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「プレイヤーorマネジャー」の問いは本質的か?百度で『Simeji』開発を指揮する矢野りんさんに学ぶ

タグ : IME, Simeji, デザイナー, プロダクトマネジャー, 百度, 矢野りん 公開

 
百度でモバイルプロダクト事業部マネジャーを務める矢野りんさん

百度でモバイルプロダクト事業部マネジャーを務める矢野りんさん

adamrockerこと足立昌彦氏とともに大ヒット日本語IMEアプリ『Simeji』を開発、2011年に百度(バイドゥ)への売却を果たし、同社へと移籍したデザイナーの矢野りんさん。

足立氏がその後、同社を離れてカブクを立ち上げたのに対し、矢野さんは現在も百度に残り、プロダクトオーナーとして『Simeji』の開発を指揮している。

今回、弊誌は約4年ぶりに矢野さんにインタビューする機会を得た。

マネジャーへと立場を変えた彼女は、非エンジニアが開発チームを指揮することの苦労、プレイヤーとして第一線から離れることのジレンマと、どのように向き合っているのか。

矢野さんと『Simeji』の「今」を聞いた。

世界展開も視野にスタンプ機能開発に注力する『Simeji』

iOSとAndroidの累計1600万DLを達成した日本語IMEアプリ『Simeji』

iOSとAndroidの累計1600万DLを達成した日本語IMEアプリ『Simeji』

矢野さんの現在の肩書きは「モバイルプロダクト事業部 マネジャー」。日中にまたがる『Simeji』開発チームを指揮する責任者という立場だ。

日本側は主に企画や運用を担当、中国・深圳のグローバルチームが実際の開発を行っている。足立氏とたった2人で立ち上げたプロジェクトには現在、常時20~30人がかかわっているという。

先日、iOSとAndroidの累計1600万DLを達成したように、サービスは順調な伸びを見せている。そんな中、現在注力しているのは「スタンプ機能」の開発だ。

「IMEでありながらスタンプ?と思われるかも知れませんが、クライアントのスタンプ機能とは方向性が違うので競合しないと思っています。LINEさんのように著作権が発生する高いクオリティのスタンプにニーズがある一方で、ユーザー自身が撮った写真や描いた絵をそのままスタンプとして送りたいというニーズもある。クオリティよりもオリジナリティを重視した後者のような仕組みを、『Simeji』の中で実現したいと考えているんです」

『Simeji』は日本語のIMEだが、百度の開発チームではそこから派生するようにグローバルIMEプロダクトの開発にも着手している。スタンプ機能はこうした世界展開も視野に入れた開発のようだ。

「ノンバーバルのコミュニケーションへのニーズは世界的にも高まっています。弊社としてもグローバルに受け入れられるものを作ってみたいという野望はあって、日本で育まれた絵文字や顔文字の文化をそこに持ち込むというのは、自然な流れだと思っているんです」

ユーザーのクリエイティビティをサポートするという発想は、実はデザイナーとしての矢野さんが持つ、根源的な考え方からつながったものでもある。この点については、記事の後半で詳しく触れたい。

失敗を経て「お互いに助け合う」マネジメントに開眼

現在の仕事はマネジャーとしてチームを動かすことに特化しており、デザイナーとして自らが中心となって手を動かす機会はあまりないという。

「フリーランスとして活動していた際にも開発チームを動かす経験自体はあった」という矢野さんだが、ここまではっきりと「マネジャー」へと立場を変えたのは、もちろん今回が初めてのことだ。

「手を動かすことから離れるのは、最初はやっぱり自分の価値がなくなるみたいで嫌でしたよ。入社してすぐは周りからはファウンダーとして見られたし、初めて部下を抱えたということもあったので、何とかデザイナーとしての格好をつけようとして、知識を振りかざした時期もありました」

しかし、「こうしたマネジメント手法はうまくいかなかった」と矢野さんは言う。自身の胸の内にも開発チームに対する不満が募り、ある時考え方を変えた。

「デザイナーもDL数とかMAUとか、全体の目標に貢献できなければ存在価値がない。でも、そうしたものにコミットしようと思うと、デザイン的な理屈は通用しないし、コンフリクトのネタにしかならない。そこで、『お互いに助け合う』という発想に変えたところから、うまく回り始めた気がします。そこからは自分でデザインすることにこだわらなくなった。むしろ今では、周りの人に仕事を作り出す存在でありたいと思うようになったんです」

エンジニア出身ではないということも、マネジメントする上ではそれほど不利にはならなかったと矢野さんは振り返る。

「開発側のディレクターが優秀で、うまく信頼関係を築けているというのが大きいですが、自分自身もエンジニアリングが分からない分、謙虚な気持ちになれるし、上から無理な依頼をすることがなくなる。また、Twitterに張り付いて、『Simeji』に関するつぶやきからニーズを探るといった泥臭いユーザーサポート業務にも首を突っ込み、そこで得たものを開発陣に還元することもあります。知らないがゆえに浅く広く知ろうとする。その結果、みんなにとって便利な存在になれたらいいと思ってやっています」

デザイナーとしての自信があるからこそ、割り切れる

矢野さんはなぜプレイヤーからマネジャーへと立場を変えることをすんなり受け入れることができたのか

矢野さんはなぜプレイヤーからマネジャーへと立場を変えることをすんなり受け入れることができたのか

もっとも、そう割り切れるのは「その気になればいつでもデザイナーとしてやれる状態でいると思っているから」と矢野さんは言う。

「バナーからパッケージデザインまで、社内で発生する地味な制作仕事は現在も全部私が拾いにいっていますし、Androidのマテリアルデザインがどうとかいったような勉強も常にしていますよ。自分自身のアイデンティティはマネジャーではなく、今でもやっぱりデザイナーかな」

専門性は研鑽しつつ、一方で「広く浅く」何でもやらなければならないというのは、スタートアップの開発トップに求められる要素と似ているかも知れない。矢野さんがかつての『Simeji』開発のパートナー、現在はカブクのCTOを務める足立氏を「一番の理解者」と呼ぶのには、夫婦という間柄以上の意味が込められている。

ただ、開発者は黙々とコードに向き合っていても、その成果が「動くシステム」という第三者に分かりやすい形で示されるのに対し、「成果が見えにくいデザイナーは尊敬を得るのがより難しい」とも言う。

「ある程度のキャリアを踏んだデザイナーが自分のセンスや理論を偉そうに振りかざしがちなのは、そうした理由なのかも知れません。そういうふうに振る舞うことで、逆に人の信頼を失い、仕事を減らす結果になる例をよく目にします。広告畑のデザイナーは自己表現がそのまま飯の種になるのでそれも致し方ないのかもしれないですが、プロダクトのデザインは1人ではできないもの。だから、自分の評価にどん欲であってはいけないんです」

矢野さんのこうした考え方は、マネジャーになった今になって急に身に付けたものではなさそうだ。弊誌で過去に行ったインタビューの中でも、その考え方の一端には触れることができる。

>>[連載:八反田 智和] 矢野りんさんに聞く-「デザイナーって、『自分を超えた自然の成り行き』を形にする人だと思うんです」

デザイナーは自分を専門家と思い上がらない方がいい

「プロダクトのデザイナーは自分を『デザインの専門家』だと思い上がらない方がいいと思っているんです。なぜなら、そのプロダクトがいいか悪いかを判断するのはユーザーであって、デザイナーではない。デザイナーの仕事は、ユーザーからのフィードバックを受けて、そのどれを採用するかをジャッジすることに過ぎません」

「デザインなんて誰でもできる。こういう知識はオープンになってしまえばいいと思っている」とも話す矢野さん。過去に著した書籍のタイトル『サルでもわかる!デザインの本』にも、こうした姿勢ははっきりと表れている。

冒頭で触れた開発中のスタンプ機能が、ユーザー一人一人がクリエイティビティを発揮するためのものとして設計されているのも、まさにこうした理由からだ。

弱い犬ほどよく吠える。矢野さんのスタンスは、その正反対のように映る。プレイヤーとしての自分に自信を持っているからこそ、つまらない権威や専門知識に固執することがない。

同時に矢野さんは、手段や立場ではなく、「ユーザーにとっての良いプロダクトを生み出す」という目的に忠実だ。「プレイヤーかマネジャーか」といった、モノづくりに関わる多くの人が抱えがちな悩みから解放されているのも、その辺りにヒントがあるように見えた。

取材/伊藤健吾 文・撮影/鈴木陸夫(編集部)




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