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今話題の「ファブリケーション」のすごさと活用法を、簡単に解説してみた【連載:五十嵐悠紀】

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天才プログラマー・五十嵐 悠紀のほのぼの研究生活
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筑波大学  システム情報工学研究科  コンピュータサイエンス専攻  非数値処理アルゴリズム研究室(NPAL)
五十嵐 悠紀

2004年度下期、2005年度下期とIPA未踏ソフトに採択された、『天才プログラマー/スーパークリエータ』。筑波大学 システム情報工学研究科 コンピュータサイエンス専攻 非数値処理アルゴリズム研究室(NPAL)に在籍し、CG/UIの研究・開発に従事する。プライベートでは二児の母でもある

以前、わたしと宮下芳明さん、渡邊恵太さんで行った鼎談記事でもご紹介したように、今年度から、明治大学の新キャンパスが始動し、新1年生が入ってきました。

わたしはこの学科で非常勤の兼任講師として週1コマ授業を受け持っています。「まだ線形代数も微積分もコンピュータグラフィックス(CG)の知識もこれから、という新入生に何を教えられるだろうか」といろいろ悩んだのですが、わたしの主な研究テーマである「ファブリケーション」についてディスカッションすることにしました。

ちまたでもよく聞くようになってきた「ファブリケーション」という言葉。コンピュータグラフィックスの学術的な論文発表の場でも、身近なモノづくりをコンピュータで支援することで、誰でも簡単にデザインできたり、コンピュータの中で眺めるしかできなかった作品を実際にアウトプットできたりする「ファブリケーション」のトピックは年々増え続けています。そして、わたしもそんなファブリケーションを題材に研究する研究者の1人です。

まさに、「あるものを使う」ではなく、「誰もが作り手になる時代」ですね。

国際学会でも「ファブリケーション」に関する発表が増加

この連載の中で紹介したわたしの研究、「ぬいぐるみデザインシステム」や「ビーズデザインシステム」もその一例と言えますが、ほかにもたくさんの身近な問題があるので、いくつか簡単にご紹介したいと思います。

この分野の先駆けとなった研究に、現筑波大学の三谷准教授らによるペーパークラフトのための技術が挙げられます。少数の面から成る簡単な3次元ポリゴンモデルについては、それを直接平面展開することでペーパークラフト用の展開図を出力する「ペパクラデザイナー」が販売されています。

しかし、3次元スキャナなどで作成されたモデルは数万もの三角形の集合で表されているため、これを単純に平面展開するだけでは作成に膨大な手間が掛かり現実的ではありません。そこで,三谷先生らはこのような3次元モデルを「ストリップ」と呼ばれる細長い三角形の集合で表現された帯状の形の集合で近似し、展開図を生成する手法を提案しています。

展開図から実際にペーパークラフトが作られるイメージ図

生成された展開図にしたがって組み立てることで、実物のペーパークラフトを作成することができます。この研究はこれまでCGの学会で発表されるものはコンピュータの中に閉じていたのに対して、実際にペーパークラフトのウサギモデル(Stanford Bunny)を作成したというのでインパクトのある研究でした。

わたしはこのペーパークラフトの型紙を見て、「ぬいぐるみも研究になるかも!」と思い(今思えば安直ですが…)、ぬいぐるみを研究テーマにすることにしました。三谷先生とは、博士号取得後、先生の研究室にポスドクとしてお世話になったり、何ともご縁を感じます。

また、からくりおもちゃのような動きのあるおもちゃも、初心者がデザインするのは大変です。北京大学のZhu氏らは、動きを入力するとそれを実現するようなからくりおもちゃを作るためのシステムを提案しています。

からくりおもちゃでは、通常「カム」と呼ばれる機構をいくつか組み合わせて動きをデザインします。Zhu氏の提案するシステムでは、ユーザーはおもちゃの形状とそれぞれがどのような回転や進み方をするかを入力します。システムは、ユーザーから入力された動きを再現するようなカムの種類、組み合わせ、大きさなどを自動計算してくれるのです。

このシステムの出現で、自分だけのオリジナルな動きのあるおもちゃを作ることも簡単になりました。

3次元プリンターで形状を出力してみたら、あまりに細過ぎる部品の先に重たいパーツが付いていて、ポキッと折れてしまった、といった経験をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。そこでアメリカにあるパデュー大学のStava氏らは、コンピュータの中であらかじめ解析をして、似たような形状で補正をすることで実際に3次元プリンターで作成した際に、折れたりぐらつかないようにする技術を提案しています。

自分が作り手になるための技術や装置の普及

近ごろでは、レーザーカッターや3次元プリンター、3次元スキャナーなどが手軽に使えるようになってきました。これまでは特定の場所に行かないと使えないものでしたが、大学でもこれらの機材をそろえた研究室、研究機関が増えてきました。

FabLabやFabCafeの登場により、「ファブリケーション」が研究者以外にも身近なモノになってきている

また、研究機関だけでなく、FabLab(ファブラボ)やFabCafeなどでも手軽に一般の人が使えるようになってきています。CraftROBOのように比較的安価で手軽に使えるカッタープロッターも普及しています。

従来の設計・製作支援の分野のシステムはCAD(Computer-Aided Design) などのように専門家向けのモノが中心でしたが、これに対して、ここで紹介したような技術やシステムは初心者のユーザーを対象としたものであることも注目すべき点です。

通常、特性を熟知していなければできない「設計」をコンピュータでうまく支援することで、これまで熟練者しか作成することのできなかったオリジナルな工作・手芸作品を初心者でも手軽に作成することができるようになりました。

あるモノに自分が合わせるのではなく、自分に合ったモノを作る

これまでは出来上がったものを買ってくるのが普通だったさまざまな「モノ」。これらを自分でデザインし、工夫し、実際に作ってみることで、新しい発見や知見が得られることも非常に多いです。

自分で手を動かして作ってみることで、従来の問題点や難しさを理解することができるので、そこから新たな発想が生まれることもありますし、既存技術を工夫して使えば、楽に作る方法が提案できるかもしれない!といった発明にもつながったりします。

「あるモノに自分があわせるのではなく、自分に合ったモノを作る」

この方針はモノづくりだけでなく、プログラムや、もちろん実生活にも通じるとわたしは思っています。例えば、プログラムだと、使えるライブラリがなかったら自分にあったものを実装したりしますよね?

これが「料理」だったらどうでしょう? レシピ通りに作るのもアリですが、甘すぎるケーキのレシピだったら次に作るときにはお砂糖の量を調整したり、塩加減や味付けを自分好みに薄めたり。自分に合わせた料理を作るために工夫している人は多いでしょう。そう考えると、もうすでに皆さん「自分好みにアレンジ」ってしているんですよね。

わたしは薄味が好みなので、わたしの料理本は自分好みの味付けのメモ書き付箋がいっぱいです。

また、ガラケーだった時には携帯電話本体の色や画面を自分好みを選ぶしかなかったけれど、今はスマートフォンやiPadなどではたくさんの種類のケースが発売されていて、友だちとカブることはあまりありません。“豊富な種類の中から自分だけのモノを選ぶ”ことも、自分で作るだけではない、1つの選択肢だとわたしは思います。

もちろん、先に挙げたファブリケーション施設を使って、「自分だけのケース」をデザインし、作ることだってできる世の中になりました。

学会βチャンネルでもファブリケーション系動画が見られます

先日、第4回ニコニコ学会βが行われ、「やわらかメイカーズ」や「FAB100連発」と題して、ファブリケーションの分野で活躍する方々がたくさんの発表が行われました。生放送で中継されていたので、すでにご覧になった方も多いかもしれません。

わたしがここで挙げたのは、国際会議SIGGRAPHで発表された学術論文ばかりですが、このニコニコ学会βでは、それぞれ現場のまた違った話が聞けて面白いと思います。見逃した方は、ニコニコ学会βチャンネル にて、過去の動画一覧も見ることができますので、チェックしてみてはいかがでしょうか?

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