論をしたり、新しいシステムをみんなで触ってみてフィードバックするなど、さまざまな「ナイトセッション」が行われることが挙げられます。

このナイトセッションの時間で、NTTコミュニケーション科学基礎研究所の原田康徳氏からわたしの息子たちにビスケットを体験させていただきました。

ビスケットとは、原田氏が開発したヴィジュアルプログラミング言語で、絵でプログラムを作り、実行すると絵が動きます。難しいことを覚えなくても、プログラムの楽しさを知ることができる、というものです。

息子たちは2人とも夢中になってタブレットに絵を描き、アップロードしてノートPCの画面に自分の絵が動きながら表れると、それを見てさらに喜んでいました。

「めがね」と呼ばれる動きをプログラムするツールを用いて、どのように絵を動かすかを定義するというこのやり方次第では、アニメーションやゲーム、動く絵本づくりなど、無限の可能性を秘めています。

つかず離れずの距離感で子ども達を見守る原田氏

「できることのすべてを教えるのではなく、1を教えて、できることを10見つけさせる」とでもいうのでしょうか。原田氏は子どもが自分で絵を動かしながら、経験的に学んでいくのを「うまく」手助けをしていらっしゃり、わたしはその教え方と子どもの発想力にびっくりしながら様子を眺めていました。

つい口を出してしまいそうな場面でぐっと我慢して見守る。なかなか難しいことですが、実は大事なことですよね。

特に長男は、このところ「プログラミングがしてみたい! 教えてほしい!」とよく口にしていたので、「さっき教えてもらったのがプログラミングだよ」と教えてあげるととても喜んでいました。

原田氏は子供向けにワークショップなどを展開しており、わたしが未踏ソフトウェア創造事業でぬいぐるみモデリングシステムを行った時のプロジェクトマネージャでもあります。子どもにとってのシステムの役割や、大人の役割などを常に考えながら、システム設計やワークショップ設計をしていくことの大切さをいつも教えていただいています。

子ども向け製品は、実際に子どもが使う「場面」を想像して設計する

子ども向けアプリやインタフェースを考える上で、きちんと考えておくべきことは実はたくさんあります。

簡単な例を出すと、未就学児を対象としているようなアプリに「保存」、「新規生成」というボタンがついていることも多いのですが、未就学児にはもちろん読めないですよね。一度でも子どもに実際に使ってもらえば、これに気づくことができるはずです。

こうした課題は、「ほぞん」、「あたらしくする」などと未就学児でも読めるようにひらがなを使ったり、視覚で理解できるようにアイコンを使ったりすることで回避できます。アイコンは、最初の数回は「これは何?」と聞かれますが、漢字よりも認識しやすいらしく、どんなコマンド用のアイコンかをしっかり覚えて使いこなすことができます。

もっと大事なのは、それを子どもだけで使うのか、大人が支援しながら使うのか、教育目的なのか、娯楽なのかといった一歩踏み込んだ議論です。

WISSでも、お茶の水女子大学博士課程の門村さんたちによる研究『SensingFork:フォーク型センサを用いた食行動改善手法』では、子どもの好き嫌いなど食行動の改善を目標として、食事中の動作とおおまかな食材の種類を検出するフォーク型デバイスを提案していました。

また、このフォーク型デバイスと連動して食習慣改善を目指すスマホアプリ『腹ペコパンダ』を提案しています。子どもはアプリ内のパンダのキャラクターとやりとりしながら、嫌いな食べ物も頑張って食べられるようになる、といった子どもの好き嫌いに悩む子育て中の親世代にはすぐにでも欲しいと思わせるものでしょう。

一方、アプリを使う状況を想像してみると、子どもとアプリの二者であり、そこに大人は出てきません。大人が子どもにアプリ任せにすることもできるような設計であり、ここにどう大人がインタラクションするような設計を加えるかがこのシステムをより広く使ってもらうための肝になると考えられます。

ちなみにこの研究は現状では大人を対象とした評価実験を行ったのみですが、今後は子どもを対象とした評価実験も行うということで期待大です。

このような「保育者と子どもの間のインタラクション」を設計にうまく組み込んだアプリに、グッド・グリーフの朝倉民枝さんによる『ピッケのおうち』があります。

あえて文字を読ませるつくりになっている『ピッケのおうち』

『ピッケのおうち』は、初めてコンピュータに触れる子どもたちが、パパやママを始めとする年長者と一緒に楽しむインタラクティブ絵本です。主人公ピッケの世界を楽しむことができるのですが、ピッケはしゃべりません。

もちろん自動でしゃべらせることは技術的にはできるのですが、「一緒に絵本を楽しむ大人が読み聞かせをする」ことで、大人と一緒に楽しむような設計になっているのです。

もし、自動音声でピッケがしゃべったらどうでしょう? 「ちょっとピッケで遊んでいてね」と子どもに伝えるだけ伝えて、その場を離れて家事をしたりしないでしょうか? そして1人でPCに没頭する幼児。朝倉さんはそれを避けるために、あえて自動ではしゃべらせない選択をしています。

このように、子どもが遊んでいる状況や環境まで考えてデザインされているシステムはまだ少ないように思いますが、ユーザーの低年齢化が進むとともに、考慮しなくてはならないことの1つととらえられ、今後増えていくことでしょう。

ちなみに、WISSで発表された研究およびデモはすべて動画中継されており、現在でもUSTREAMで見ることができますので、ご興味がある方はぜひアクセスしてみてくださいね。